冒険者の酒場には#2 今日も何かが起こる◆2(終)
_依頼は唐突に終わった。いくらかばかりのキャンセル料が払われて、エンジェとミェルヒは自由の身となった。 「恐らく少しずつサクラを減らしているんだ。長居されると回転率が悪くなるからね」 ミェルヒはそう言って、部屋の中で出かける準備をしている。 41
2016-07-09 20:38:53_ナィレンのボロアパートに彼らは住む。当然、空調など無く、部屋は夏真っ盛りといった感じだ。エンジェはいつも半裸で過ごすし、ミェルヒは鎧(呪いで脱げない)の中に氷袋を入れてしのいでいる。 限界に達すると、彼らは出かけるのだ。用もないのに。 42
2016-07-09 20:44:55_こういうとき彼らは大抵酒場に行って、安い飲み物で涼む。酒場にはエンジン付き空調設備があるし、注文さえすればいつまでも長居できる。常識の範囲内で。 「冷えたビールを飲もう、エンジェ」 「イヒヒ、賛成」 エンジェが気持ち悪く笑う。 43
2016-07-09 20:50:04_午後の日差しが最高潮に達する中、二人は日陰を選んで街を歩く。ミェルヒはいつも通りの赤錆の鎧。エンジェはネズミ色・絵の具汚れ・ワンピース。 陽炎が加熱したセラミックプレートの道をぼんやりとゆがめる。風が無い、不親切な日。蒸気式自動車が何台も行き交い、湿度を上げる。 44
2016-07-09 20:54:43_街の景色は移り変わる。木の板とセラミックプレートを無造作に組み合わせた不安定な建築物が、いつまでも増築と改築と新築と解体を繰り返している。 それらはまるで生きているかのように、白く巨大で無機質な高層建築……旧時代の遺物を取り囲んでいた。 45
2016-07-09 20:58:31「ナィレンは変わっていくね」 馴染みの店が閉店したのを見かけて、エンジェが呟く。 「全てのものが形を変えていくさ」 「わたしたちも、変わっちゃうのかな」 「さぁね……変わりたいなら変わったと思えばいいし、逆なら変わらないと信じればいいんじゃないかな」 46
2016-07-09 21:03:44_エンジェはそれを聞いて猫のように笑った。 「ミェルヒは変わんないよね~」 「何でさ」 「だって、いつもお酒飲んでるか、何か食べているか、鉈を振っているかだけだもん」 「褒め言葉だね」 「イヒヒ! 前向きィ~」 47
2016-07-09 21:10:10_自然と二人は例の店に向かっていった。新築の酒場。外観は他の建物と同じ、木材にセラミックプレートを組み合わせたあばら家。 店に入ると、たくさんのお客の賑わいが迎えてくれた。 「もう心配ないんだね」 「いや、最初から心配なんていらなかったかもね」 48
2016-07-09 21:14:28_カウンター席いっぱいに背を屈めて座る騎士、立ちテーブルには妖しく頬杖を突く女魔法使い。重武装の戦士から、キザな剣士まで。店の奥では、踊り子のダンスや音楽の演奏が行われている。 エンジェとミェルヒは立ちテーブル席へ。 「おう、今日も来てくれたな!」 店主が笑った。 49
2016-07-09 21:19:44【用語解説】 【ナィレン】 キシュアの南、ニェスの南東にある巨大遺跡都市。かつてはエシエドール帝国の首都であったが、帝国が崩壊し、暴走した都市は放棄された。中心部の高層建築は化け物の巣になっており、後世に築かれた無秩序なあばら家がドーナツ状に遺跡を取り囲んでいる
2016-07-09 21:32:59改造人間のゼシェルとフワンコは飛行船の格納庫で夢を語り合う。 「人生で一番楽しい日を作るんだよ」 フワンコの言葉に導かれて、ゼシェルは思い出作りを始める……彼の兵器が轟音で全てをかき消す前に。 次回「多銃身回転砲人間」 全50ツイート予定。実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-07-09 21:40:16