『オタゲイ・オブ・トリーズン』 #前編

サイバーパンクSF小説「ニンジャスレイヤー」の二次創作的文章になります。
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歪斗@忌中 @waitoyt

【注意】今から20ツイートほど連続投下します。ニンジャスレイヤーの二次創作SS的なサムシングです。TL荒らしご容赦ください。耐えられなければブロック重点。オネガイシマス。【忍殺】

2014-01-25 08:05:42
歪斗@忌中 @waitoyt

サイバーパンクSF「ニンジャスレイヤー」二次創作小説 「オタゲイ・オブ・トリーズン」

2014-01-25 08:06:14
歪斗@忌中 @waitoyt

「ウリャ!オイ!ウリャ!オイ!」ウシミツ・アワーの静謐な空気を荒々しいチャントが乱す。「ウリャ!オイ!ウリャ!オイ!」サッキョーライン「ヤハタ」駅。とうに終電も過ぎ、照明は落ちて改札は閉ざされている。しかし人気のないその構内でケミカルライトの灯りを頼りに踊り狂う一団があった。1

2014-01-25 08:06:30
歪斗@忌中 @waitoyt

「今夜サッキョーライン降りたー」「「「オリター!」」」ラジカセから流れるのは人気アイドルデュオ「ネコネコカワイイ」の代表曲「ほとんど違法行為」である。「私のこと助ける権利ー、あげるからー」「「「チョウダーイ!!」」」印象的なメロディに乗った扇情的な合成音声に男達の声が唱和する。2

2014-01-25 08:06:43
歪斗@忌中 @waitoyt

曲はいよいよネオサイタマに知らぬ者はないサビ部分へとさしかかる。「「「ネコチャン・ニササ・ゲル・ローマーンースー!!!」」」突如響き渡るカラテシャウトめいた怒号。そしておお、見よ!人差し指を立てた両手を複雑なプロトコルに支配された精密工作機械めいて左右に打ち振るう!3

2014-01-25 08:07:02
歪斗@忌中 @waitoyt

読者の中に文化史に精通する者がいればお分かりになるだろう。この偶像崇拝の儀式めいた動きこそ古来より伝わるアイドル賛美のパフォーマンス「ロ・マンス」である。ケミカルな光の軌跡を宙に残して髪を振り乱し行われるそれは、狂気じみた興奮の焦熱を見る者に伝える!4

2014-01-25 08:07:17
歪斗@忌中 @waitoyt

サビが終わり伴奏が小さくなるやいなや一同はラジカセへと駆け寄り膝から地面にスライディング!そして両手で何かをすくい上げ宙へと捧げるような仕草を繰り返す。古の呪術的舞踏を由来とする祈りの動作「ケ・チャ」。「走り込みケ・チャ」や「背面ケ・チャ」といった亜種を行う者もいる。5

2014-01-25 08:07:30
歪斗@忌中 @waitoyt

やがて曲が終わると一同は発光が弱まり始めたケミカルライトをその場に投げ捨てながら立ち上がった。「イイコエデテマシタ」「イイコエデテマシタ」それぞれに頭を下げ伝統のアイサツを交わして互いのパフォーマンスを賞賛する。「ショージ=サンのOADはスゴイだった。捻りが違う」6

2014-01-25 08:07:40
歪斗@忌中 @waitoyt

「アバシ=サンのカミナリ・ヘビこそスゴイ」ショージは親友からの賛辞に奥ゆかしく言葉を返した。「動きが華やかだ」「派手に見えるだけだ。ショージ=サンは基本技をあれだけダイナミックに見せるからヤバイ」「ユウジョウ」「ユウジョウ!」7

2014-01-25 08:07:55
歪斗@忌中 @waitoyt

ショージとアバシを含むここにいる若者達はネオサイタマに1000は下らないネコネコカワイイファングループの一つ「ヤッカイゼイ・クラン」に属していた。親衛隊とは名ばかりのNERDZのごとき暴徒達とは違う、古式ゆかしいアイドルオッカケ・プロトコルに則った誇りある応援団である。8

2014-01-25 08:08:13
歪斗@忌中 @waitoyt

ヤッカイゼイというクランの名は電子戦争以前のライブでは彼等が行うアイドル礼賛パフォーマンス「オタゲイ」が忌み嫌われ弾圧されていたことに由来する。しかし思春期特有のアンタイセイ気分にはその名は平安時代のバサラ・サムライめいて心地良く響くのだ。9

2014-01-25 08:08:23
歪斗@忌中 @waitoyt

それに今では彼等のオタゲイなど可愛いものだ。宗教対立めいたファングループ同士の激突は必ず流血を伴う。そのうえ死者も珍しくないNERDZの熱狂は暴動となり、賛美すべきネコネコカワイイ自体を破壊することすらある。ブッダ!なんたる無作法、なんたる無軌道か!10

