『連続無銭飲食～堕飲(ダインアンドダッシュ)』　発案：氷原公魚

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 信号無視して走り去ったロシア製高級外車。その窓から微かに薔薇の香りが漂う。歩道を歩いていた今年八十八歳の老人は、その残り香に紛れた甘酸っぱいゲロの匂いを嗅ぎ取った。「ほぅ。今のが最近噂のルシアンローズか。危険な芳香よの……ほっほっほ」老人が笑う。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 老人は桐の杖に体重を預け、曲がった腰を庇いながら一歩ずつ歩を進める。その歩みは牛のように遅く、何処をどう見ても整形外科にタクシーで通院していそうな爺にしか見えない。だが、歩道からファミリーレストランのドアを潜るその姿――そこには一切の無駄がない。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p レジ前を通り過ぎる老人。余分な力の抜けたその動きは、明日にも死ぬのではないかと疑いたくなるほど生気がなく、まるで生ける屍のようだ。そのまま老人は無銭飲食には鬼門とされる一番奥の席に座り、ウェイトレスが気付くまでのおよそ十分間、席に座ってメニューを眺めた。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

ts_p 「お、お待たせして申し訳ありませんでした！」来客にやっと気付いたウェイトレスが、慌てて水を運んでくる。頭を下げる彼女に、老人は優しく声をかけた。「よいよい。それより、注文じゃが……」「はい、承ります！」「クリームソーダを所望じゃ。三十杯じゃ」 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 「さ、さんじゅ……」「三十杯じゃ」「ご、ご注文を繰り返します……三十杯」……こういう時、ファミリーレストランのマニュアル化された従業員教育は完全に裏目に出る。注文量がおかしいと思いつつも、ウェイトレスはそれを拒めずに伝票を入力することになるのだった。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p やがてテーブルに空のグラスが転がり、店中の注目を浴びて老人はレジ前に進んだ。老人は深く息を吸う。「お会計は…」「げふぅぅっ!!」ゲップを吐きかけるや、老人は逃走した。「あ、お会計ーっ!!」そのまま雑踏に紛れた老人に、ウェイトレスの声が届くことはなかった。 #tknk

元いのうえだったなにか @inouemoro

http://t.co/2T8JfyQl - コメントに　#tknk　を入れておけば見つけやすいのか・・・（いまさら）　クリームソーダの哲です。　何度も投稿すいません。

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元いのうえだったなにか @inouemoro

@Wakasagi_H @ts_p @nanaaaaaaaax @tonnyorori　影入れたversionです。少しはましになったかな？　いかがでしょうか～　　#tknk　 http://t.co/R9sESFUb

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クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 『連続無銭飲食～堕飲(ダインアンドダッシュ)』 http://t.co/P0pLHvWt に参加します。PNは黒実操。 #tknk

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 三杯目『聖処女（シスター）ジョバンナ“バルバレスコ”』 #tknk

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p ――バルバレスコ。ネッビオーロという品種のブドウを原料とする、イタリア産の最高級赤ワイン。生産地である、聖ジョバンニを守護聖人に頂く自治体の名を冠し、独特の芳香とスパイシーな風味が特徴である。なお、赤ワインの別称は「キリストの血」。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 雑踏に渦巻く様々な臭い。数多の体臭、香料、毛織物特有の獣臭……鼻が利く性質のジョバンナには拷問だ。不意打ちで、すれ違った老人が発した乳製品と合成のメロン香混じりのオクビを吸い込む。「うっ」鼻が、喉が蹂躙される。「――あれはクリームソーダの哲」ジョバンナは眩暈を覚えた。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 忌々しい老人の発した悪臭に、内側から侵される。悲鳴を堪える。と、ふと目に入ったワイン専門店。――神よ！　ジョバンナは十字を切る。「いらっしゃいま……」店員の青年が目を見張る。宗教画から抜け出てきたようなシスタースタイルのイタリア人女性、それがジョバンナだった。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 「バルバレスコをお願い。フルボトルでね」流暢な日本語だった。すぐに注文の品が運ばれる。最初の一杯は青年がサーブしたが、それをすっと飲み干し、彼女は恐ろしい勢いで手酌を始める。数度それを繰り返し、「もう一本お願い」と空瓶を振った。居酒屋で空の徳利を振るオヤジのように。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 「なんかこの人ちょっと」店員の青年は、嫌な予感を感じはしたものの「外人だからな」と思考を放棄した。ジョバンナは必死だった。聖なる「キリストの血」で体内を清めなければ。うっかり吸い込んだあの老人の呼気を消毒するのだ！　鬼気迫る勢いで七本目を空にする。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p 「ぎぅ」嫌な声――音というべきか――をジョバンナが発した。青年は見た。滑らかな彼女の頬が、ぶわっとありえない大きさに膨らんだのを。それが一拍置いて、何事もなかったかのように萎んだ。微かな刺激臭と、震える唇の端から赤い液体が一筋……。「あの」青年が見かねて声をかける。

クロミミ跡地 @kuromimigen

@ts_p ぐらり。ジョバンナの首が仰向く。顎を垂れる赤ワインが、首筋にまで流れる。白い肌に赤い筋。背徳的な美しさに青年は目を奪われた。ジョバンナは十字を切ると、「こ、の、苦しみは暴食の罪、や、これ呑みです食べてないですぅ……神よ！　お許しを！」と嘆きつつ、店から転げ去った。

ハラペコ一号💀通常運転 @tonnyorun

@ts_p 『連続無銭飲食～堕飲(ダインアンドダッシュ)』シスター・ジョバンナの挿絵、不備があったので修正しました！（。・v・。）ﾉ　#tknk http://t.co/FZ40IRur

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氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 『連続無銭飲食～堕飲(ダインアンドダッシュ)』Dine and dash。 http://t.co/EwifbSHN　四杯目『消失の魔術師(マジシャン)秋山“レミーマルタン・ルイ13世”』PNは氷原公魚。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p ――レミーマルタン・ルイ13世。レミーマルタン社は1724年創業。全製品がVSOP以上、フィーヌ・シャンパーニュという肩書きを誇る。ルイ13世はグランド・シャンパーニュ産の原酒のみで作られた同社最高級品で、ボトルもバカラ社製クリスタル。極めて希少な逸品。 #tknk

氷原公魚@竹の子書房北海道支社勤務 @Wakasagi_H

@ts_p 面白みのない実用一辺倒の眼鏡をかけた秋山は、ネオン瞬く繁華街を歩いていた。途中の路地で、青白い顔色をしてビルの壁にもたれかかっているシスターを見かける。「呑みすぎで苦しそうですね、シスタージョバンナ。でも、吐いてはいけません。神と酒への冒涜ですからね」 #tknk