藍童話・スノウドロップ

twitter上の創作企画「空想の街・灯りの樹の夜」に参加した作品のまとめです。
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原 沙良葉 @harasaraha

むかしむかし、まだ街に人が住み始めたばかりの頃。その頃街はまだ小さくて、人も少ししか住んでいなかった。人々は狭い街の中、少しの食べ物でひっそりと身を寄せ合うようにして暮らしていた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:35:32
原 沙良葉 @harasaraha

森には怖い動物が住んでいて人を襲ったし、予測のできない天気は人々にとってはもっと怖いものだった。雨が降るたびにみんなは慌てて上手くできた細工物を狭い屋根の下にひっぱりこんだ。どの家の中も雨の日は商品でごちゃごちゃだった。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:38:08
原 沙良葉 @harasaraha

そんな具合だったから、誰も小さな女の子のことなんて気にもとめなかった。女の子はお父さんとお母さんと一緒にこの街にやってきたのだけれど、二人とはとっくにはぐれてしまっていた。雨の日は家々の小さな隙間で眠り、職人の下働きをして暮らしていた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:40:29
原 沙良葉 @harasaraha

やがて一年が過ぎ、人々は初めての冬を迎えようとしていた。可哀想に小さな女の子は、ぼろぼろの服しか持っていなかったから、昼も夜もすっかり凍えてしまっていた。走ることも大変な冷たい足を抱えて座り込んだ少女は、ふと小さな蕾に気が付いた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:42:22
原 沙良葉 @harasaraha

歪んで敷かれた石畳の隙間からやわらかな緑色の茎と葉を出したその蕾は、なんだかとても小さくて弱くて、女の子はその蕾が可哀想になった。「こんなに小さいのに」寒さに荒れたちいさな手が、そっと蕾に触れた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:44:21
原 沙良葉 @harasaraha

その日から女の子は毎晩その軒下で眠るようになった。最初は固く身を強張らせていた蕾も、一緒にいる時間が増えるたびに少しずつほころんでいくようで、女の子はそれが嬉しかった。昼間、用事を言い付けられて走りながら蕾をいる方向を見てふふ、と笑った。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:46:25
原 沙良葉 @harasaraha

街はどんどん寒さを増していった。たくさんの住人が咳をし、寒さに震え、冷たい手を擦り合わせた。女の子も例外ではなくて、小さな体を震わせて、女の子は咳を繰り返すようになった。こん、こん、とか細い声が家々の隙間に空々しく響いた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:48:21
原 沙良葉 @harasaraha

「だいじょうぶよ」咳をしながら、女の子は蕾に言い聞かせた。「冬が終わったら、春がくるもの。わたし知ってるの」白く細い指が優しく蕾にふれた。「あなたにとっては初めての春でしょう」そして女の子はまたこん、と咳き込んだ。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:49:51
原 沙良葉 @harasaraha

女の子は弱っていった。冷たい風に晒された四肢はすっかり動かせなくなっていて、蕾に語る言葉も少しずつ、弱弱しく、数も減っていった。それでも女の子は嬉しそうに蕾に話かける。女の子の声を受けて、蕾はますますその身をほころばせていった。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:52:12
原 沙良葉 @harasaraha

その日は一際曇天で、厚い雲が街の上に垂れ込めていた。寒さは骨をキンと刺すほどで、女の子はもう小さな声もあげられなかった。ねえ。息だけで女の子は囁いた。きっとそのうち春がくるわ。蕾がはらりとほどけた。一片の雪が降ってきた。女の子は死んでいた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:53:58
原 沙良葉 @harasaraha

ひらりと曇天を見上げてその花は咲いた。白く透き通る鈴のような花弁が、女の子を見下ろして小さく揺れた。スノードロップの花だった。ひらひらと雪は降り続いた。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:55:45
原 沙良葉 @harasaraha

女の子の体はやがて下働きをしていた職人に見つけられ、手厚く葬られた。誰もが口をつぐんで、女の子の死を悼んでいた。それでも、そう長く悲しみに沈むことは出来なかった。初めての雪に、住人達は苦戦を強いられていたのだ。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:57:19
原 沙良葉 @harasaraha

軒先のスノードロップを気にするものは誰もいなかった。雪とその対策に走り回る人々をよそに、花はみずみずしく可憐な姿を見せていた。幾度か日が昇り、沈み、月日がたった。それでも花はみずみずしいままだった。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 09:59:05
原 沙良葉 @harasaraha

やがて、大きな吹雪が街を襲った。吹きすさぶ雪と風は人々を揺さぶり、叩き付け、凍えさせた。もうだめだ、と集まった中の誰かが言った。俺たちは冬を越せない。このままここで死んでしまう。びゅうびゅうと風が鳴った。かすかにちりん、と鈴の音が鳴った。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 10:01:14
原 沙良葉 @harasaraha

あっと声を上げたのは誰だったのだろう。吹きすさび舞う雪が、ふいに別のものに変わった。触れる冷たさは柔らかさにとって代わった。びゅううう、と吹く風が何かを巻き上げた。白の花びらだった。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 10:02:25
原 沙良葉 @harasaraha

ごうごうと渦を巻いて巻き上がる大量の花びらを人々はぽかんとして見上げた。風の音にまぎれて、くすくすと女の子の笑い声が響いた。あの子だ、と誰かが言った。春がくるわ、と風にまぎれて声がいった。春がくるわ。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 10:03:56
原 沙良葉 @harasaraha

そして春が来て、人々は働き、街は次第に大きくなっていったのだった。雪の中のあの子の声のことを、誰も口には出さず、けれど確かに知っていた。あの子は花になったのだ、と人々は思った。大好きだった花と一つになって、春を呼びにいったのだ。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 10:05:25
原 沙良葉 @harasaraha

そして今年も街に冬が来る。雪を待つスノードロップの蕾は、春を待つあの子だと、誰もが知っている。花屋の店先で、今日もあの子は春を待っている。 #空想の街 #藍童話 #スノウドロップ

2014-12-12 10:06:29
原 沙良葉 @harasaraha

毎度恒例、藍童話を書かせてもらいました。いつもの如く、これも別作品の伏線用に書いたのですが、そちらの作品が未完なのでここでは語らずにおきます。単純なアイディアと展開で微妙かなあと思ったのですが、反応頂けて嬉しかったです。 #空想の街後書き #スノウドロップ

2014-12-15 18:29:56
原 沙良葉 @harasaraha

いつも藍童話はグリムやアンデルセンから日本の童話、小川未明くらいの古いお話を意識しているのですが、今回はあまんきみこ辺りの現代童話をイメージしてみました。どちらがいいかは、自分ではちょっと分からないw でも楽しかった。ありがとうございました。 #空想の街後書き #スノウドロップ

2014-12-15 18:32:06