吾輩はカプセラである。名前はまだ無い。 どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でFuckFuck啼いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて古代文明人というものを見た。しかもあとで聞くとそれはジョビという古代文明人中で一番獰悪な種族であったそうだ。
2016-10-21 12:35:56このジョビというのは時々我々を捕まえて煮て食うという話である。しかしその当時は何という考もなかったから別段恐しいとも思わなかった。ただ彼の船からの重力波に載せられてスーと持ち上げられた時何だかフワフワした感じがあったばかりである。
2016-10-21 12:37:39重力波の上で少し落ちついてジョビの顔を見たのがいわゆる古代文明人というものの見始めであろう。この時妙なものだと思った感じが今でも残っている。第一毛をもって装飾されるべきはずの顔がつるつるしてまるで薬缶だ。その後カプセラにもだいぶ逢ったがこんな片輪には一度も出会した事がない。
2016-10-21 12:39:22のみならず首の後ろがあまりに凹凸している。そうしてその穴の中から時々ぷうぷうと煙を吹く。どうも咽ぽくて実に弱った。これがジョビの飲むブースターというものである事はようやくこの頃知った。
2016-10-21 12:41:40このジョビの重力波の裏でしばらくはよい心持に坐っておったが、しばらくすると非常な速力で運転し始めた。ジョビが動くのか自分だけが動くのか分らないが無暗に眼が廻る。胸が悪くなる。到底助からないと思っていると、どさりと音がして眼から火が出た。
2016-10-21 12:42:51ふと気が付いて見るとジョビはいない。たくさんおった社員が一人も見えぬ。肝心の社長さえ姿を隠してしまった。その上今までの所とは違って無暗に明るい。眼を明いていられぬくらいだ。はてな何でも容子がおかしいと、のそのそ這はい出して見ると非常に痛い。
2016-10-21 12:45:19ようやくの思いでWHスペースを這い出すと向うに大きな池がある。吾輩は池の前に坐ってどうしたらよかろうと考えて見た。別にこれという分別も出ない。しばらくして啼いたらジョビがまた迎に来てくれるかと考え付いた。Fuck!!Fuck!!!と試みにやって見たが誰も来ない。
2016-10-21 12:47:49そのうちガス雲の上をさらさらと星が渡って日が暮れかかる。腹が非常に減って来た。啼きたくても声が出ない。仕方がない、何でもよいから食物のある所まであるこうと決心をしてそろりそろりとガス雲を左に廻り始めた。どうも非常に苦しい。
2016-10-21 12:52:01そこを我慢して無理やりに這って行くとようやくの事で何となくジョビ臭い所へ出た。ここへ這入ったら、どうにかなると思って防壁の崩れた穴から、とあるステーションにもぐり込んだ。縁は不思議なもので、もしこの防壁が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍に餓死したかも知れんのである。
2016-10-21 12:54:30一樹の蔭とはよく云ったものだ。この防壁の穴は今日に至るまで吾輩が隣のスリーパーを訪問する時の拠点になっている。さてSTへは忍び込んだもののこれから先どうして善いか分らない。そのうちに疲れる、腹は減る、金は減る、ローグドローンが降って来るという始末でもう一刻の猶予が出来なくなった。
2016-10-21 12:58:00