その魔法を空に向かって放て#1 学び舎の春◆2
_ルアニトル少年は目の輝きをそのままに帰宅した。意気揚々、興奮した気持ちを抑えずに、そのまま机に向かって魔導書を開く。 (今日は見学の偉いひとがいた……嬉しいなぁ。僕の将来を見守ってくれている) 卓上灯の電球がチカチカ明滅した。 11
2016-08-12 20:22:11_魔法の律、魔法陣の全てがするすると頭に入る。コーヒーを淹れ、さらに勉強を続ける。希望が彼に何の疑いもなく力を与える。 (学習は力になる。そして力は未来を約束する!) カップを呷る。コーヒーは無くなっていた。そこでようやく疲れを感じる。 12
2016-08-12 20:26:42(今日はこの辺にして、明日の僕に任せよう) ルアニトルは寝支度を手早く進め、ベッドに横になって電灯を消した。目を閉じて今日の成果を確認する。 (よくできた一日だった……だから、明日からもきっと僕は大丈夫なんだ) 思い描く夢はどこまでも壮大だった。 13
2016-08-12 20:32:35(僕は他のたくさんの人々の力になりたい。誰にも苦労はさせたくない。皆のために魔法を使うんだ。きっと僕の行いは皆に尊敬されるはず……皆のために尽くしたい!) 「いいや、違うね」 夢と覚醒の狭間で揺れていた精神に強い衝撃を与えられ、ルアニトルは目を白黒させた。 14
2016-08-12 20:43:09「ここは……」 真っ赤に燃える空。夕焼けでないことがすぐに分かった。青空を覆いつくすような業火が渦巻いているのだ。ルアニトルは一人廃墟に仰向けになっていた。血だまりだ。血だまりに倒れている。やがて業火は消え、流星が青空を横切る。誰かの声。 「あなたは危険すぎる」 15
2016-08-12 20:46:08_仰向けに倒れたまま声のした方へ顔を向けるルアニトル。そこには、詰襟にスカート、黒タイツの女が立っていた。学帽を被り、顔は垂れ布で隠されている。 「私はあなたの未来を刈り取りに来た」 「一体何を……?」 16
2016-08-12 20:49:11「あなたは誰にも尊敬されない。あなたの強すぎる力は最もくだらないものに費やされ、全てを失って何も得られないのだ」 「どうしてそんな意地悪を……」 彼女はルアニトルの全ての問いを無視し、その場を立ち去った。入れ代わりに無数の蝶が現れる。 17
2016-08-12 20:52:09「どうして……僕が何をしたっていうんだ。どうして僕にそんな呪いを……」 無数の蝶がルアニトルの身体に纏わりつく。手で追い払おうとしても力が出ない。蝶は細長い口を彼の眼球に突き立てる。 「やめ……やめて……」 そこで目が覚めた。 18
2016-08-12 20:56:37_言い知れぬ大きな不安を抱えたまま、ルアニトルは登校した。そこで彼は残酷な事実を知る。 「魔界の魔法律が変わったって……?」 「ああ、ほとんどの者には影響ないっていうけど……」 不安そうな同級生。魔界とは帝都全域に張り巡らされた魔法のルールであり、魔王が管理する。 19
2016-08-12 21:01:31_ルアニトルは同級生から逃げるように人の気配のない階段の踊り場へとやってきて、魔法を使った。 あの夢が嘘だと信じて。魔法律が自分を裏切っていないことを信じて。しかし……。 「あががっ」 彼は魔法の発動中突然痙攣をおこし、気絶してしまったのだ。 20
2016-08-12 21:05:30【用語解説】 【学校】 魔法の使えない市民の通う学校と、魔法使いの通う学校は明確に区別されており、政府の管轄も違う。市民学校は教導院の管轄で、文字の読み書きや神話を教える。魔法学校は高度な魔法技術を教える場所で、魔導院が支配する。
2016-08-12 21:10:58