悲しき沙悟浄

地味であるがゆえにキャラクター設定が自由なはずなのに…。
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カルヴァドス @cornelius0321

①『西遊記』で三蔵法師のお供をするのは、孫悟空と猪八戒と沙悟浄だ。このうち、孫悟空は「勇敢で力自慢」、猪八戒は「大食漢で女好き」というキャラクターと決まっている。

2012-01-08 02:40:50
カルヴァドス @cornelius0321

②では、沙悟浄はどうだろうか。孫悟空と比べると腕力は無いに等しく、猪八戒のように破天荒でもない。いたって地味な存在…。

2012-01-08 02:40:40
カルヴァドス @cornelius0321

③しかし、見方を変えれば、沙悟浄は地味な存在である分、いろいろと脚色して新たなキャラクターにすることが可能だ。反対に、「真面目な孫悟空」や「女嫌いの猪八戒」というキャラクター変更はあり得ない。

2012-01-08 02:40:33
カルヴァドス @cornelius0321

④『山月記』『李陵』で知られる中島敦は、そんな沙悟浄をテーマに、『悟浄出世』と『悟浄歎異』という小説を書いている。文学に疎い私は、中島敦にこんな作品があることを知らなかった。

2012-01-08 02:40:25
カルヴァドス @cornelius0321

⑤岩波文庫版を購入して『悟浄出世』を読んでみた。ここでの沙悟浄は、この世界のあらゆることに「何故」と問いかけ、「自分はなぜ存在するのか」ということまで考えずにはいられず、物思いに耽ってブツブツ独り言をいう妖怪という設定だ。

2012-01-08 02:40:15
カルヴァドス @cornelius0321

⑥つまり中島文学の沙悟浄は、「アイデンティティー・クライシスに陥った哲学者」なのである。

2012-01-08 02:40:07
カルヴァドス @cornelius0321

⑦悟浄はこの問いの答えを求めて、賢人や隠者を訪ね歩いたが、誰に何を聞いても、それぞれが違ったことを真理であるかのように述べるだけだということに気付き、「みんなお互い解ってないことを、解ったふりをしている」のだから、それを解らないと騒ぎ立てる自分は気が利かない奴だという結論に至る。

2012-01-08 02:39:58
カルヴァドス @cornelius0321

⑧もう一つの小説『悟浄歎異』は、沙悟浄による孫悟空の観察記だ。ここで、沙悟浄は、三蔵法師と孫悟空の性格を観察して何故、この師と弟子が互いを必要とするのかを確信する。

2012-01-08 02:39:30
カルヴァドス @cornelius0321

⑨ところで、『西遊記』といえば、孫悟空=堺正章、猪八戒=西田敏行、沙悟浄=岸部シロー三蔵法師=夏目雅子という鉄壁の布陣。ここでの岸部沙悟浄は理屈屋のキャラクターで、中島敦の設定した悟浄に近い。http://t.co/mfKNrdb1

2012-01-08 02:39:21
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カルヴァドス @cornelius0321

⑩堺正章は大物タレントとして活躍中であり、西田敏行も今や日本を代表する俳優としてその地位は揺るぎない。一方、沙悟浄を演じた岸部シローは、『ルックルックこんにちは』の司会で活躍していた1980年代後半ころまでが全盛期だった。

2012-01-08 02:39:11
カルヴァドス @cornelius0321

⑪その後は浪費や事業の失敗によって自己破産、再婚した夫人が急死するなどの不幸が次々と襲いかかり、ついには岸部自身も脳内出血で倒れるなど、「坂道を転げ落ちるような」転落ぶり。兄の一徳とは対照的だ。http://t.co/uZMr8TaQ

2012-01-08 02:39:03
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カルヴァドス @cornelius0321

⑫今では、たまにテレビに出ても、自虐ネタを披露するか、いじられるかだ。 http://t.co/OinMDQvI ただし、この岸辺シローは「企画をきちんと理解している」ので、ユーモアとして成立している。

2012-01-08 02:38:32
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カルヴァドス @cornelius0321

⑬数日前に岸部シロー(現在は四郎に改名)がテレビに出ていたが、脳内出血の後遺症で呂律が回りきらず、痩せ衰えて眼も虚ろだった。体調と放送していいのかという二つの意味で「岸部さん大丈夫か」と思ったほどだ。岸部シローが元気を取り戻す日は来るのだろうか。

2012-01-08 02:38:25
カルヴァドス @cornelius0321

⑭近代的自我に悩む沙悟浄の姿を通して、私が中島敦から得たのは、「自己の存在に不安を抱く者は、独り言をいう」(悟浄出世)ということと、地味な存在である沙悟浄には、「三蔵法師や孫悟空を客観的に眺める観察者の地位が与えられた」(悟浄歎異)ということだ。

2012-01-08 02:38:17
カルヴァドス @cornelius0321

⑮財産も地位も失って落ちぶれた岸部シローの姿と、「自己に不安を感じ…、心の中で反芻されるその哀しい自己呵責が、つい独り言となって洩れ」「俺は莫迦だ」「もう駄目だ。俺は」(p.135)という中島文学での沙悟浄の姿が重なり合って、悲しい。<この話題終わり>

2012-01-08 02:38:08