- norimakeith
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永遠じゃないことは分かっていた。だから自由だった。日焼けした肌の匂い、年上の赤ワインと上質なハシシ。魔法の絨毯みたいにぐにゃりと歪む足元が、これは夢よ幻よと笑うけど、シーツに包まり堕ちてしまえば同じこと。一生なんて言葉は海に沈めて、未来は左手で握り潰して、今はその眼に囚われよう。
2010-07-15 01:14:55正午に近い午前の日差しと鴎の鳴声が夜更かしの邸宅を揺り起こす。テーブルに並ぶ分厚いステーキ、せめてラムチョップにしてくれたらね。ウィマダム、明日の朝食をお楽しみに。房からもいだ葡萄一粒、寝起きの口に放り込めば深く重なり煙草の匂いと果汁で溢れ、嚥下。まだ物足りない?ウィムッシュー。
2010-07-21 04:49:51ベッドの上、猫のように丸くなり目を閉じ呼吸を整える。周りには小さな空の瓶が転がり、床には使ったばかりのニードルが落ちている。突きつけられたのは、温かく幸せな灯が消えた冷たい現実。これが罰か、なら何故俺を連れて行かない。零れた言葉は枷となり、嬌声に似た女の泣き声だけが残響し続けた。
2010-08-26 03:50:28帰宅して随分経つというのに、留守を預かった男は目を合わせようともせず鍵盤に向かい続けている。不機嫌なブギ。馬鹿正直に嫉妬されるのも悪い気はしないけど。「愛してるのはあなただけよ」「…当然だろ」「これ台詞の練習だけど?」やっとこっち見た。さて怒れるご主人様のお望みは?Action!
2011-03-10 14:56:13夜毎ベッドにいる女が違ってもそれをいちいち気にしたりはしない。豊満な胸と尻を揺さぶって喘ぐ姿が偽り塗れであるにせよ、己の欲を吐き出すには申し分のない容姿であることには違いないのだ。―そう思おうとしていた、正しくは。甘い鳴き声も弾力のある肉体も、これが自分の求めているものであると。
2010-05-08 02:47:55「キース?ああ、ご乱交の最中にまたぶっ飛んだとかでジョンが部屋まで担いでいったよ。新しいの持ってってやれば?注射器は?」「いやいい」ファック、誰に対して呟いた言葉なのか自分でも分からないままエレベーターに乗り最上階のボタンを押した。扉が閉まる瞬間私を抱いてと叫ぶ女の声が聞こえた。
2011-05-27 03:18:57散らかり放題の部屋を奥まで進みベッドルームに踏み込むと、だらりと下ろした左腕が目に飛び込んだ。当人は口を開け下着一枚で眠っている。この様子では当分目覚めそうもない、ステージ上で半分飛んでいたのだ。胸は規則正しく上下し、左腕には注射針の痕―まだ新しい赤黒いものもある―が見て取れた。
2010-05-08 02:48:34ベッドの端に腰を下ろしその顔を覗き込む。ここ数年ドラッグへの依存は加速度を増し、それは明らかに自分の比ではなかった。影響はレコーディングやライヴにまで及ぶようになっていたし、今日のようにオーバードースで倒れることも珍しくなくなっていた。彼の口が動いた。聞こえたのは恋人の名だった。
2011-05-27 03:57:51何故俺の名じゃないんだ、思ってからその意味を理解する。あまりに馬鹿げた、しかしそれが本音なのだ。あの日あの駅で幼馴染だった彼と再会を果たし、そしてバンドは誕生した。成功を手にしてからも絆は変わらなかったし、これから先もお互い理解者として存在し合う―いや、もはやそれは叶わぬ夢だが。
2011-05-27 03:19:35悪夢を見た。1969年というのはそういう年だった。指の隙間から零れ落ちた淡い幻想と掌に残ったグロテスクな現実。半分麻痺した感覚を救うのは音楽よりもドラッグで、足元には税金という名のいばらが絡んで身動きすら取れない。言い訳はいくらでもあった。逃げるわけじゃない、これは手段の一つだ。
2011-05-27 03:22:46二度と戻らない覚悟で母国に別れを告げる。幻覚のような醒めない夢もここに置き去りにするつもりでいたのに、こうして本人を前にして、それは無理なことだと諦めざるを得なかった。影のように張り付いた感情はすっかり肉体と同化して、そいつにナイフを立てたところで血を流すのは自分自身でしかない。
2011-05-28 03:28:02いっそそうして感情諸共殺してしまえたら楽だろう、そう考える自分の女々しさはどうだ。サイドテーブルに薄ら残る白線を鼻から吸入し、広いベッドの端にそっと横たわる。手を伸ばせば触れる距離、だが今はそれすら出来ない。終わりのない夢幻から逃れようと目を閉じると、そのまま眠りに落ちていった。
2011-05-29 03:42:00