千石電商「実は社内では反対意見も…」秋葉原の老舗「ネジの西川」の事業引継ぎの熱い舞台裏を聞いた

専門店の事業を丸ごと引き継ぐって難しい
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こんにちは。高校生の頃、秋葉原に行くたびに特典テレカを買い漁り、学習机の鍵がかかる引き出しに並べて保管していたライター、シュゴウです。

当時、2010年頃の秋葉原は今よりもっと「電気街」としての性質が強く、大小さまざまなPCパーツや電子部品のお店が並んでいました。

しかし、インバウンドが押し寄せオフィスビルが立ち並び、観光地・ビジネス街としての側面が強くなっていった最近の秋葉原からは、昔ながらの老舗パーツショップがどんどん姿を消していってしまいました…。

そして、昨年末には秋葉原の老舗ネジ専門店「ネジの西川」こと西川電子部品までもが閉店を発表。

豊富な品ぞろえと、見ただけでどのネジか特定する店員さんの半端じゃない知識から、「ネジ最後の駆け込み寺」「西川にないネジなら諦めろ」と言われるほど。秋葉原を代表するショップの一つだっただけにその衝撃は大きく、Xでも多くの惜しむ声が上がりました。

【秋葉原からネジはなくしません】「ネジの西川」廃業発表から急展開

しかし、「ネジの西川」廃業の発表から約1週間後、【秋葉原からネジはなくしません】という一文から始まるポストを秋葉原の老舗電子パーツショップ「千石電商」公式アカウントが投稿します。

その内容は「千石電商」が「ネジの西川」のネジ販売業務を引き継ぐというものでした。

秋葉原の老舗パーツショップが、閉店を発表した別の老舗店を引き継ぐ異例の展開にXでは歓迎と驚きの声があふれ、上記の投稿は2.6万リポストされるなど大きな話題に。

2024年4月12日(金)、千石電商 新2号店としてオープン

そして、引き継ぎの発表から5ヶ月後の4月12日に、「ネジの西川」の店舗をそのまま利用する形で千石電商 新2号店がオープンしました()。

※編集部注:このあと記事内でも書いていますが、「ネジの西川」で扱っていたネジの販売は新2号店でははなく、本店2階に移動しましたのでご注意下さい。

千石電商 秋葉原本店副店長の高瀬さん

ということで、今回はネジ販売業務が開始された4月16日に千石電商に取材に伺いました!

「正直に言うと社内でも反対意見があった」

「ネジだけ引き継いでやっていくのは絶対に無理」

…と、実はいろいろな課題があったという引き継ぎの舞台裏を、秋葉原本店 副店長の高瀬さんにお聞きしました。

実は水面下で進んでいた!? 事業引き継ぎの舞台裏

千石電商 新2号店

本日はよろしくお願いいたします!

4月にオープンしたこちらの千石電商 新2号店ですが、もともとは「ネジの西川」の店舗だったんですよね?

はい、もともとあった千石電商の「ラジオデパート店」「2号店」を閉店して、代わりに西川さんの店舗だった場所を「新2号店」としてオープンしました。

ちなみに西川さんから引き継いだネジは本店2階で販売しています。

今回の事業引き継ぎのニュースはネットでも話題になっていましたが、どのような経緯で実現したのでしょうか? 

西川さんは70年以上、弊社は50年以上秋葉原で営業を続けており、以前より西川さんと弊社の社長同士で交流がありまして。

実は西川さんが閉店を発表する前から「閉業するからあとは千石に任せたい」とお話がありました。

事前に西川さんサイドから提案があったんですね!

でも、「ネジの西川」閉店の発表があってから「千石電商」が引き継ぎを発表するまでに、1週間ほど期間が空いていたと思うのですが…?

早く発表して皆さんを安心させたかったのですが、引き継ぎのお話が正式にまとまるまでに少し時間がかかってしまいまして…。

「ネジの西川」閉店に悲しむ声も多かったので、引き継ぎ発表までの1週間はちょっと心苦しい期間でした。

新2号店前には「ネジの西川」こと西川電子部品 代表からの祝い花が

「ネジの西川」さんは同じく秋葉原で営業を続けてきた、いわば同志のような関係でもあったと思いますが、閉店すると知った時はどのようなお気持ちだったのでしょうか?

