米国の1973年戦争権限法の問題点について:リビア空爆の事例

米国には1973年戦争権限法というものがあり、大統領は紛争への米軍の投入=武力行使から48時間以内に議会に報告し、かつ60日以内に議会から武力行使容認決議を得られなければ30日以内で撤退を開始しなければならない(全体では90日以内で撤退を完了しなければならない)ということを定める。だが今回のリビア空爆は武力行使の開始から60日を過ぎても撤退することはできず、武力行使容認決議を得られることも困難な見込みだ。リビア空爆のような国際的責務としての武力行使を、議会内対立という国内事情で一方的に中断させてしまう戦争権限法の規定は妥当か、が改めて問われ直そうとしている。
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fj197099 @fj197099

米国に1973年戦争権限法というものがある。米国憲法は上院に宣戦布告の権限があるとする一方で大統領を米軍の最高司令官と位置づけている。すなわち武力行使の権限が立法府と行政府のどちらにあるのか必ずしも定かではない。そのため、20世紀以降の米国では宣戦布告なき武力行使が多かった。

2011-05-25 21:51:52
fj197099 @fj197099

米国史において、実は正規に宣戦布告されたのは僅か五回でしかない。1812年の米英戦争、1846年の米墨戦争、1898年の米西戦争、1917年の第一次大戦、1941年の第二次大戦である。第二次大戦後の全ての武力行使は朝鮮もベトナムも湾岸も全て宣戦布告なしで行われている。

2011-05-25 21:56:36
fj197099 @fj197099

1964年、米議会は所謂トンキン湾決議によって米軍のベトナム戦争への本格介入を容認したが後になって決議のきっかけとなった北ベトナムによる二度目の襲撃が事実でなかったことが分かり、議会は大統領の武力行使の権限に制約を掛ける必要を感じた。それが成就したのが1973年戦争権限法である。

2011-05-25 22:00:03
fj197099 @fj197099

1973年戦争権限法は時の大統領ニクソンの拒否権を乗り越えて両院の2/3以上の賛成による再可決で成立したが、それは大統領が武力行使をするに当たって武力行使から48時間以内の議会への報告と60日以内の議会からの承認、それが満たされぬ場合は30日以内の軍の撤退を求めるものであった。

2011-05-25 22:02:30
fj197099 @fj197099

その後の大統領はいずれもこの1973年戦争権限法を憲法に定められた大統領の権限を侵すものとして容認していないが、しかしその決議の内容には従っている。すなわち武力行使から48時間以内に議会に通告し、60日以内に議会からの承認(武力行使容認決議)を求めてきたのである。

2011-05-25 22:04:27
fj197099 @fj197099

このように、現在の米国では大統領が武力行使=米軍を国外の紛争に投入する場合、事前に議会からの武力行使容認決議を取り付けるか、事後でも60日以内に武力行使容認決議を取り付けることが国内法上求められている。議会は何と言っても予算を握っている。予算を止められれば武力行使はできないのだ。

2011-05-25 22:06:27
fj197099 @fj197099

現在まで、湾岸もコソボもアフガニスタンもイラクもその他のソマリアやボスニア等の細々とした武力行使も皆このスタイルで行ってきているのだが、今回、それが問題になりそうなのがリビアにおける軍事活動なのである。リビアへの武力行使は今年の3/19に開始された。オデッセイの夜明け作戦である。

2011-05-25 22:08:52
fj197099 @fj197099

NATOとしての作戦名は「統一された保護者」であるが、米軍としてはあくまで「オデッセイの夜明け」作戦である。さて、そこから60日を数えると5/20に戦争権限法で定められた期限が来るという。すなわち米軍は30日以内の撤退を開始しなければならない訳である。だがその兆候は見えていない。

2011-05-25 22:38:29
fj197099 @fj197099

法律上は全体で90日までに撤退が完了するか、あるいはそれまでに議会の武力行使容認決議を得られればよいが、リビア作戦は米国民に不人気である上に議会は民主・共和両党間の対立が激しく残り30日以内に決議を求めることは極めて困難な情勢である。しかしリビア情勢も米軍の撤退を許す状況にない。

