読売、IPS細胞移植報道を徹底検証する

13日朝、分刻みで記事が公表。 科学部だけにその検証に厳密を極めている。 しかし、なんでこんな嘘をつかなければならないのか・・・なぜ検証が足りなかったのか苦悩に満ちた報道である。
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KOIZUKA Akihiko @koizuka

[虚構新聞] reading iPS細胞利用で心筋移植、世界初の臨床応用 http://t.co/yvhZZFYU

2012-10-13 10:04:51

ハーバード大、「iPS細胞移植例ない」と説明

 iPS細胞(新型万能細胞)の心筋移植をめぐる森口尚史(ひさし)氏(48)の研究成果に疑義が生じている問題で、米ハーバード大学当局者は日本時間の12日朝、読売新聞の取材に対し、「iPS細胞移植に関する森口氏の話はうそだと確信している」と語り、今後、同氏の全研究成果を調査する方針を明らかにした。

 森口氏はハーバード大の「客員講師」を名乗っていたが、同当局者によると、同氏がハーバード大に属していたのは、1999年11月から2000年1月初旬までの1か月余りだけ。それ以降は、同大及び同大傘下のマサチューセッツ総合病院とは何の関係もなくなっているという。

 また、同当局者によると、森口氏が行ったとする心筋細胞の移植のためには、同大の倫理審査委員会の同意が必要だが、それを示す記録は一切なかった。森口氏は読売新聞などの取材に対し、「同大傘下のマサチューセッツ総合病院の複数の患者に細胞移植を行った」とも話したが、同当局者は「マサチューセッツ総合病院では、だれ一人として、そんな移植は受けていない」と強調した。

 さらに、森口氏が「少なくとも2本の論文について、同大倫理審査委の承認を得た」と主張していることについて、同大当局者は「大学の調査の結果、そうした事実がなかったことが確認された」と語った。同大は森口氏が発表した過去の論文すべてを調査する方針で、結果次第で森口氏のすべての論文の信頼性がなくなることもありうるという。
(2012年10月12日15時32分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121012-OYT1T00870.htm?from=popin

【おわび】iPS移植は虚偽…読売、誤報と判断

 iPS細胞から心筋細胞を作り、重症の心臓病患者に移植したという森口尚史(ひさし)氏(48)の研究成果に疑義が生じている問題で、同氏の論文の「共同執筆者」とされる大学講師が論文の執筆に全く関与していなかったことが12日、読売新聞の調べで明らかになった。

 同氏の研究成果については、米ハーバード大の当局者や複数の専門家も真実性を否定していることから、読売新聞は同日、同氏の説明は虚偽で、それに基づいた一連の記事は誤報と判断した。

 大学講師が共同執筆者であることを否定しているのは、森口氏が心筋細胞の移植の研究成果をまとめたとする論文。森口氏は本紙記者に対し、この論文は「ネイチャー・プロト
コルズ」誌に掲載予定と話していた。

 同論文は森口氏を含む5人による共同執筆となっていたが、大学講師は同日、本紙の取材に対し、「森口氏とは約5年会っておらず、論文に名前が使われることは全く知らなかった」と語った。また、別の共同執筆者の大学教授は、ハーバード大の倫理審査について森口氏に尋ね、「クリアになった」と回答されたという。同大は倫理審査での了承を否定している。

 森口氏が先月、同誌に投稿した記事についても、共同執筆者の1人とされた大学助教が「知らなかった。私は研究に関与していない」と大学当局に話した。

 一方、森口氏は「東大医学部iPS細胞バンク研究室に所属している」と称していたが、東大によると、こうした研究室は実在しないという。同氏が「東京医科歯科大と行った」としていた共同研究については、同大が同日、「ここで行った事実はない」とのコメントを発表した。

 東大病院、東京医科歯科大は同日、森口氏が関係したとして発表された論文や研究の検証を始めることを明らかにした。

          ◇

 YOLに掲載されたiPS心筋移植に関連する記事に誤りがありました。おわびします。
(2012年10月13日07時01分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121013-OYT1T00115.htm?from=popin