2014-01-25 08:08:33
歪斗@忌中 @waitoyt

それでもクランにとってライブが参加欠かすべからざる場であることに変わりはない。それはアイドル崇拝者としての礼拝の時であり、パフォーマーとしての発露の場なのだ。「メガロスタジアムのライブ、もうすぐだな」1本のバリキドリンクを皆で回し飲みながらアバシが言う。11

2014-01-25 08:08:45
歪斗@忌中 @waitoyt

「そうだね。実際楽しみだ」「噂じゃ新曲が出るとか」「アレンジではなく?」「ヤバイ」「ヤバイ!」「ネコネコ?」「カワイイ!」笑い声が起きる。汗ばんだ体に夜気が心地よい。ショージはこの時間がずっと続き、朝など来なければ良いのにといういつもの思いに捉われた。12

2014-01-25 08:08:57
歪斗@忌中 @waitoyt

ジョックがのさばり肩身の狭い時間を耐えるだけの学校など……ブルシットだ。考えたくもない。この、ネコネコカワイイのためにある時間こそが真実なのだ。ショージのその思いは、しかし当の仲間により裏切られた。「マチフシ・ハイスクールのクイーンは来るのかな、ライブ」13

2014-01-25 08:09:08
歪斗@忌中 @waitoyt

「オイ」アバシが遮るような声を上げるが場の会話は続く。「ヒメノ=サンだったか」「スゴイおっぱいだ」「そう、昨年のフェスティバルで「アルヨ多幸感!!!」のコピーライブをやった」「実際シアワセタノシイなステージだった。きっと行くだろう」「スゴイおっぱいだ」14

2014-01-25 08:09:22
歪斗@忌中 @waitoyt

「そういえばショージ=サンとアバシ=サンは同じハイスクール……」「俺」仲間の言葉を遮りショージは立ち上がった。「俺、帰るから」そのまま返事も聞かずにナップザックを掴んで歩き出す。困惑する仲間の輪からアバシが立ち上がりかけるがそれを待たずに足早に立ち去る。15

2014-01-25 08:09:32
歪斗@忌中 @waitoyt

(((ヒメノ……、ヒメノ……!)))その名はショージのニューロンに痛みにも似たパルスを走らせる。彼女はショージの幼馴染だった。同じダンチ・アパートメントで幼い時を共に過ごした。何をするにも一緒だった。無邪気な愛情めいたなにかがあの頃二人には確かにあったとショージは思っている。16

2014-01-25 08:09:45
歪斗@忌中 @waitoyt

だが時間の経過は容赦ない変化をもたらし、ヒメノは今では学園のクイーン。かたやショージは厳密なるスクールカーストの中ではナードに属する。今やヒメノの隣にいるのは自分ではなく、ヤブサメ部やアメフト部のジョックどもだ。……自分が一番昔からヒメノを知っているというのに!17

2014-01-25 08:09:55
歪斗@忌中 @waitoyt

(((あまつさえ昨年のフェスティバルだ……!)))ヒメノが高級オイランドレスを着てサイドキックの1人と「アルヨ多幸感!!!」を歌い踊った、あの時。自らの聖域であるネコネコカワイイまでもが無慈悲なる学園権力構造の支配者達に踏み荒らされたあの瞬間。18

2014-01-25 08:10:04
歪斗@忌中 @waitoyt

表現しえぬ憤怒、表明しえぬ激怒、……そしてそれらを圧倒する人間的w字開脚で跳ぶヒメノの麗しさ!――それから一月の間、ショージはネコネコカワイイのCDを聴くことができなかった。(((彼女がライブに来るかだって……?)))19

2014-01-25 08:10:14
歪斗@忌中 @waitoyt

来るであろう。ジョックの誰かにプラチナチケットを捧げられ、カチグミ席で自分達を見下ろしながら、自分以外の誰かと寄り添いライブを見るのだ。あまつさえライブ後に廃頽ホテルで激しく前後すらするかもしれない。……あの実際スゴイおっぱいを?激しく上下に?20

2014-01-25 08:10:23
歪斗@忌中 @waitoyt

「アアアーッ!」自らの想像力に責め立てられショージは怒声を発した。(((クソックソッ、ネコネコカワイイは俺に唯一残された聖域だったんだ。それすらも、それすらもこうして踏みにじられるというのか!?ブッダ!寝ているのですか!?)))21

2014-01-25 08:10:34
歪斗@忌中 @waitoyt

(((こんな思いをするのなら――)))ショージは胸中でマグマめいて煮え立つ思いを口から漏らした。「ライブなど、ジゴクめいて滅茶苦茶になってしまえばいい!」22

2014-01-25 08:10:43
歪斗@忌中 @waitoyt

「オタゲイ・オブ・トリーズン」#前編 終わり 本編「オイランドロイド・アンド・アンドロイド」進展の後 #後編 へ続くかもしれないし続かないかもしれない

2014-01-25 08:13:02