【魔法少女まどか☆マギカSS】叛逆のグルメ -東京都品川駅構内のカツカレー-

杏子が延々と飯を食うアレ。
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GammaRay @sizuoka074

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 【叛逆のグルメ】

2014-12-27 13:46:54
GammaRay @sizuoka074

東京都品川駅構内のカツカレー

2014-12-27 13:47:08
GammaRay @sizuoka074

(腹減ったなー)杏子は襟元を正し、ほっと白い息を吐いた。ここは品川駅の構内だ。父親の後ろにくっついて、東京の教会に赴いたのだ。かつては破門された父親だったが、なんだかんだで持ち直している。今日は法事というよりも、神父・シスターの会合だった。

2014-12-27 13:53:12
GammaRay @sizuoka074

色々と勉強になったと思う。じいさまばあさまの退屈な説教を覚悟してたが、あれが含蓄というものか。だが慣れない頭脳の酷使に従い、頭がカロリーを要求している。時刻は一時。昼飯時だ。食い盛りの杏子にとってはなにより大事な時間と言える。

2014-12-27 13:55:04
GammaRay @sizuoka074

(さーてなにを食うとするかね)ホームの自販機で買ったチョコバーをきれいに平らげ、杏子は構内を見渡した。花の東京と聞いて期待をふくらませてはいたが、思ったよりも普通の駅だ。見滝原の駅といえばなんでもかんでもビカビカ光り、わけのわからないオブジェだなんだがそこら中にあったりするのに。

2014-12-27 13:58:20
GammaRay @sizuoka074

「いらっしゃいませー」「いらっしゃいませー」そこら中で店員の声。総菜屋だの弁当屋だのが客に愛想を振りまきながら、うまそうなあれこれを売っている。パンに、ケーキに、チキンに、まんじゅう。よりどりみどりで目移りし、空きっ腹がギュウギュウうなる。

2014-12-27 14:02:51
GammaRay @sizuoka074

ポケットの中には諭吉が一名。仕事の続きがあるからと途中で別れた親父から受け取った行楽の代金だった。(いいぞ。あたしは王様みたいだ)なんでも出来る気になり、自然と気分も上向きになる。俄然食欲も湧くわけなのだが――問題はなにを食うかについてだ。

2014-12-27 14:06:04
GammaRay @sizuoka074

パンはメシって感じがしない。総菜類は魅力的だが、今日の気温は5度かそこらだ。パックの白米ではちょっと寂しい。弁当も同じ理由で却下。こういうところのラーメン店は味がだいたいいまいちだ。せっかく東京にいるわけなんだし、どうせなら高い飯を食っとくべきだ。

2014-12-27 14:11:03
GammaRay @sizuoka074

(なんだろう。なんかすごくいいニオイがする)難しい顔でうろつく杏子が、すんと鼻を一つ鳴らした。このかぐわしいスパイスの香り。これはカレーだ。(そうだ。火曜日だしカレーにしよう)庶民派の杏子は即決した。食いたい物こそごちそうなのだ。

2014-12-27 14:13:36
GammaRay @sizuoka074

犬のように鼻を鳴らしてカレーのニオイを求めてさまよう。水色と白の看板をくぐり、京浜東北線のホームへ。人混みをかわしながらほたほた歩くと、そこにいかにもな立ち食い飯屋。(なるほど。こりゃあいかにもって感じだな)『こだわりのカレー』と書かれた張り紙。商品の写真。どう見てもカレー屋だ。

2014-12-27 14:16:57
GammaRay @sizuoka074

店内には二人ほどの先客がおり、カレーや蕎麦を食べていた。大してうまそうには見えない。それがよかった。(チーッス)心の中で挨拶をして店内に。忙しそうには見えなかったが、店員からの挨拶はない。

2014-12-27 14:21:32
GammaRay @sizuoka074

(さて。カレー、カレー……と)券売機に向かい、財布を取り出す。一万円札は使えないので、千円札を放り込む。カレーライス。カツカレー。牛のせカレー。(牛のせカレー?)疑問に思って店内を見ると、その正体はすぐにわかった。店員が銀色のおたまを使って牛すじ肉をすくっていたのだ。

2014-12-27 14:23:35
GammaRay @sizuoka074

(牛すじはいいや。カツだカツ)ろくに悩みもしないでパネルを押す。カツカレー大盛り。そこでからっ風が吹き込んできて、その寒さに背筋をすくめる。もっと熱が必要だ。もう一度財布を取り出し、五百円玉でかけそばを買う。これぞまさに立ち食いだ。

