古代クレタの線文字Bを解読した建築家ヴェントリスについて
『暗号解読』。第5章ではナヴァホ語によるナヴァホ・コードトーカーの仕事に触れた後、話は言語そのものの解読へと移ります。それもまた、後世にとっては鍵のない暗号に他ならないからです。そこでヒエログリフに関するトマス・ヤングの研究と、それを引き継いだシャンポリオンに触れます。
2012-11-10 18:33:05当初表意文字だと思われていたヒエログリフ研究に対してヤングは一石を投じ、シャンポリオンは王の名前を示す囲みを突破点にして、それを解決します。それは、11世紀まで使われていたコプト語だったのです。その子細も含めて、こうした物事をドラマチックに描く術に、サイモン・シンは熟達してます。
2012-11-10 18:38:11そして、話は古代クレタの言語、線文字Bへ。サー・アーサー・エヴァンズによって発見されたこの文字は、当初ギリシャ語なのか、古代ミノア王朝のミノア語なのか議論が続いていました。というか、翻訳の試みは全て失敗に終わっていました。しかし、アリス・クーバーがつなぎ音節を発見します。
2012-11-10 18:48:37コーバーは早くに病死してしまいますが、建築家のヴェントリスが、その研究を引き継ぎます。素人ではありましたが、ヴェントリスは就学可能になってすぐにフランス語とドイツ語を習得、6歳にはポーランド語を独習し、7歳でドイツ語書籍からヒエログリフについて学ぶほどでした。
2012-11-10 19:09:00選んだ職業は建築でしたが、ヴェントリスはその余暇を線文字Bの解読につぎ込みます。文頭に記す母音記号の発見をきっかけに、ヴェントリスは街の名前から徐々に解読を進め、結果として、文体の古さや省略はあるものの、それがギリシャ語ではないかという仮説を立てるに至ります。
2012-11-10 19:12:51学問の世界において、ヴェントリスはあくまで素人研究家です。しかし、彼のラジオ出演をきっかけに、ヴェントリスの仕事について精査してみようという人物が現れます。ケンブリッジ大学のギリシャ語研究者、チャドウィックでした。当初、彼は素人研究と退けますが、質問に備え、論証を調べ始めます。
2012-11-10 19:15:50ところが、この精査によって、チャドウィックはヴェントリス説の最初の支持者となり、シンによれば熱烈な崇拝者となります。実の所、ヴェントリスには古代ギリシャ語の知識が欠けており、完全な解読は望めませんでした。しかし、チャドウィックはそれらに対する深い知識を持っていたのです。
2012-11-10 19:18:40ヴェントリスとチャドウィックは線文字Bの解読、そしてそれを論証する仕事を急速に進め、ついにはお互いへのメモを線文字Bで送り合うほどになります。そして、ついに論文や書籍となり、ひとつの革命的な仕事が結実したのです。ヴェントリスは書籍を見ることなく事故死しますが、その名は残りました。
2012-11-10 19:23:22とりあえず、私はヴェントリスの独創が当たり、次々と線文字Bが解読され、チャドウィックという両輪を得て解読が結実していくさまに感動したですよ(ぇ
2012-11-10 19:29:41しかし、一歩間違えばヴェントリスもトンデモ研究者の仲間入りしてたんじゃないかという危惧もないではないですが、一流学者であるチャドウィックと組んで仕事できたからには、そうしたトンデモ研究者の変な固執みたいな部分はなかったんじゃないかと言う気がしないでもなく。
2012-11-10 19:32:41まぁ、そもそもヴェントリスは元々エヴァンズのミノア語説に傾倒してたわけで、それを捨てて目の前に積み上がっていくギリシャ語説の証拠を手に取れる辺り、凡百のトンデモ研究者とは一線を画していると言えるのかもしれません。
2012-11-10 19:35:19……というか、トンデモウォッチャーやってて変な人ばっかり見てたせいか、こんな真っ当で凄い素人研究者がこの世にいたということそのものに感動します(ぇ
2012-11-10 19:39:09もし、アリス・コーバーの研究に触れる機会がなかったら、アムニソスという街の名前に研究結果を代入しようという発想がなかったら、BBCラジオ出演をチャドウィックが聞いていなかったら、少なくとも今の線文字B研究がなかったと思うと、本当に万感の思い。
2012-11-10 19:41:11