茂木健一郎氏 @kenichiromogi 第1473回【マイクロフトの超人的賢さ】連続ツイート

茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート第１４７３回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、この半年間くらい、時々ちらちら考えていたことを、言葉にします。

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ＢＢＣの人気ドラマシリーズ「シャーロック」で、ホームズのお兄さんであるマイクロフトを演じている俳優の（そしてドラマの脚本も書いている）マーク・ゲイティスの日本滞在記が面白い（sow.blog.jp/archives/10235…）。イギリスらしい皮肉と、素朴な感動。新たな発見がある。

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もちろん、フィクション上のことであるが、『シャーロック』におけるマイクロフトというキャラクターは、大変興味深い。実は、シャーロックよりも論理的な分析力に長け、超人的な頭脳を持っているのだが、怠惰なので、身体を動かして調査などしない。そして、どうやら英国政府の中枢にいる。

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マイクロフトは、「英国政府で小さな仕事をしている」と言うのだが、シャーロックに言わせると、「マイクロフトは英国政府そのものである」。マイクロフトを見ていると、いかにも英国らしい、頭の良さの基準、凡庸さに対する軽蔑の文化が伝わってきて、そこを汲み取ることは大切だと思う。

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英国は、近代史において、権謀術数や、国家の戦略を成功裏に行ってきた。ポピュリズムにおもねる必要がある政治家とは異なり、高級官僚や、情報機関のエリートたちは、複雑な国際情勢を、高度の読みと推論で繰って来たのであり、そのイメージが、マイクロフトに投影されている。

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マイクロフト的頭の良さは、つまり、すぐに予想できるような凡庸な読みにとどまらないということである。少なくとも「三手の読み」、自分がこう出たら、相手はこう出る、従って自分はこう出る、できればその後も読んで、最後はこう落ちる、という見通しを持っていなければならない。

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もちろん、マイクロフトはフィクションであるが、フィクションは、人々が現実をどう見るかという認識に影響を与える。日本ではどうか。マイクロフトのような意味での頭の良さが、戦略上重要であるという認識が十分にないように思う。対外交渉でも、「三手の読み」すらしていない印象がある。

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実際には、中央官庁の官僚たちの間には、マイクロフトのような頭の良さを持つ人がいて、国家の利益を計ってくださっていると思う（信じたい）。しかし、ポピュラー・メディアにおいて、そのような人を理想とし、称賛する文化は、英国に比べるとはるかに少ないと思う。

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これは、日本文化の一つの美質でもあるが、まごころを尽くせば相手に通じる、真実はひとつだ、と思いがちなのではないか。それは、日本人の良いところであるが、一方で、マイクロフトのような、緻密な論理的推論で、相手の出方を含めた事態の推移の落とし所を読む知性の育みを妨げてきたのではないか。

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例を挙げよう。教科書に、竹島は日本の領土だと書けば、韓国政府や世論がどう反応するかは、容易に推論できるはずだ。三手の読みの、さらにその先を見るのが本当の戦略である。日本の主張を検定教科書に書けばそれで国益が図れるというナイーヴな姿勢は、マイクロフトの最も軽蔑する愚鈍である。

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私は、個人的には戦略だとか国益だとかを考えるのは好まないが、国家の為政者はぜひ戦略を計って欲しいと思う。そして、その場合の戦略とは、単純な心情の吐露ではなく、マイクロフト的な、超人的賢さに基づくものであって欲しい。もっとも肝心なこと。超人的賢さは、世論やポピュリズムとは関係ない。

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以上、連続ツイート第１４７３回「マイクロフトの超人的賢さ」をテーマに、１０のツイートをお届けしました。