団文まとめ

忍フェス6行きたくて突発で書いた文章をまとめました。
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かずのこ @kazuno_sk1

我らが会計委員長、潮江文次郎先輩。最初はただただ怖い人だと思った。十五歳とは思えない顔、眉間のしわ、どうしたらそこまでになるのか分からない目の下の濃い隈。いつも大声で怒鳴るし、すぐに手を上げる。そんな彼は、ぼくの恐怖の対象でしかなかった。(団文 1)

2015-07-05 08:34:45
かずのこ @kazuno_sk1

委員会も行くのが怖くて遅れて行ったら余計に怒られるし、字が汚いと言って頭を叩かれるし、委員会と何が関係あるのか、いきなり匍匐前進させられるし、ともかく、先輩と関わるといいことなんて全然なくて、憂鬱だった。なんでぼくがこんな目にあっているんだろう。(団文 2)

2015-07-05 08:40:46
かずのこ @kazuno_sk1

そんなある日。予算が合わないと言って二徹目にさしかかった晩のこと。一日徹夜しただけで、ただでさえ眠くて仕方がない。授業中も眠ってしまって土井先生から大きなげんこつを食らってしまった。上がらない気持ちのまま、みんなでひたすら帳簿を合わせていた。(団文 3)

2015-07-05 08:46:27
かずのこ @kazuno_sk1

神崎先輩はもう白目をむいて意識を手放しているし(田村先輩に聞いたら、いつものことだって言ってた)、真面目ない組の佐吉も、うつらうつらしていて手が動いていないし、田村先輩はやっとで動いているけど、その瞳にはいつもの輝きがなかった。(団文 4)

2015-07-05 08:55:09
かずのこ @kazuno_sk1

ぼくも、授業中に寝たとはいえ、ぼーっとして仕方がなかった。目の前の文字が歪んで見える。ちらりと、潮江先輩を見る。他の委員とは違って、表情は険しいけれど眠そうな素振りは全くない。淡々と作業をこなしている。周りの様子などお構いなしって具合に。(団文 5)

2015-07-05 08:58:52
かずのこ @kazuno_sk1

さすがは最上級生。もう何年も続けてきているのだろう。きっと、慣れっこに違いない。 ああ、また眠くなってきた。今寝てしまったら、また怒られるのだろうか。そう頭の端で思いながら、筆を手放したと同時に、意識も手放した。(団文 6)

2015-07-05 09:09:26
かずのこ @kazuno_sk1

目が覚めると、自分の部屋の布団の中だった。あれ、ゆうべはいつ部屋に戻ったんだっけ。「あれ、昨日は部屋に戻ってきたんだね。団蔵ったら、着替えずに寝ちゃったんだね。まだ時間はあるから風呂でも入っておいでよ」この虎若の様子では、虎若に聞いてもわからなさそうだ。(団文 7)

2015-07-05 09:16:11
かずのこ @kazuno_sk1

もしかして、潮江先輩……?いや、あの周りの状況なんてお構いなしで作業をする、鬼のような潮江先輩が、ぼくを部屋まで運んでくれたとか?全然信じられないし、想像もつかなかった。こうしてまた夜になり、三徹目(実際に徹夜しているのは潮江先輩と田村先輩だけだ)の委員会が始まった。(団文 8)

2015-07-05 09:21:10
かずのこ @kazuno_sk1

今夜の委員会は、田村先輩が実習でいない。神崎先輩はすでに寝ているし(ぼくはねていないって言ってるけど、あれは確実に寝ている)、佐吉ももう連日の委員会で疲労が顔に出ている。ぼくはというと、布団で寝られたせいか、昨日よりは体が軽かった。(団文 9)

2015-07-05 09:30:16
かずのこ @kazuno_sk1

潮江先輩はと言うと、相変わらずの表情で淡々と作業をこなしていた。じっとその顔を見てみる。目の下にはいつもよりもくっきりとした隈。それでもちっとも眠たそうではないところはさすがだと思った。手元も全くぶれない。と、ぼくの視線に気が付いたのか、視線が合った(団文 10)

2015-07-05 09:32:48
かずのこ @kazuno_sk1

「なんだ」鋭い目の力。隈が濃いせいかいつもより何割も増している。思わずびくついた。潮江先輩への恐怖心はそう簡単にはなくならない。ただ見ていただけだったから、返す言葉が見つからない。しばらく目を見合ったまま沈黙が続いた。ふと、昨日の夜のことについて聞いてみようと思った。(団文11)

2015-07-05 09:42:10
かずのこ @kazuno_sk1

「昨日、ぼくを部屋まで連れていってくれたのは、潮江先輩ですか」表情をうかがう。一寸たりとも動かない。「……そうだが」少し間が空いて返事があった。やっぱり信じられなかった。ぼくは今の気持ちをそのまま伝えることにした。(団文 12)

2015-07-05 09:48:14
かずのこ @kazuno_sk1

「今日の朝、もしかしたら潮江先輩がって思ったけど、信じられなくて。いつも厳しい先輩だから、委員会の途中で寝てしまったぼくのことなんて、放っておくかなって。だから、今潮江先輩が部屋まで連れていってくれたって知って、びっくりしました」先輩の眉間のしわがさらに濃くなる。(団文 13)

2015-07-05 09:54:37
かずのこ @kazuno_sk1

と、ゆっくりと先輩が席を立つ。きっと叩かれる!そう思ってびくりと体を震わせた。ぼくの座る横にしゃがみこむ先輩。そして、目線を合わせて言った。「おれのことは怖いか」「え……」相変わらずの濃い隈と眉間のしわだけど、ほんの少しだけ表情がやわらかくなった気がした。(団文 14)

2015-07-05 10:02:30
かずのこ @kazuno_sk1

「正直に言うと、怖いです。潮江先輩はすぐ怒るし、大声出すし、ぼくの字が汚いのも怒るし、叩いてくるし、顔も怖いし」ぼくが言うと、先輩ははあーっと大きなため息をついた。「ああー…怖がらせたことは、悪かった。昔からこんな性分でな。加減がわからん。すまなかった」(団文 15)

2015-07-05 10:09:51
かずのこ @kazuno_sk1

まさか、先輩に謝られるなって思っていなかった。びっくりすることばかりだ。先輩は続けて言った。「俺も一年生の頃は、今ほど夜に強くなかった。委員会で集まっても、途中までは頑張るが気付いたら寝ているし、起きているようでも全然筆が進まなくてな。(団文 16)

2015-07-05 10:18:32
かずのこ @kazuno_sk1

お前の姿を見ていたら、自分の一年生の頃の姿と重なってな。まだ小さいんだ。眠くなるのは仕方がない。それなのに付き合わせているおれも悪い」潮江先輩が、そんなふうに思っていたなんて。思ってもいなかった。先輩のことを知りもしないでずっと怖がっていただけの自分が、恥ずかしくなった。(17)

2015-07-05 10:22:01
かずのこ @kazuno_sk1

「潮江先輩、すみませんでした。怖いって言って。先輩も、ぼくと同じだったって知って、ほっとしました。その、ごめんなさい」申し訳なさ半分と、恥ずかしさ半分とで思わずうなだれた。すると、ぽん、と頭の上に先輩の手のひらが乗せられた。(団文 18)

2015-07-05 10:31:51
かずのこ @kazuno_sk1

「謝るのはおれの方だ。いつもついてきてくれて、ありがとうな」大きな手のひらが、とてもあたたかくて、心まであたたかくなった。潮江先輩、ぼく、どこまでもついて行きたいです。(団文 19 完)

2015-07-05 10:35:05