- attakamosirenai
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そう、お父様にとっては昔の話。いいえ、今も同じかもしれない。少なくとも彼にとって、ホムンクルスはただの実験体。それ以上でも以下でもなく、その死後に続く世界でも、存在の価値はそう変わらない。そんな中でも一人違うの、私はね、私だけはね、どこか違った、何故か違った、それだけのお話。
2016-09-23 02:05:23「なぁにこれ。マスター、貴方こんなことも勉強しなきゃいけないの?」「キャスター邪魔するなって!明日の朝までに出さないと先生に怒られるんだよ!」「ふぅん。なら行かなきゃ良いのに、そんなに嫌いなら捨てれば良いのに、そっちの方が合理的なのに」「薄々感づいてるけどお前その辺冷めてるよな」
2016-09-23 02:35:58「冷めてるってなぁにマスター。そんな湯沸かし器みたいな言い方しないで頂戴、ううん湯沸かし器にこの言い方は失礼かしら?」「いや絶対意味違うからなソレ」「そもそも何で勉強するの?何で新しい事を知りたいの?やっぱり人間って分からない」「ううん、それはお前が知らなきゃいけないことだよな」
2016-09-23 02:39:39「分からないわマスター。だって知れば知るほど知らないことが増えていくでしょう?水は氷点下で凍ります、けれど冷たさは触れるようになるまで知らなかった。海には沢山の物質が溶け込んでいます、けれどその塩っ辛さは舌ができるまで知らなかった。無知は罪だわ、知れば知るほど重罪になるの」
2016-09-23 02:43:51「ううん、いいえ、そうね、分からない。罪の重さはわからない、だって被った事がないもの。そもそもフラスコの中の私という概念がこんな肉体を持ってる時点で、何だか物凄く可笑しな話よ。ねえマスター、貴方は私を呼び出して何がしたかったの?何にも知らない私に対して、一体何を望んだの?」
2016-09-23 02:46:45そう聞いたらマスターは笑った。嬉しそうに笑って、悲しそうに泣いて、何処か彼の面影を残す少女(わたし)の体躯を抱き締めた。その理由はついぞ、私には分からずじまいだった。 (ああ、うん)(特に意味はないんだけどさ)(多分僕はお前に『教えて』って請われてみたかったんだ)
2016-09-23 02:53:07「君のいない世界にも何かの意味はきっとあって でも君のいない世界など夏休みのない八月のよう 君のいない世界など笑うことないサンタのよう 君のいない世界など」っていう前回最後の一人になったけど肝心のマスターはとっくに死んでてそれでももう少しだけと願ったフラスコの中の小人……?
2016-09-23 02:57:47女のコは何で出来てるの?男のコは何で出来てるの?そんな童話があったわね。私?私はね、色んな説が転がってるわよ。他のみんなとこの私、一体何が間違っちゃって、どうして私は生まれたの?わかんない、わからない。けれど一つ確かな事は、私のお父様は間違いなく、かの有名なあの人って事だけよ。
2016-09-23 17:37:39生まれる事が奇跡なら、生まれた事がさいわいならば、答えはとっても簡単だったの。それだけで生きていけるのなら、この世はもっとシンプルよ。でもそれだけじゃ面白くないでしょう?斬って、殺して、生肉剥いで、でもそれだけじゃヒトは満足できなくて、だから調理法が山のように増えたんでしょう?
2016-09-23 17:41:18だからこんにちはお父様、さてはて私はいかがかしら?冗談じゃないわ、私はここにいる。胸にきゅっと抱き締めてね、でもあまり強くはしないで、硝子が割れちゃ大変よ。ごめんなさいねお父様、私は完全なんかじゃない、完全なんかになれやしないの。こういうとき、ヒトは誰かに謝るのでしょう?