2011-05-25 22:41:31
fj197099 @fj197099

すなわち米軍は一度はNATOに多国籍軍の指揮権を預けて軍事作戦の中心を英仏に任せ、自身は後方支援に回ろうとしたのだが、結局英仏にそのような能力がない状況で無理に任せる形となり、かえって軍事作戦が長期化してしまった。そこで米国はやむなく無人機を投入せざるを得なくなっている。

2011-05-25 22:44:02
fj197099 @fj197099

現在は欧州諸国から米国の不作為を嘆く声が次第に大きくなっている状況だ。米国はもっと積極的に攻撃機を投入することが求められており、国内事情による撤退など考えられない情勢である。さてそこで問題になるのが1973年戦争権限法の位置づけである。守れない、守るべきでない法律をどう考えるか。

2011-05-25 22:46:25
fj197099 @fj197099

本来、戦争権限法は大統領が議会のチェックのないままで自由に武力行使を行うことを制約する枠組みであった。それはベトナム戦争の経験を教訓としていた。しかし時代は変わった。米国の武力行使には国際的な責務を果たすものも増えた。冷戦の延長としての宣戦布告なき武力行使ばかりではなくなった。

2011-05-25 22:50:05
fj197099 @fj197099

すなわちリビア空爆は明示的な国連安保理決議のマンデートに基づいた市民保護の為の武力行使である。それは米国が私欲で行う武力行使ではなくむしろ干渉を避けたいと願う類のものだ。しかし安保理決議の目的は米国の関与なくして達成できない。米国は国際的責務を果たす為に干渉を余儀なくされている。

2011-05-25 22:52:28
fj197099 @fj197099

こうした武力行使に当たって米国世論が不人気だから、米国議会が政争に明け暮れていて武力行使容認決議が出せないから、という理由で戦争権限法に基づき一方的に武力行使から撤退するのは国際社会に対しては大きな裏切り行為といえるだろう。それは孤立主義であってかつ単独主義とも言える行動である。

2011-05-25 22:54:25
fj197099 @fj197099

そうした単独主義的な撤退は欧州の同盟国ばかりか国連、国際社会全体にも多大な迷惑を掛けるものであり、仮に実行すれば米国の国際的評判が大きく低下すると言う意味において、米国自身の利益にもならないものであろう。だとすれば戦争権限法という法律の妥当性が改めて問われ直しても良いはずである。

2011-05-25 22:56:32
fj197099 @fj197099

すなわち、このリビア空爆という事例において、米国の1973年戦争権限法のあり方についての議論が行われる可能性が高いと思うのである。オバマ政権は期限の90日以内に武力行使容認決議を得ることも出来なければ、戦争権限法に基づいて一方的に撤退することも出来ない可能性が高いのである。

2011-05-25 22:57:54
fj197099 @fj197099

法律を守れないことを批判するのは単純だが、武力行使や国際社会との係りに関する問題では法律の方の妥当性を問い直すことも重要だ。法律を守れば米国の国益を損なう可能性もあるのである。戦争権限法の90日という規定は妥当なのかが今後、米国の法学者や政治学者による議論の対象になるだろう。

2011-05-25 22:59:52
fj197099 @fj197099

ちなみにこの問題、日本にとっても無関係ではないのである。仮に日本が侵略を受けて日米安保条約第五条が発動され米軍が救援に来ても同じように戦争権限法の適用を受けるのである。つまり90日以内に武力行使容認決議が得られなければ米軍は撤退する。そんなことを許してよいのかが問われるのである。

2011-05-25 23:01:25
fj197099 @fj197099

米国の軍事力その行使というものは余りにも深く国際社会の秩序と言う問題と絡んでいるために、それを議会の事情という国内的要素で中断することが出来てしまう戦争権限法の問題は根が深いのである。今回は興味深い事例だ。日本人は余り関心ないだろうが、重要な問題としてフォローが必要なのである。

2011-05-25 23:03:31