2016年ノーベル物理学賞についての簡単な解説

Thouless, Kosteritz, Haldaneのノーベル賞受賞理由である「トポロジカル相」が何を意味しているのか、どう特殊なのか、ベーシックなところを簡単に解説してみました。
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The Nobel Prize @NobelPrize

BREAKING NEWS #NobelPrize in Physics 2016 to David Thouless, Duncan Haldane and Michael Kosterlitz pic.twitter.com/5jw75GIjRv

2016-10-04 18:47:00
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シータ @Perfect_Insider

マジか!取ってしかるべきだが取らないだろうとと前にtweetした人が取ったとは。twitter.com/Perfect_Inside…

2016-10-04 18:48:54
シータ @Perfect_Insider

固体物性理論だと、ThoulessとかHaldaneとかはもらっていい気がしている。逆にトポロジカル絶縁体のKane-Meleはノーベル賞向きな気はするけど、そこまでの成果かといわれると悩ましい気分。

2016-09-22 23:01:26

この辺りは物理専門家向けの講義ノート紹介

シータ @Perfect_Insider

Haldane予想に関しては田崎さんの「量子スピン系の理論」が古いけどよくまとまってると思うci.nii.ac.jp/naid/110006478…

2016-10-04 18:52:40
シータ @Perfect_Insider

KT転移は、高橋和孝さんの「相転移・臨界現象とくりこみ群」の講義ノートがわかりやすいのだが、今は出版準備中でオンラインにない。他はこの修士論文のレビューパートかrepository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstre…

2016-10-04 18:59:36

ここから一般向け解説

シータ @Perfect_Insider

ノーベル物理学賞関連の解説を少し投げます。詳しい方は間違っていたら訂正・補足等お願いします。

2016-10-04 23:01:52
シータ @Perfect_Insider

【相転移とは?】例えば永久磁石は、分子レベルの小さな磁石が集まってできています。その小さな磁石の向きが揃っているので、普段使う永久磁石は磁石になっています。しかしこれは温度が低いときの話で、例えばバーナーで加熱すると小さな磁石の向きはバラバラになり、磁力がなくなります。

2016-10-04 23:02:11
シータ @Perfect_Insider

小さな磁石は「近くの磁石と向きをそろえたがる傾向」と「好き勝手な向きをとる傾向」の両方があり、温度が低いと前者が、高いと後者が強くなります。低い温度の「向きが揃って磁石になっている状態」と「向きがバラバラで磁石でない状態」は明らかに違う状態なので、これらを別の「相」と呼びます。

2016-10-04 23:02:39
シータ @Perfect_Insider

磁石が揃っている相を「秩序相」(強磁性相)、バラバラの相を「無秩序相」(常磁性相)と呼びます。二つの相はある温度を境にガラッと切り替わります。これを「相転移」と呼びます。二つの相は絵にするとこんな感じです。campus.ouj.ac.jp/~hamada/TextLi… pic.twitter.com/5JYQQgJEZq

2016-10-04 23:04:09
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シータ @Perfect_Insider

【トポロジカル相とは?】物質によっては、「小さな磁石は回りと向きを揃えたがるが、物体全体では向きが揃わない(全体として磁石にならない)」状態になることがあります。そうすると、ある小さな磁石が向きを変える際には「周りの磁石と大きく向きを変えない範囲でしか動けない」ことになります。

2016-10-04 23:04:33
シータ @Perfect_Insider

このとき、小さな磁石が下図のような渦を作っているとすると、「周りと向きを大きく変えてはいけない」というルールの下で小さな磁石を動かしても、渦の中心の位置が動くだけで、渦そのものを消すことはできません。skepticsplay.blogspot.jp/2013/02/what-a… pic.twitter.com/YsBsJLVBJv

2016-10-04 23:05:07
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シータ @Perfect_Insider

このように、小さな磁石の向きを少しずつ変えても、消すことのできないような性質を「トポロジカルに不変な性質」といい、このような性質が存在するような相を「トポロジカル相」と呼びます。KosteritzとThoulessは、無秩序相からトポロジカル相への転移を見つけました。

2016-10-04 23:05:46
シータ @Perfect_Insider

このルールの下で一つの渦を消したければ、渦を物体の端まで移動させて境界で消す必要があります。似たような例として、ボタンの掛け違えを見てみましょう。Yシャツを着る際、上のボタンは揃えていたのに、どこかで穴を一つ飛ばしてボタンをかけてしまい、最後にボタンが一つ余ったとしましょう。

2016-10-04 23:06:10
シータ @Perfect_Insider

正しくボタンをかけるには、ボタンを一つずつ外しては正しい穴にかけて、を繰り返して、「一つ余っている穴」を端まで移動させる必要があります。端まで移動させない限り「ボタンの穴が一つ余って浮いている状態」を直すことは出来ません。渦も同じで、端まで動かさないと消えません。

2016-10-04 23:06:52
シータ @Perfect_Insider

ただし、「穴を一つ飛ばしてしまった」上に別の場所で「ボタンを一つかけ忘れた」場合、両端ではきちんとボタンと穴はあっています。この場合、「余った穴」と「余ったボタン」がボタンを一つずつずらしていって出会った段階で、きれいにボタンは正しい穴に収まります。

2016-10-04 23:07:19
シータ @Perfect_Insider

渦の場合もこれと同じようなことがあります。「時計回りの渦」と「反時計回りの渦」が出会うと、二つの渦はどちらも消えてしまいます。この場合は、端に渦をもっていかなくても渦をペアで消せます。これもトポロジカル相では実際に観測されている性質です。

2016-10-04 23:07:39
シータ @Perfect_Insider

【トポロジカルだと何が嬉しいの?】トポロジカル相の特徴はいろいろありますが、一つの特徴として「物体の真ん中ら辺の性質」と「物体の端(表面)の性質」とか結びつくという点が挙げられると思います。「端と真ん中の結びつき」があること自体は、Yシャツのボタンの例でもわかります。

2016-10-04 23:07:54
シータ @Perfect_Insider

「ボタンのかけ忘れをしたか」をチェックしたい場合、服の真ん中に「浮いている穴があるか」を探せばチェックできます。しかし、実は真ん中を見なくても、一番端で「ボタンの側に余りが一つ出ているか」を見てもチェックできます。これは真ん中の性質と端の性質とが結びつく非常に簡単な例です。

2016-10-04 23:08:40
シータ @Perfect_Insider

実際の物質のトポロジカル相だともっと複雑な結びつきですが、「端が重要」というのは一つのポイントです。Haldaneが提起した問題は、(最初は違う文脈でしたが)最終的にこのような観点から理解可能であることがわかってきました。

2016-10-04 23:09:32