「…ほら、こんな事も出来るんだ。」 ポンッと音を立てて、掌から花を出す。 すると、語り部の前に座る2人の兄妹はとても喜んで手を叩いた。 語り部は”手品師”などでは無かったが、昔ある人に教わった事があった。 ーもっと何かやって見せて。 ーもっと見たい…
2014-08-24 01:00:51「…君達はここで何をして居るのか?」 ーお母さんを待ってるんだよ。 「母親を…?だがもう家に戻らなくては、君達に夜は危ないよ。」 ーでも、ずっと待ってるのよ。 ーもう何ヶ月も待ってるの。 ーでも帰って来ないから、明日も明後日もここで待つの…
2014-08-24 01:12:36ー今日はお兄さんが来てくれたから、とっても楽しかった。 ーいつも2人で待ってるの。 ー夜は暗くて怖いけど、1人で帰ってくるお母さんはもっと怖いよね… ーお兄さんは明日も来てくれる? ー今日は母さんを待ってても、悲しい気持ちにならなかったの…
2014-08-24 01:15:41「そうか…君達の母親は、きっと幸せなのだろうね…」 語り部の心は沈んだ。 全てが沼に沈んで行く様だった。 月が黒雲に隠れ、辺りを一層暗くする。 (早く帰るのだ、貴方の子供は、ずっと貴方を待っているのに…) 恐らくそれは、叶わない。
2014-08-24 01:26:39「夜道は危ないよ。僕が君達を送ろう。」 今日はもう帰る、と告げた幼い兄妹を抱いて静まり返った街を歩く。 幼い兄妹ははしゃいだように、語り部に交互に話続けた。 ー昨日家の前に蛙が居てね… ーお兄ちゃんたら裁縫が下手でね… ーこの間、とても美味しいパンを食べたの…
2014-08-24 01:40:00兄妹の家に着くと、兄妹は家に上がるように語り部にせがんだ。 ーお腹空いてない? ーいっしょにもっと遊ぼう。 ーまだ帰らないで… 語り部は困ったような、悲しいような顔をした。 だがその表情は、仮面ごしでは伺う事はできない。
2014-08-24 01:45:39「…では、君達は布団に入っていなさい。子供はもうとうに眠る時間なのだから。」 語り部は兄妹をベッドへ促すと、その横に腰掛けた。 何が始まるのだろうと、期待の目で兄妹は語り部を見た。 語り部の手が、二、三度、兄妹の布団を優しく撫でる。
2014-08-24 01:48:33「…君達の為に語ろう。心の優しい君達が、母の腕に抱かれるような、優しい夢が見られるように…」 語り部は”語る”。 それは悲しい、悲劇の『物語』などではなかった。 語り部の知る『物語』の中で、聞く者の心が温かくなるような、そんな優しい、『物語』…
2014-08-24 01:51:26