ひびのけい氏の世田谷パブリックシアター『クリプトグラム』評

演劇研究者である日比野啓氏『クリプトグラム』評。 世田谷パブリックシアター『クリプトグラム』 2013年11月06日(水)~2013年11月24日(日) @シアタートラム 続きを読む
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ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。小川絵梨子のきめ細やかな演出を堪能。谷原章介も安田成美も一本調子なところは残るも、よくぞここまで丁寧に演技をつけた。谷原は最初から力が抜けていて好感が持てるも後半やや失速気味。安田は最初は堅く格好をつけることにばかり気がいってどうなるかと思ったが後半持ち直す。

2013-11-07 21:46:42
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。子役の坂口湧久も達者で、台詞の息を詰めるところなど相当にしごかれたはずだがきちんとやり遂げた。ただ大人二人もそうだが75分の芝居なのに最後の30分は集中力が落ちて単調になる。この作品が役者に要求する力量がそれだけ大きく、三人ともそこまでの力はないということだ。

2013-11-07 21:52:25
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。しかしそれでも最後まで演技が雑にならなかったのは演出家の腕だろう。安田はメソッド演技に不慣れだったはずだが、無理に内面を作らせずに形から入らせた形跡がある。自分のやり方を押しつけずに柔軟に構えつつ、いつの間にかやりたいようにやらせてしまう小川の手綱捌きに感服。

2013-11-07 21:59:39
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。演出家の腕前を堪能した上演だったが、面白かったかというとそうでもない。マメットは岩松了同様、テクニックを極めたがゆえに普通の芝居に飽き足らず、曰く言い難い微妙な感情のやりとりを舞台化するという夢に取り憑かれて奇妙な作品を幾つも書いてるが、これもその一つ。

2013-11-07 22:04:13
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。だがその野心的な試みは今一つ評価されず、売れっ子劇作家の手すさびだと見られている点もマメットと岩松は似ている。その野心に共鳴した小川は自らの演出家としての野心もあり手をつけたのだろう。テクストの後ろに透けて見えるマメットの漠然とした悪意も含めよく舞台化してる。

2013-11-07 22:08:27
ひびのけい @hbnk

登場人物が動き熱を込めて何かを語るが、舞台にはもう一つ別のビジョンがだまし絵のように浮かび上がる。それがある時期以降のマメットの(そして岩松の)やりたいことだが、観客の多くにはその面白さが伝わらない。言語化されない感情が舞台に蠢くさまをみても何のことだかさっぱりという人間が殆ど。

2013-11-07 22:15:57
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』などの最近のマメット作品は、棋士が頭の中の将棋盤で架空の対局をするのに似ている。棋力が高いギャラリーは、二人の丁々発止のやりとりを想像することができて興奮するが、大半の人は目の前に将棋盤がないと何が起こっているかわからず困惑するだけ。

2013-11-07 22:21:19
ひびのけい @hbnk

だから今回の『クリプトグラム』は、通好みの作品を通好みの演出で楽しむにはもってこいだと言える。ただ、私が見た回の観客の大半はとまどっていたことも事実。もっとも、ニューヨーク初演をブロードウェイで見たときも観客の反応は同じだった。批評家の点は高かったが、難しいという感想が多かった。

2013-11-07 22:29:17
ひびのけい @hbnk

『クリプトグラム』。尤も、これほど高い水準の舞台を英語の翻訳劇で見られるとは十年前には予想できなかったことも確か。十年前までのパルコ劇場などでよく見られた「50年代のアメリカのテレビの俳優の演技を日本人がキザにマネしようとして恥ずかしいことになってる」演技は殆ど見られなかった。

2013-11-07 22:36:03