カース・オブ・エンシェント・カンジ、オア・ザ・シークレット・オブ・ダークニンジャ・ソウル #1
第2部「キョート殺伐都市」より 「カース・オブ・エンシェント・カンジ、オア・ザ・シークレット・オブ・ダークニンジャ・ソウル」#1
2011-11-30 21:39:42数年前。ネオサイタマの、とある繁華街。猥雑なLEDカンバンに映し出されたオイランと漢字が、重金属酸性雨に頬を撫でられる夜。 1
2011-11-30 21:48:30デッドエンド。暗いビル街の谷間。ネオンサインが青い火花を散らす。その男は一本のカタナを左の鎖骨に抱え、薄汚い路地裏の壁に背を預けて座り込んでいた。遥か上空に浮かぶホロトリイの朧な輪郭を、その男は空虚な瞳で見上げていた。ぞっとするほど何の反射も返さない、虚ろで空しい瞳だった。 2
2011-11-30 22:07:11男の身なりは浮浪者じみていた。だがいかなネオサイタマとはいえ、不吉なカタナを抱え、強いアルコール臭と返り血の染み付いたボロ服をまとう浮浪者は、珍しい部類に入るだろう。もう何日間も、あるいは何週間も、この裏路地が彼の家だった。彼の体は、冷たい重金属酸性雨にしとどに濡れていた。 3
2011-11-30 22:14:29常人であれば、24時間を待たずして衰弱死していただろう。だが彼は死なない。ニンジャソウル憑依者だからだ。 4
2011-11-30 22:17:57その男はピラミッド最深部で、太古のカタナとニンジャソウルを手に入れた。それと引き換えに、彼は生きる目的を見失ったのだ。彼は虚ろだった。それでいて、抜き身のカタナのように危険でささくれ立っていた。彼はまるでカタナだった。振るわれるのを待つだけの、完璧な均整の取れたカタナだった。 5
2011-11-30 22:25:30その新月の夜、黒塗りされたヤクザリムジン数台の列が、オスモウギャング団の抗争による交通規制を避けるべく、偶然にもその繁華街を通った。男が佇む裏路地の前を。 6
2011-11-30 22:37:15荘厳な金装飾が施された4台目のヤクザリムジンが、不意に裏路地の前で止まった。ネオサイタマ暗黒経済界の帝王が、不意に停車を命じたからだ。「どうなさいました?」ゲイトキーパーと呼ばれる紺スーツの男が、後部座席に向かって静かに尋ねた。ソウカイ・シンジケートの首領、ラオモト・カンに。 7
2011-11-30 22:44:13ラオモト・カンは答えない。分厚い紫色のシートに座したまま腕を組み、暗い車内でしばしパナマ産の高級葉巻を燻らせていた。この夜の彼は力と威厳に満ち溢れ、王者だけが放つことを許される圧倒的なニンジャソウルのオーラを身に纏っていた。 8
2011-11-30 22:55:36やがてラオモト・カンは、何も言わずに席を立ち、独り車外へと歩み出た。黄金メンポに隠された彼の口元には、小さな笑みが浮かんでいた。アルマーニの高級スーツが重金属酸性雨を浴びる。ゲイトキーパーが後を追いかけたが、ラオモト・カンはそれを制止した。彼は独り路地裏へと足を踏み入れた。 9
2011-11-30 23:05:43「……面白い」と、ラオモト・カンは路地裏を進みながら独りごちた。彼がそのような表情を作ることは稀であった。彼は裏路地を悠然と歩む。上空を飛ぶコケシツェッペリンの青白いサーチライトが注ぎ、浮浪者じみた男の姿を照らした。周囲にはまだ新しいヤクザの死体が、十数体も転がっていた。 10
2011-11-30 23:18:53男の空虚な瞳と、鎖頭巾に覆われたラオモトの視線が交錯した。いかなる言葉が交わされたのか、ラオモトにいかなる思惑があったのかは、解らない。もしかすると、両者は一言も発しなかったのかもしれない。ただ最終的に、ラオモトはカタナを拾うように無造作に手を差し伸べ、男はそれに応えた。 11
2011-11-30 23:28:55…そうとしか推測できないからだ。最初にラオモト・カンが、次いでその男が暗闇から姿を現した時、一戦を交えた形跡は見当たらなかった。ゲイトキーパーは胸を撫で下ろした。未だ幼きラオモト・チバは、黒いガラス窓越しにぽかんと見ていた。その若い男の、ぞっとするほど空虚なハガネ色の瞳を。 12
2011-11-30 23:52:14……その日より、男は数年間に渡ってラオモト・カンの懐刀として重用された。彼と彼の振るう妖刀ベッピンは、ソウカイ・シンジケートとラオモト家に忠実に仕え続けた……。あの日が訪れるまでは……。 13
2011-12-01 00:03:06「あの日が訪れるまでは……」上等な紫のアルマーニスーツを着た少年が、防弾ガラス越しにネオサイタマの摩天楼を睥睨し、忌々しげに独りごちた。数年前のあの夜を思い起こしながら。「フジオ・カタクラめ。薄汚い裏切りの犬め。僕はお前を許さぬだろう……」そしてダークニンジャの名を呪った。 14
2011-12-01 00:10:46そう、これより語られるは、魔剣を携えたかの暗きニンジャの物語。ソウカイ・シンジケートが壊滅し、ラオモト・カンが死んだあの夜、ダークニンジャことフジオ・カタクラは主君を裏切った。彼に信を置き、彼の名を呼ぶ者たちを裏切った。だが何故? 15
2011-12-01 00:16:17それを知るには、時を遡らねばならない。妖刀ベッピンとハガネ・ニンジャ……そしてエンシェント漢字の呪いを背負うフジオ・カタクラの秘密を明かすために……。ヌンジャ……。とても謎めいた言葉……。 16
2011-12-01 00:24:41第2部「キョート殺伐都市」より 「カース・オブ・エンシェント・カンジ、オア・ザ・シークレット・オブ・ダークニンジャ・ソウル」#1終わり #2へ続く
2011-12-01 00:25:40