イミルアの心臓#3 抜け落ちた心臓◆1(2016加筆修正版)
「とりあえず、握手は勘弁かな!」 3人は一目散に逃げだす。市長はガシャガシャと音を立てて追う! 再びがらくただらけの区画に戻っが、怒りは静まったようで、がらくたが襲ってくる気配はない。 「こっちだよ!」 シンクアイが素早く先導する。 61
2016-08-04 19:54:39_だが、それも長くは続かなかった。がらくたが辺りを取り囲む小さい部屋にフィルとレッド、シンクアイは追い詰められる。 「やれやれ、お見合いかよ」 立ちはだかる市長。 「ご趣味は何ですか? 切り刻まれるのはお好きですか?」 62
2016-08-04 20:00:50_市長は鎧から飛びだした2本の刃を掲げながらゆっくりと近寄る。刃は魔法で淡く緑に光っている。 フィルのマフラーもあの刃の前では容易く切り裂かれてしまうだろう。そのときシンクアイが二人の間を割って前に出てくる! 「わたしが相手だ!」 しかしシンクアイは丸腰なのだ。 63
2016-08-04 20:06:05「おい、危ないぞ!」 「大丈夫、ちょっとはすばしっこいから」 そう言ってシンクアイは振り向き、ウィンクをした。市長はもはやすぐそこまで来ている。シンクアイは一瞬の隙を縫って足元に飛び込む! 「勇気だけはあるようだなッ」 市長は刃を恐ろしい速度で振り下ろす! 64
2016-08-04 20:13:59_シンクアイは猫のように刃を避け、背後に回り込んだ。刃の先はがらくたを切り裂いただけだった。悲鳴のような音が響く。 「な、なんだこの声は」 「がらくたは未練の塊よ。大切にされながらも主人の元を離れたがらくたたち、それをあなたは切り裂いたのよ」 65
2016-08-04 20:17:58_再びがらくたに怒りが満ちていくのが分かる。市長はそれさえも気づかずに、刃を振り回す。 「こんなもの、ゴミでしかない! イミルアだけが価値のある物だ!」 「わたしはそうは思わない。イミルアもがらくたの一つだよ。ここにあるがらくたと、何一つ違わない」 66
2016-08-04 20:24:18_虹色の糸ががらくたの切り口から噴き出す! 「がらくたの怒りを思い知りなさい!」 シンクアイは市長を後ろから羽交い締めにして動きを止めようとする。がらくたたちは次々と目覚め、虹色の糸を纏い四方から襲いかかる! 人形、コップ、瓶、本が! 67
2016-08-04 20:28:00「何故だ、モーターが動かない……やめろ、近寄るな!」 女性一人などたやすくねじ伏せるはずのガスモーターが、そのときは虹色の糸に絡めとられ機能しない。 「シンクアイさん!」 フィルは彼女に逃げるように促す。だが、彼女は首を横に振った。 「イミルアを……頼みます」 68
2016-08-04 20:35:47_市長はぎこちなく刃を振り回し糸を切り裂こうとする。だがその刃にも虹色の糸は絡みつき、やがて動かなくなった。市長と、それを押しとどめたシンクアイの上に大量のがらくたが虹色の糸を絡ませながら覆いかぶさっていく。 フィルとレッドは見ていることしかできない。 69
2016-08-04 20:41:10_そして、後に残ったのはがらくたの山だった。虹色の糸は光を失い蜘蛛の糸に変化していた。レッドは掘り起こしてみようとするが、糸の密度が高く動かすことは出来なかった。まるで何かの巨大な繭だ。 「しょうがない、イミルアを探そう」 そう言って、二人は小部屋を後にした……。 70
2016-08-04 20:46:05【用語解説】 【握手】 友好の印。基本的に片手で握り合うのが通例だが、種族ごとに変わった握手を持つ者もいる。ハーピィの場合、地面を歩く足で握手をするのは失礼とされる。握手の代わりに、翼を広げて舞を踊るのがハーピィ流の握手なのだ。部族ごとに踊りに特色があり、文化として継承される
2016-08-04 20:55:38