2016-09-23 17:44:27月はどうして明るいの?空はどうして青いのかしら?冬は寒くて夏は暑い、それは一体何故かしら?動いているのは天か地か、答えは一体どちらかしら?私は何でも知っている、いいえそんな事はない。知ってる事しかわからない、知られていることしかわからない。それが私、そんな私、不完全の生命体。
2016-09-23 17:46:27根源?何それ。ああ、それ?そうね、もしかしたら知ってるのかも、いいえ全く知らないのかも。其処に繋がる誰かを見れば、其処とよく似た誰かと語れば、私にも理解できるかしら。そうよ、そうよお父様。私は硝子瓶の中、知ってることなんてほとんどないの。知ったかぶりをしてるだけ。
2016-09-23 17:48:49寂しい?悲しい?それってなぁに。ヒトとして大切なこと?そう、なら私も知らなきゃいけないかしら。私の意志?無いわよそんなの。あるとしたら一つだけ、お父様の願いを継ぐことだけ。私はお父様の子どもだもの、魔術師のお父様の子どもだもの、ならば願いを継ぎましょう、いつか叶うと知る日まで。
2016-09-23 17:51:10なのにね、なのにね、可笑しいのよ。これは駄目よお父様。何故かしら、嫌な感じ、不思議な感じ。お父様の願いだけで良かったのに、私は何を得てしまったの?スターゲイザー、観測者、配役者のキャスターは舞台裏にいるべきなのに、可笑しいわねお父様。私ね、彼をね、勝たせてみたくなっちゃったのよ。
2016-09-23 17:54:40我がマスターに聖杯を!禁忌だろうが知りはしない、彼の家族を取り戻す!星空に瞬く小さな星に、網を放って捕まえて、そうして地上に引き戻すのよ!過去の悲しみとはもうオサラバ、だから笑って、私のマスター。 そうね、だから多分、私は悪酔いしちゃったんだわ。
2016-09-23 17:58:19月を見過ぎたら狂うだけ、太陽に向かって飛べば墜落するだけ。天に近付き過ぎたものには、例外なく制裁が下される。神代より続くお約束、それだけのお話よ。ごめんなさい私のマスター、私には思い出せないの、貴方は一体どんな顔で、私に笑いかけてくれてたのかしら。
2016-09-23 18:04:38優しさはもうたくさん貰ったわ、愛もたくさん受け取ったわ。ありがとう、ありがとう、私にも誰かを愛せたかしら。だから今度は痛みを頂戴。悲しみを、憎しみを、身を焦がすような絶望を頂戴。泥々の聖杯から溢れる嘆きを頂戴。憎しみと愛しさは表裏一体、ならそのふたつを繋いで殺して。
2016-09-23 18:07:45もしも2度目があるのなら。今度は貴方が殺される前に、きちんと捨てて頂戴ね。それが道具の矜持、それがモノの生きる意味、放って忘れ去られるのは悲しいわ。なかった事にしないでね、私の愛したマスターさん。
2016-09-23 18:09:37泥々の私はここで待つのよ、私はただの残り香だもの。私にとっては既にこの世はエピローグ、バッドエンドの後の後日譚。引き伸ばし過ぎるのも見苦しいわね?けれどそうね、当事者目線で無い場所から眺める戦争も、これはこれで面白かったわ!
2016-09-23 18:14:25「けれど悪役は悪役らしく、最期まで非道に振舞いましょう?殴り甲斐のないヒールなんて、ド三流の中のド三流よ!奸計裏切りオールオッケー!真っ黒な私と死人のマスター(あなた)、ここで殺される日を待ちましょう!」
2016-09-23 18:16:33聖杯キャスターさん、父親は見ての通りアレだし母親はいないし産まれた胎内は馬かはたまたフラスコかっていう人外だし、曲がりなりにも在り方は魔術師だから一応目的の為なら何でもするよって感じかね? 何でもするよ 多分聖杯が『人の悲劇って美味しいわよね!』ってタイプの硫酸泥々だったのが悪い
2016-09-23 22:58:46「私は人を知りたいの。何処を突いたら真っ赤な血が噴き出すのかしら?何処を割いたら悲鳴を上げてくれるのかしら?優しさは教わった、けれどそれじゃ全ては知らない。人を殺して殺されて地獄に落ちて救われて、そうして続くヒトという生き物が、私は知りたい、教えて頂戴」 #多分こう
2016-09-23 23:01:48「喜怒哀楽の全てを知りたい。ヒトの感情の全てを知りたい。魔術師で無い、普通のヒトが、どうしてそれでもこの悲しい寂しい世界を今日も生きていられるのか教えて頂戴。でないと私分からないわ、私のマスターを取り戻せない。マスターの愛したヒト達が、どういう人なのか分からないの」
2016-09-23 23:04:34