2016年7月10日

【習作】春宮が宴で少女(をとめ)を得る話。

秋風の末吹き靡く萩の花ともにかざさず相か別れむ
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@create_box 【入内ネタ投下①】 「後宮へはあの娘を入れます」宴もたけなわ。野朱は未だ酒の呑めない若君に気を配りながら、護廷の将や大臣の盃を満たしていた。上座のどよめきは遠く、その奥、御簾の内の帝や春宮の尊い存在は天上の錦雲だ。(妃《みめ》をお選びになられたのね)

2016-07-09 22:47:07
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@create_box ② 寵愛された春宮妃が亡くなられて二周忌も過ぎ。春宮には幼い皇子二人が遺された。それを臣下が放っておくわけがない。皇族府筋や藤の姫君か、やんごとない乙女が選ばれたのだろう。この世情の中、後宮が華やぐのは良いことだ。「……あけ、のあけ」「漓多さん、どうか」

2016-07-09 22:54:25
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@create_box ③ されたの、という言葉は続かなかった。漓多は青い顔でひたすら袖を引っ張っている。更に酒瓶を傾けた西織の大臣の様子がおかしい。遠い上座とこちらを忙しげに見つめている。そこでやっと野朱は誂えられた宴の最上席をみやった。豪奢な帳の前で控えた典侍と視線があう。

2016-07-09 22:59:50
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@create_box ④ 先程まで、狩りの後の興奮やざわめきの熱が、冷めきったように。囁きの波がまっすぐ『野朱』に向かう。「そう。彼処の、赤金色の髪に、琥珀の瞳をもった乙女。わたしはあの者を所望します」衣擦れが響いたあと、ひどく似つかわしくない無邪気な声色が風にのって届く。

2016-07-09 23:05:00
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@create_box ⑤ 髪と瞳の色まで指摘されたけれど、野朱は周りを見渡した。女官はもちろん、薬狩りで春宮に見初められようと父や兄に同行してきた姫君たちも。「あちらの、将軍家の侍女をこちらに」「春宮、またご冗談を」口火を切ったのは右府で、野朱は首が折れんばかりに頷いた。

2016-07-09 23:14:24
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@create_box ⑥ きっとお酒をすごされたのだ。だって、そうでなければおかしい。自分は将軍家の子守女中。宮中では下臈女房にも劣る出自だ。それに、春宮は野朱の髪に控えめに挿された紫草の意味を“知っている”のだから。「……お、おたわむれを……」やっと絞り出した声は震えていた。

2016-07-09 23:28:56
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@create_box ⑦ 「春宮はご慧眼であらしゃいますなぁ。主上」御座の近くにある高台から女の声がかかり野朱は身体を震わせた。皇族府の中でも力のある宮家から入内した弘徽殿の大后。傍らの女房に愉しげに語りかける。「あの色の髪のお血筋は〝山犬〟さんや。すぐ御子さんが生まれるやろ」

2016-07-09 23:39:03
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@create_box ⑧ 「お犬さんを後宮にいれるのは妾も喜ばしい」何を、言われているのか。血の気が下がり足元の感覚がなくなってきた。母を、兄を、父達を、愚弄されているのに、指の一本さえ動かない。大后に春宮は微笑みかえした。「ええ、大后様。これで父帝のお望みも叶えられまする」

2016-07-09 23:44:34
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@create_box ⑨ かたりと視線の端で何かが動いた。それが青龍代の養父にかわり宴に出席していた若君だと気づく前に彼は口火を切った。「先程から私の傅役に結構なお言葉を頂戴し恐悦至極に存じ奉ります」切れ長の瞳で真っすぐ上座を見据え、口端を釣り上げた少年に武家の長達がたじろぐ。

2016-07-09 23:50:31
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@create_box 「ああ、青龍の若君。大きくなられたね」九つを迎えたばかりの幼子が発するものとは思えない覇気は春宮にとってそよ風にも満たないものだった。「野朱は優秀な傅故、お見初め頂いたことは大変喜ばしく。―-されど、将軍家の家人を品のように取り交わされる。こは如何に」

2016-07-09 23:56:08
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@create_box ⑪ 若君は明らかに憤懣やるかたないという表情の乳母を見上げうっそりと目を細める。「奥の女中はこの大姥局の管理下にございます。万葉人ならいざ知らず、将軍家を通さずにそのような事がまかり通っては、いらぬ種を朝廷と将軍家に植え付けることになりましょう」

2016-07-10 00:01:16
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@create_box ⑫淡々と紡がれる言葉に、弘徽殿の大后の父・右大臣は舌打ちまじりに吐き捨てた。「東夷(あずまえびす)めが」若君の周りを固めていた東国武士団の顔色は変わらないが、纏う気配が刃のように鋭くなる。貴族は大仰にすくみあがった。「おお怖い。東国は雅を解さぬ土地柄や」

2016-07-10 00:09:28
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@create_box ⑬「難波潟の歌のように、帝や日嗣の皇子さんが国見で娘を見初める話なぞ……」「けれど山犬さんが御所にお入りになるのは……」もう声をひそめようとする者もいない。この風向きは良くない。今の世情の中、将軍家と皇に軋みを生じさせるなど、もってのほか。野朱のため等に。

2016-07-10 00:16:06
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@create_box ⑭心の臓を、簪で突いてしまいたかった。けれどそれは許されない。将軍家への御恩がある。風で乱れた髪から紫草がはかなく落ちる。いま、あの人はここにいない。それは、救いなのだろうか。傍にいてほしい。けれど、いて欲しくはない。何かを察した若君が動こうとするのを制し

2016-07-10 00:20:40
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@create_box ⑮野朱は前に進み出た。春宮が満足そうな気配を見せる。大姥局が小さくやめなさいと手を伸ばしたけれど、きっぱりと首を横に振る。まだ言葉を畳みかけようとする若君に視線を向ければ、大姥局は控えてた息子に目配せをした。それから深く地面に額づく。「お召しに従います」

2016-07-10 00:25:21

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