寒さを言い訳にして

1
105 @105ws

@FWars_wall ケンテンへのお題は『寒さを言い訳にして』です。 shindanmaker.com/392860 真夜中の妄想する。

2014-11-21 02:34:11
105 @105ws

@FWars_wall 夜中に始まったボランティアは、明け方近くまで続いた。立ち並ぶプラントの隙間を縫うように、鹵獲型のコウシン二体に、アブダクター三体が、元の姿なんてほとんど分からないくらいに解体(バラ)されて散らばっていた。

2014-11-21 02:43:02
105 @105ws

@FWars_wall 使える部品を適当に Will'O ドライブに放り込みながら、ふと息が白いのに気付く。同じようなことを思ったのか、今日はじめてパーティを組んだ咎人が「冬だねえ」と短く呟いた。これが、冬か。「今回の記憶」での初めての冬だ。うっすらと東の空が白けている。

2014-11-21 02:57:04
105 @105ws

@FWars_wall 時間こそかかったが、運よく誰もロストすることなく PT に戻ったのが陽が昇る頃。どうせ数時間もすれば起床時刻だ。なにより、荊の使いすぎか、あるいは武器を出し入れしすぎたか、何にせよどうやら軽く Will'O 酔いしているような浮遊感がある。

2014-11-21 03:03:03
105 @105ws

@FWars_wall 指先も爪先も凍るほどに冷えているのに、頭と心臓だけが不安定にぐらついていて妙な気分だ。落ち着いて眠れるとは到底思えない。どこか静かなところで、この酔いを醒ましておきたい。このままにしておけば、昼間の貢献では命取りになるだろう。

2014-11-21 03:08:36
105 @105ws

@FWars_wall そう思いながら、気付けばセルガーデンに足を踏み入れていた。パスコードが不要な区画でも、非実在ゴミがあちこちに転がる廃棄区画に好んで入り込む人間はいない。ついでに言えば、アクセサリもついて来ない。部屋の入口に腰を下ろして、まるで動悸がおさまるのを待つように

2014-11-21 03:17:18
105 @105ws

@FWars_wall 低く心地よい駆動音を立てながら動き回る機械を眺めていた。 人がいないせいか、この場所はパノプティコンの中でも特に空調が効いておらず、冬の空気がすっかり染み渡っているようだ。それもまた、高揚した頭を冷やしてくれるような心持ちがする。

2014-11-21 03:28:11
105 @105ws

@FWars_wall 初めての、冬。前の自分はこの寒さを知っていたのだろうか? それとも、前の前の自分? 不安定な Will'O が視界でちりちりと揺れて、気分が悪い。前の前のさらに前? このまま落ち着くことができずにボランティアに出向いたら、次の自分になってしまうのでは?

2014-11-21 03:37:19
105 @105ws

@FWars_wall 考えても仕方ないと分かっているのに、思考が溢れ出して奔流を作る。これもきっと Will'O が安定しないせいだ。どんな作りなのかは、よく知らないけれど。体温の差のせいで、頭と心臓とそれ以外が、まるで別々の生き物のように感じられる。

2014-11-21 10:36:06
105 @105ws

@FWars_wall 静かに響く駆動音の中に、不意に扉の脱圧音が混ざり込む。ぷしゅ、と軽い音。その先に誰がいるのか確かめようと視線を上げると、まばたきと共にまた電気が散った気がした。「わ! ……あれ? テンファさん?」焦点が定まるより前に、聞き覚えのある声が降る。「……ケンジ」

2014-11-21 10:45:50
105 @105ws

@FWars_wall 揺れる視界の中で、眉を寄せているのが分かる。なんて顔してんだ。「こんなトコでなにしてんの、散歩?」つとめて平然を装って尋ねると「そのつもりだったけど、やめた」と答えが返ってきた。「アタイのことだったら気にすんなよ。ちょっと休憩してるだけだから」

