茂木健一郎氏 @kenichiromogi 【台風と家康。偶有性の物語。】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第７３０回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、今朝の天気予報を見て思い出したこと。

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たぐ（１）沖縄本島に、台風が再び接近している。今年は沖縄にとっては台風の当たり年で、友人の関原さんがfacebookで「また来る」と予想図を毎回載せる。一度、沖縄で台風通過後の風を経験したことがあったが、東京の風とは全く異質のものだった。みなさんが、無事怪我なく過ごされることを。

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たぐ（２）東京で今まで経験した台風で一番凄かったのは、確か高校２年生の時で、定期テストの中日で帰る時にやられて、電車が５時間も６時間も止まった。仕方がないので、チャート式数学の問題を、立ったまま紙もなしに頭の中で解いていたのを覚えている。あの頃の私は、辛抱強かった。

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たぐ（３）ところで、子どもの頃、台風が来る、というニュースを聞くと、なぜか胸がわくわくしたものだった。「大型」で「強い」とか言われると、ざわざわして楽しみになる。不謹慎きわまりないが、当時は「何ミリバール」と表現されていた中心気圧が上がると、「弱くなった」とがっかりしたりした。

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たぐ（４）なぜ、台風が近づくと危険なはずなのにわくわくするのか二つの要素があると考えられる。一つは、新奇性選好。今まで経験したことがないことを経験することは、その内容にかかわらず脳にとっての楽しみ。もう一つが、偶有性に対する備え。わくわくした方が、適応的なのである。

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たぐ（５）何が起こるかわからない「偶有性」を前に、わくわくするくらいの方が、実際にその事態に巻き込まれた時に、鋭敏に感じ、認識し、行動できる。すなわち、危険を避けて、生き延びる確率が上がる。いたずらに不安がったり、恐怖を抱いたりしていると、適切な反応がとれない。

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たぐ（６）もちろん、これには適応範囲があるのであって、危険があるしきい値を超えると、もはや対応できなくなる。その時には、恐怖にかられていても何でも、じっとしている方が良い場合もある。もっとも、本当に危険な時は、「もはやこれまで」とふっきれて火事場のバカ力が出ることもある。

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たぐ（７）偶有性にどう向き合うかは、人類の培ってきた一つの文化である。先日、ＮＨＫのＢＳ歴史館にお邪魔した時に、改めてそのことを思った。徳川家康の話だった。戦国武将は、日常が偶有性の連続だった。いわば偶有性への向き方の「人格コンテスト」のようなもの。最後に家康が勝った。

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たぐ（８）家康は、子どもの頃から人質にとられて、他人の心を掌握するくせをつけた。同席した先生の発言で面白かったのは、家康は慎重な人と思われがちだが、合戦で追い詰められると、周囲がびっくりするような大胆な行動に出たのだという。その反転が、当時の武将たちにとって何とも魅力だったと。

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たぐ（９）徳川家康が、偶有性を前に、ただ慎重なだけだったら、天下を取ることはできなかったろう。いよいよ危険となった時に、爆発してすさまじい行動に出るから、百戦錬磨の武将たちを惹きつけた。リーダーシップとはそういうもの。今朝は、台風と、家康。偶有性の物語をお届けした。

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以上、連続ツイート第７３０回「台風と家康。偶有性の物語。」でした。