2014-12-27 14:27:06
GammaRay @sizuoka074

「すいませーん」カウンターに食券を置く。年配の男性店員は皿を片付けており、やはり返事はしなかった。「すいません。食券ここです」「あ、はい」気付いていたのかもしれないが、そうでなければ面倒になる。面倒は嫌いだ。はっきりと言って確認を取ったほうが後々嫌な思いをしない。

2014-12-27 14:30:17
GammaRay @sizuoka074

(オーダーのときぐらい返事はしろよ)思うだけ思ってすぐに忘れる。ようは飯が食えればいいのだ。カウンター席に突っ立って、伏せてあったコップを手に取る。水を注いでまずは一杯。傍らに置かれたプラスチックケースには、合成着色料バリバリの真っ赤な福神漬けが山盛りに突っ込まれている。

2014-12-27 14:33:18
GammaRay @sizuoka074

(今時こういう店あるんだなァ……)マミからのメールを見ながら店内を観察する。そこかしこがアルミホイルで覆われた厨房。キッチンの隅にこびりついた真っ黒な油だったり埃だったり。フライヤーの油は使い込まれて真っ茶色で、網に揚げられたカツがいつ揚がったのかもなんだかどうにも判然としない。

2014-12-27 14:37:42
GammaRay @sizuoka074

厨房が目の前なので店員の動きは手に取るようにわかる。ちょっと物足りない大きさのカツを切り、皿にライスと一緒に盛りつけて、よそったルーをかけるだけ。「カツでーす」一分も経たずにカレーが到着。大皿になみなみと盛られたライスとカレー。五枚切りのカツはコロッケ程度の大きさしかない。

2014-12-27 14:41:09
GammaRay @sizuoka074

「いただきまーす」十字を切って銀色のスプーンを手に取る。カツの一切れを半分に切り、ルーに漬けてライスと一緒に口に運ぶ。(うーん。こいつはカレーだな)小麦粉でぺったりしたルー。フルーツソースの酸味と甘み。辛さはほとんどなく、小学校の給食に出てきたカレーそっくりの味だった。

2014-12-27 14:44:41
GammaRay @sizuoka074

もう一匙すくって食べる。カツは脂身がまったくなく、衣のざくざく感もない。噛みしめるとなんとなくもにょっとした歯ごたえがあり、よく噛まないと肉かどうかもいまいちわからないような気がする。「かけそばでーす」目の前に蕎麦が置かれる。だがまずはカレーを始末だ。

2014-12-27 14:47:44
GammaRay @sizuoka074

さすが920円もするだけあって、ライスとルーはかなりの量だ。ぬるいので掻き込むのは苦じゃないが、少し量を侮っていた。(これなら大盛りじゃなくてよかったな…)味に飽き始めてしまい、結局割り箸に手を伸ばす。七味の缶を逆さまにして二、三ぱっぱとふりかけたあと、水を一口。それから蕎麦に。

2014-12-27 14:50:30
GammaRay @sizuoka074

(汁がめんつゆの味がする)他にどう言いようもなくかけそばである。麺にさほど腰もなく、蕎麦特有の香りも薄い。汁はぬるいというほどでもないが、火傷するほど熱くもなかった。食べやすさ重視。そういう感じだ。立ち食い店ならではの工夫というやつなのだろう。

2014-12-27 14:53:00
GammaRay @sizuoka074

「ごっそうさん」五分ほどで食べるだけ食べ、蕎麦の汁も飲み干した。体には熱がみなぎっており、汗をかいているのを感じる。大宮行きの電車が止まり、ホームに人が流れ込んでくる。

2014-12-27 14:56:44
GammaRay @sizuoka074

(東京行きの電車はこいつに乗ればいいんだっけか?)考えている間にドアが閉じ、電車がホームを去っていく。まあいい。別に急いでないのだ。上でコーヒーでも飲もう。

2014-12-27 14:59:33
GammaRay @sizuoka074

階段を上り始めると懐でスマホが振動した。今度はまどかからだった。東京ばな奈をご所望らしい。(そうだ。次はデザートだ)杏子はマフラーを締め直し、売店を探して歩き始めた。 -おわり-

2014-12-27 15:00:41