検証「iPS移植報道」森口氏、治療の事実なし

 11日朝刊1面に掲載した「iPS心筋を移植」「初の臨床応用」の見出しの記事などについて、読売新聞は12日、iPS細胞(新型万能細胞)から心筋細胞を作り、心不全患者に細胞移植の治療を行ったとしていた森口尚史(ひさし)氏(48)の説明は、虚偽と判断した。

 その理由と、取材・報道の経緯などを報告する。

 ◆「共同執筆者」知らされず◆

 森口氏が患者への治療を試みたと主張している米マサチューセッツ総合病院(ボストン)の広報担当責任者スーザン・マクグリービー氏は12日(現地時間)、「iPS細胞の臨床研究に関する申請自体がない。(森口氏による)手術は、当病院では一切行われていない」と述べ、森口氏の主張を全面的に否定した。

 同病院は、11日に発表した声明でも、「ニューヨーク幹細胞財団主催の国際会議で森口氏が発表を予定していた研究成果は、病院では行われなかった」と明言している。

 同病院と密接な関係を持つハーバード大も11日、「森口氏の研究に関連するいかなる臨床研究もハーバード大及び病院の倫理委員会によって承認されていない」との声明を発表。森口氏はニューヨーク市内のホテルで記者団に対し、「誤解ではないか」と主張したが、マクグリービー氏は、「私が言えるのは、彼はわずかの期間しかこの病院にはおらず、それから10年以上も過ぎたということだけだ」と話した。

 森口氏が今回発表するとしていた論文の「共同執筆者」として名前が挙がっていた研究者らは12日、「iPS細胞について共同研究したことはなく、論文に自分の名前が記されていることも知らなかった」など、一様に困惑した表情で語った。

 共同執筆者とされたのは森口氏以外に4人いる。

 その一人、杏林大の上村隆元(たかもと)講師は、「iPS細胞について、私は全くの専門外。事前に一切連絡はなく、なぜ私の名前が入っていたのか分からない」と語った。上村講師によると、森口氏とは、ハーバード大で公衆衛生学に関する同じ短期講座を受講して知り合い、帰国後、公衆衛生分野の研究を共同で行った。しかし、ここ5年ほどは連絡を取っておらず、森口氏がiPS細胞の研究を行っているという話も知らなかったという。

 また、東大先端科学技術研究センター(先端研)の井原茂男特任教授も、「去年の今頃、遺伝子情報の解析を頼まれて、データを渡しただけだ。iPS細胞を臨床応用したという話も聞いていなかった」と話した。やはり共同執筆者とされた先端研の大田佳宏特任助教も「論文の中身や、名前が載ることについても知らなかった」と驚いていた。

 一方、森口氏が師事し、今回共同執筆者となった東京医科歯科大の佐藤千史(ちふみ)教授(健康情報分析学)によると、今年8月末、森口氏から今回の移植についてA4用紙2枚程度の論文概要がメールで送られてきた。ハーバード大の倫理審査を経たかどうかなどを森口氏に確認し問題ないとの回答を得たという。佐藤教授は12日、「注意が不十分だった」と話した。

 森口氏が今年9月に発表した「肝臓がんの細胞から作ったiPS細胞を使った新治療法」に関する投稿で、共同執筆者とされた慶応大医学部の興津太郎助教も12日、同大総務課を通じ、「掲載された研究に関与した事実は一切ない」とコメントした。

 ◆手術手法に専門家疑問◆

 森口氏は、問題となった手術に関し、自身がiPS細胞由来の心筋を注入した場面とする動画を本紙など一部メディアに公表した。

 この動画について、京都府立医科大の松原弘明教授は、画面に一瞬映る注入用の針が、2か所で折れ曲がった特殊な形をしている点を指摘した。この針を用いている研究機関は、同大しかないはずだといい、「注射する場所の目印として穴を開けたシートを心臓に貼るなど、特殊な技法が見られる。本当に、彼らがやったのか」と疑問を投げかける。

 森口氏が使用したというiPS細胞に対する疑問の一つが、遺伝子を使わずにたんぱく質と薬剤という2種の物質だけで作ったという点だ。

 山中伸弥・京都大教授のiPS細胞では4遺伝子を細胞内に入れて作られる。遺伝子を使わない手法の研究も行われており、可能性がないとは言えないが、多くの専門家は、「森口氏の手法は聞いたことがない」と首をかしげる。