2014-11-21 10:53:33
105 @105ws

@FWars_wall 言ってみたものの、不安げな表情には変化がない。珍しいモン見てるな、今。目の前に向かい合うようにしゃがみ込んで、いつもつけたままのグローブを外すと、額に手を当てられた。ひやりとした感触に、背筋がざわ、と泡立った。「ちょっとちょっと……ひどい熱」

2014-11-21 11:03:00
105 @105ws

@FWars_wall 「熱?」「ここのところ寒いから、風邪ひいちゃったんじゃないの」「風邪……」なるほど、これは Will'O 酔いではなくて、風邪の感覚なのか。ケンジがグローブをはめなおす。そういえば、今回の自分はこれまで風邪をひいたこともなかったな。前回までがどうかは

2014-11-21 11:12:56
105 @105ws

@FWars_wall 知らないけれど。「独房に帰って、休んだ方がいいかもね。刑期は加算されるだろうけど」「……ちょっと今は、動きたくない」歩ける気分でもない。そう告げると、困ったように笑って、しゃがみ込んでいたその場所にそのまま腰を下ろした。「じゃあ、少しだけね」

2014-11-21 11:21:28
105 @105ws

@FWars_wall 動きたくない、というのももちろん本音だったが、それ以上に人と一緒にいるのは安心した。一人になればまた、今の、前の、という思考に落ちてしまう。次の自分になるのは……怖い。

2014-11-21 11:32:23
105 @105ws

@FWars_wall 「……なあ、怖いんだ。手に入れた全部を、またこぼしてしまうのが」口を突いて出た唐突な呟きを、ケンジは黙って聞いている。今の自分を失うことが、とても怖い。できることならば、仲間のことも、経験した様々なことも、目の前のこの人のことも、記憶からロストしたくない。

2014-11-21 11:41:35
105 @105ws

@FWars_wall 柄にもなくセンチな気分で、その存在を確かめるかのように、ケンジの頬に手を伸ばした。「……冷た」熱出すわけだ、と呟いて、その手を握られた。ほとんど感覚のない指先に、合皮越しの体温が伝わる。「こうやってさ、ロクに Will'O も制御できないときが一番怖い」

2014-11-21 11:52:41
105 @105ws

@FWars_wall 「テンファさんがなくしたくないと思ってるなら、きっと大丈夫。 Will'O は意思の力で作用するから、その気持ちがあれば、その分しっかり繋ぎ止められるはずだよ」宥めるような言葉。前の自分は、なくしたくないと思う何かはなかったんだろうか。

2014-11-21 12:03:00
105 @105ws

@FWars_wall そうだとしたら、今の自分は前までの自分よりも少しだけ、幸せなのかもしれない。「そっか。そうならいいな」大切なものがあることが、幸せならば、だけれど。その形を確かめるように空いている方の手を伸ばすと、対になる手で指先を絡め取られた。

2014-11-21 12:14:41
105 @105ws

@FWars_wall こんな妙な体制でも悪くないかなと思うのは、熱のせいだろうか、それとも寒さのせい? 間接的に伝わってくるわずかな体温が、心地よいような、じれったいような、複雑な気分だ。絡まった互いの指に視線を落とす。「……手、アタイよりあったかいんだな」

2014-11-21 12:35:34
105 @105ws

@FWars_wall 「グローブのおかげかなあ」手を繋いでいると、前も次も関係なく、今こうやって目の前にいることが実感できるからいいのかもしれない。「……また今度さ、寒くて手が冷たくなったら、こうやってもいい?」それにしたって、ああ、何言ってんだろ。「今度は風邪、ひくより前に」

2014-11-21 12:42:29
105 @105ws

@FWars_wall ケンジは何も答えなかった代わりに、いつにもなく穏やかに笑った。肯定と捉えていい、んだと思う。気恥ずかしい気もするけど、たまに心細くなったときには手を握りに行くことにしよう。ロストさせたくない今を体温で確かめるように、寒さを言い訳にして。 fin.

2014-11-21 12:49:35
105 @105ws

@FWars_wall くぅ~疲(中略)テンファ・ケンジ「って、なんで俺くんが!?」これにて本当に本当の終わり

2014-11-21 12:51:27