1,感情の芽生え(草薙行仁)

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

生まれて初めてこんな屈辱を味わった…意識の底に潜ろうかと思ったが、次にいつ発言権を得られるのかわかったものではないな…まさか、こんなに過保護な扱いを受けるとは思わなかった……

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

優しくされたのは初めてなんだ。 どうしていいのかわからない。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

愛される、という感覚がわからない。 けれども、きっとこれは、そういうものなのだろうか？

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

……？優しさ？ …誰から？……誰への？ それは、一体何の役に立つというのですか？

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

わからない。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

そんなもの…知るはずがないんだ。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

わからない。その感情は自分のものではない。わからない…。わからないんだ。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

何故かわからない。何故かわからないけれど、酷く苦しい。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

恐らく、コレ はずっと自分の中になかったものだ。草薙と呼ばれる自分には必要のなかったものだから。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

そうか、福本も塩塚も知っているんだな…。俺だけが知らなかったのか。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

たとえ、上辺だけだったとしても、仮初めのものだったとしても、俺じゃない俺は知っていたんだな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

意識の底からずっと見ていたんだ。 笑ってる自分。同期に囲まれる自分。 料理が得意な自分。人と話すのが得意な自分。深く深く沈んでいたはず。それなのに見えてきたそれは草薙では得られないものばかりだった。どこか他人を見ているようで不思議な感覚だった。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

きっと、俺はそれに気がつく必要なんてなかったんだろう。だけど、こうして戻ってこられたのは、そのことに俺が気がつく必要があったから。そういうことだろう。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

本当は、まもられていたんだな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

中佐は、どこまで見抜いていたんだろうか。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

都合のいい時にだけ呼び出されたんだと思っていた。任された仕事はやり遂げる。だけど、それだけじゃなかったんだな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

ずっと、自分自身しか信用していなかった。それがいつの間にか、他ならぬ自分自身に囚われていたのかもしれないな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

思えば…俺自身の時はあの頃から止まったままなのかもしれない。結城中佐に出会った後は、深く深く沈んでいたから。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

俺を呼ぶのは、俺自身だけだと思っていたし、きっとこれからもそうなんだと思っていた。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

たまになら、自分以外から呼ばれるのも……悪くないな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

もっても、あと7時間………。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

どちらにせよ…眠気を感じたら、その時点で時間切れだな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

この身体が次に目覚めた時には、もう俺じゃないんだろうな。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

上海は今日も雨だ。

草薙行仁 @Kisha_Shioduka

傘をさして少し街へ出かけようか。