やはり同じ秋葉原の部品屋として寂しい気持ちになりましたね…。

西川さんは老舗で長らく営業されていましたし、無くなったら困る方はかなり多いはずなので、「なんとかしたい」という気持ちはかなりありました。

やっぱり電子工作や自作PCを作る人にとって、ありとあらゆるネジが揃っている「ネジの西川」は貴重な存在なんですね。

そうですね。弊社の従業員もプライベートで利用していた人は多かったですし、弊社で扱っている部品が壊れた時も西川さんに持っていくのですが…やっぱりあるんですよね、対応するネジが。

千石電商で人気商品のアーケードコントローラーパーツ

ネットでは「西川はすべてを解決する」などと言われていましたが、千石電商のスタッフさんにも「ネジの西川」ユーザーとしてお世話になっている方が結構いたんですね。

「実は社内では反対意見も――」ネジを扱う上で避けては通れない課題とは?

新2号店2階 楽器パーツエリア

西川さんサイドからネジ販売業務引き継ぎの提案があったというお話でしたが、業務引き継ぎに関しては社内で事前に話し合いなどはあったのでしょうか?

実は社内でけっこう会議をしたのですが…正直言って賛否はかなり分かれました。

え…そうなんですか!?

満場一致で事業を引き継ぐことになったのかと思いきや…。

やはり膨大な種類のネジを取り扱うとなると、レジ打ちの難易度も上がってしまいますし、お客様からの質問に応えるのも困難になってきますので…。

ネジの専門知識は短期間で身につくものではないので、「引き継ぎたいけど課題もあるよね」という意見が一番多かったですね。

ネットでは「ダメ元で探しに行った詳細不明の特殊ネジがすぐに出てきた」など、「ネジの西川武勇伝」が数多く語られていますが、ネジ1本持ってこられて「これと同じのください!」と言われても、普通は分かんないですよね…。

ただ、今回引き継ぐにあたって西川さんで働かれていた従業員を迎え入れたので、ネジの専門知識に関しての懸念はある程度解消できたと思います!

ネットで数々の武勇伝を生み出していた西川のベテラン店員のおっちゃんが千石電商にも!? これは今後ネジで困った人も心強いですね!

他の従業員が西川さんのレベルに到達するにはまだまだ長い時間が必要なので、そのあたりは温かい目で見ていただけると助かります…。

事業の引き継ぎには、ネジだけでなく知識も引き継いでもらう必要があったんですね。

ネジだけ引き継いでやっていくのは…絶対に無理ですね。

西川のおっちゃん、頼もしすぎる。

ネジコーナーで目の当たりにした「ネジの扱いムズすぎ問題」

ここからは、千石電商の「新2号店」から「秋葉原本店」に場所を移動。

「ネジの西川」から引き継いだネジコーナーを取材させていただきました!

ネジコーナーは「秋葉原本店」の2階にあります。

ネジの販売が開始された4月16日に取材をしたのですが、ネジコーナーはオープン初日から多くのお客さんで賑わっていました。

ネジコーナーにはこのようにズラ~っと商品棚が並んでおり、引き出し一つ一つにサイズや種類の異なったネジが収まっています。一体何種類あるんだ…。

ちなみにこの年季の入った棚はもともと「ネジの西川」で使われていたものだそう。商品だけでなく備品も引き継いで使用しているようです。

中にはこんな小さなネジも。在庫管理や棚卸し作業がめちゃくちゃ大変そう…。

もちろん普通の商品と違ってバーコードが個別についてはいないので、レジ打ちも相当な難易度となってきます。

試しに適当に引き出しを開け、ネジを取り出して比較してみましたが…

普通に分かんなすぎます。

こちらのスペーサーはサイズによって値段が違うのですが、

このように各サイズが並んでいても見分けづらいので、どれか一つだけ持ってこられた場合、判別するのはかなり難易度が高そうです。

一応、レジ側でこのような見本表を用意しているようですが、すべて揃っているわけではなく、当分は売り場の値段を確認するなどして対応するそう。これは確かにレジ打ちが大変だ…。