 森口氏は、英国のネイチャーやランセット、米国のニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンといった有力専門誌に論文発表の実績があると主張している。だが、論文の掲載基準が厳しいことで知られるこの3誌で、本紙が確認できた森口氏の著作5本は、いずれも正規の論文ではなく、「コレスポンデンス」と呼ばれる短いコメント記事だった。また、5本とも東京医科歯科大の佐藤千史教授が共同執筆者になっていた。

 2012年7月28日本紙朝刊「卵巣の一部 凍結保存→4年後妊娠 米大学など成功」の記事では、研究成果は「科学誌ネイチャー・プロトコルズなどに28日発表した」とあるが、この関連で森口氏が書いたもので本紙が確認できたのは、同誌サイト内に併設された治療計画(プロトコル)についての自由投稿欄の記事だけだった。
(2012年10月13日07時02分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121013-OYT1T00128.htm?from=popin



11日朝刊などに記事掲載

 読売新聞の「iPS心筋移植」に関する記事の報道の経緯は以下の通り。

 まず、11日朝刊の1面及び3面「スキャナー」と同日夕刊の1、2面に、「iPS心筋を移植」「iPS実用化へ加速」などの見出しの記事を掲載した。いずれも、森口氏がiPS細胞から作った心筋細胞を重症の心不全患者に移植する治療を実施したという事実を前提としており、主要部分に誤りを含んだ記事だった。

 さらに、12日朝刊では、締め切り時間の早い12版全紙と首都圏近郊などに配られる一部の13版の1面に、「iPS 新手法で作製」「臨床応用へ開発広がる」という見出しの記事を掲載した。これも前提が誤った記事で、締め切り時間の最も遅い14版全紙と13版の残りの新聞からは削除した。

 このほか、同日朝刊では、12版全紙と13版の一部地域の社説や、13面「基礎からわかるiPS細胞の未来」の記事の中にも、「森口氏がiPS細胞から作った心筋細胞を心不全の治療に応用した」とする内容の記述があり、14版などでその部分を削除し書き直した。
(2012年10月13日07時11分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121013-OYT1T00145.htm?from=popin



徹底検証を続けます…読売新聞東京本社編集局長

 今回の事態を招いたことに対し、読者の皆さまに深くお詫(わ)びいたします。

 読売新聞は今月11日朝刊1面に、米ハーバード大の日本人研究者らがiPS細胞から作った心筋細胞を重症の心不全患者に移植したという記事を掲載しました。

 京都大の山中伸弥教授がノーベル生理学・医学賞を受賞することが決まった直後で、難治の病に苦しむ患者さんにとって「夢の治療」を身近に感じられる記事だったに違いありません。本社には、読者の方から「心強く勇気付けられた」という声も届きました。

 しかし、「初の臨床応用」の朗報に疑義が生じました。自ら本紙記者に売り込んできた東大医学部付属病院特任研究員で「ハーバード大客員講師」を称する森口氏は、口頭での発表を予定していた日、国際会議の会場に姿を現しませんでした。また、ハーバード大も、手術を実施したとされた病院も、移植手術を否定し、論文の共同執筆者に名を連ねる研究者も、論文の存在やその内容を知らないなどと答えました。

 「事実だ」と主張し続ける森口氏の説明は客観的な根拠がなく、説明もまったく要領を得ません。

 私たちはそれを見抜けなかった取材の甘さを率直に反省し、記者の専門知識をさらに高める努力をしていきます。

 本紙は過去にも森口氏の記事を取り上げています。そのうちの2010年5月の記事について東京医科歯科大が12日、同大での実験や研究を否定しました。ゆゆしき事態であると認識しています。

 iPS細胞の臨床応用の実現に大きな希望を抱いた患者さん、こうした患者さんを救うために日々、地道な研究を積み重ねている多くの研究者の皆さんの気持ちに報いるためにも、徹底的な検証作業を続けていきます。
(2012年10月13日07時08分 読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20121013-OYT1T00136.htm?from=popin