歴史IF小説:もしもキキのいる世界でWWIIが起きていたら
- tknr_koume
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すべての人には伝えられない。でもとにかく一晩、伝えられる限り伝えなければならない。多くの人の命を奪った自分だからこそ、今度は助けなければならない。キキは危険をまったく顧みなかった。どうせ私にだって残されている時間は少ないんだから……。
2011-07-08 22:07:08夜明けを目前に控え、ちょっとしたミス(子供が泣くとか)で親衛隊に見つかるキキ。謎のスパイがいると蜂の巣をつついた大騒ぎになり、サーチライトが幾条も空を貫く。「何の騒ぎだ!」「連合軍の空襲か!」「住宅の屋根に……!」対空砲や機関銃が空に向けられる。
2011-07-08 22:12:38「戦時警戒令(クリークスファーンドゥング)、戦時警戒令(クリークスファーンドゥング)。全ての親衛隊員および国防軍兵士は配置につけ」
2011-07-08 22:15:17そこでターンと響く一発の銃声。「おーい、ドロボー、ドロボー!そうだスパイは俺だー!」トンボが銃を明後日の方向に乱射しながら屋根で騒いでいた。瞬く間に拘束されるトンボ。その頃、キキは海へと脱出していた。
2011-07-08 22:18:45キキは海を越えて森へと向かう。ウルスラの家に隠れようというのだ。だがウルスラの姿はない。家の中は荒らされており、絵の多くは切り裂かれていた。彼女は「退廃芸術家」と見なされていたため、摘発を逃れて早くも立ち去っていたのだった。
2011-07-08 22:23:00「どこにいるの!返事をして!」もちろん返事はない。だが、家の一番奥で、キキは新しい絵を見つけた。ウルスラはここに戻って絵を描いていたのだ。それは焼かれて真っ黒になった町の中で、キキと思しき少女が汚れることもなく人々に手紙やパンを届けている絵だった……。
2011-07-08 22:30:17やがて連合軍の爆撃が始まる。朱に染まるコリコの町。人々が黒い魔女の姿を見ることは二度となかった。そして時は過ぎ──戦争は終わった。
2011-07-08 22:35:10トンボは屋根の上で拘束されたあと強制収容所に入れられていた。解放されたのち故郷に戻るが、裏切り者として裁かれてしまう。死刑判決を受けて時計塔に収監されるトンボ。が、それでもまだトンボは獄中から空を見続けていた。
2011-07-08 22:40:27死刑の当日、満月の夜。空を見上げるトンボの前にデッキブラシに乗った魔女が音もなく舞い降りる。鉄格子を介して言葉を交わさずにすべてを理解する二人。そっと手が触れ合い、魔女は再び空へ舞い上がる。その背後で扉が開き、告解を聞くために牧師が現れる。
2011-07-08 22:45:24満月の中へと小さくなっていくキキを見送りながら、トンボが少年に戻ったような表情で、小さくささやくように呟く。「魔女子さん、かっこいい」(了)
2011-07-08 22:50:04