ネジだけでなくコネクタ類も「ネジの西川」から引き継いで販売しているようなのですが、

日圧とは製造メーカーである「日本圧着端子製造」のこと

見た目も使い方も違いが分かんなすぎるうえ、名前が「日圧B4B-PH-KS」などとパスワードみたいで、覚えるのがめちゃくちゃ大変そうな謎パーツがズラ~っと並んでいました。

「日圧のB4B-PH-KSを4個とSHR-04V-S-Bを2個ください」と言われたら大半の人は「???」となること必須なので、高瀬さんの「商品だけ引き継いでやっていくのは絶対に無理」という発言は大げさでもなんでもなかったんだな…と思い知らされました。

変化の激しい秋葉原で老舗パーツショップが生き残るための意外な生存戦略とは…?

ネジ売り場もコネクタ売り場も「これぞ秋葉原」といった感じのニッチすぎる売り場でなんかワクワクしちゃいました!

最近の秋葉原ではこういった昔ながらの老舗パーツショップの閉店が相次いでいますが、千石電商さんは50年にわたって営業を続けられていますよね? 何か生存戦略のようなモノはあるのでしょうか?

ウチは昔ながらの部品は変わらず扱い続けながらも、時代にあった新しい商品も入荷しています。

各売り場の担当がかなりの自由度を持って常に何かしらの新商品を入荷しているので、結果的にいろんなお客さんに来てもらえているのかなと思っています。

なるほど。ちなみに最近人気の「時代にあった新しい商品」って何かありますか…?

Xでちょっとバズったんですけど、麻雀牌のバラ売りはめちゃくちゃ売れてますね!

バラの麻雀牌が「時代にあった新しい商品」なのかは微妙なところですが…そもそも本当にそんなに売れているんですか?

めっちゃ売れてます。人気すぎて「白牌2つ取り置きお願いします!」って電話で予約がきます。

バラ麻雀牌、思ってたよりめちゃくちゃ人気だった…。

麻雀牌のバラ売りは高瀬さんのアイデアだったそう

私が麻雀好きで、プロのリーチモーション(リーチを行う時の牌さばき)を練習したいと思ってプライベートで探していたんですけど売ってなかったので、「じゃあ自分で仕入れればいいや」とお店で売ってみることにしました。

各売り場の担当さん、想像以上の自由度だった。

本店入口ではオリジナルTシャツも

最近では千石電商のオリジナルグッズも作っていますが、これも結構人気で今では売り切れちゃってる種類もあるくらいです!

「需要不明」という店の看板も好評につき配布終了に…

最近はXも力を入れていますね! 

新商品の紹介やフォロワー限定のキャンペーンなども実施しているので、よければ御覧ください。

変化の激しい秋葉原で生き残り続けるにはこれぐらいの適応力が必要なんですね!

「千石電商なら何でも揃う」を目指して日々努力してまいりますので、今後もネジともどもよろしくお願いいたします!

大阪日本橋店でもネジ販売を開始!

【秋葉原からネジはなくしません】に込めた思い

今回取材を通して、「実は社内でも意見が割れた」というネジ販売業務引き継ぎの困難さを、身を持って感じることができました。

それでも最終的にネジの販売を引き継いだのは、【秋葉原からネジはなくしません】という一言にすべてが表れているのではないでしょうか。

ちなみにこの【秋葉原からネジはなくしません】という一文、高瀬さんいわく…

「これ私が勝手に書いちゃったんですけど、すごい勢いで拡散されたので ”ヤバいヤバい!”と思って後からあわてて社長に確認を取りました」とのことでした。

ネットでみんなが感動してたフレーズ、めっちゃ事後承諾でした。

以上、シュゴウがお送りしました。

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シュゴウ


webライターをしながら築85年のボロい古民家に暮らしています。ご連絡はDM・メールまで(shugou17@gmail.com)
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