キタユキ（@k_t_y_k）氏の #加賀さん観察日記　2014年3月分（前月含む）

キタユキ @k_t_y_k

壁を何度か強く叩くと確かに扉が鍵に引っかかって噛み合う音がするのだが、開く気配は一向にない。建物の構造を【プレイヤー】が変えてしまったのか？聞くと古鷹は首を振る。「【プレイヤー】にその権限はありません。後から追加したならともかく、ここは初期設計から存在します」 #加賀さん観察日記

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最初からある建物ってことは、お前なんとかできるんじゃないのか。お前が作ったんだろ、ここ。「それが変なんです。絡まって開かないし、構造が…コードがめちゃくちゃになってる」中の様子は？中から開けてもらえないか？「一人…二人…いや、三人いるみたいです。通信繋げます」 #加賀さん観察日記

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スマートフォンが震える。発信者の名前は文字化けで読めず、受話器のマークも半分崩れかかっている。 ≪…ですので…早急にお戻りいただければと…≫ ≪…が………の……≫ ≪……≫ 通話ボタンを押して耳に当てると、向こうの会話はノイズ混じりで殆ど聞こえない。 #加賀さん観察日記

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(もしもし) ≪……の……≫ 話しかけてみるが、返答は途切れ途切れだ。 (風が語りかけます) ≪……≫ ≪……すぎ……≫ 切れてしまった。古鷹の肩から顔を覗かせたおそらく無線の妖精さんは全身草まみれになりながら、頭のあった部分の上で大きく手で×を作っている。 #加賀さん観察日記

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どうしようこれ、手頃な鉄パイプとかでブチ破れないかな。そう思い周囲の草叢と化した資材置き場を屈んで漁っていると、突如鼻先を鉄の塊が掠め飛んでいった。鼻先3cmで風を巻き起こしたそれは、勢いよく超音波の機械にぶつかり、巻き添えにして我々の元来た道を転がって行く。 #加賀さん観察日記

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「何してんです司令官様」鉄の飛んできた先を見ると、壁の大穴から光る眼鏡が見える。「これだからアホは嫌なんですよ」巻雲、お前の仕業だたっのか。「それより何なんですかさっきの百万石饅頭。もうちょっとムード考えてくださいよ。そんなんだからあの方も引きこもるんですよ」 #加賀さん観察日記

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「その扉、書き換えたので開きませんよ。こっちから入って下さい」巻雲にダボついた袖で手招きされ、古鷹と共に穴をくぐる。壁一枚を隔てた向こうは入渠ドックではなく、石灯籠と千本鳥居の立ち並ぶ、鬱蒼と木々の茂った砂利の参道となっていた。通ってきた穴はもう背後にはない。 #加賀さん観察日記

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玉砂利を靴で蹴飛ばしながら、巻雲の後を古鷹とついて行く。「本当にね、司令官様という方はですね、本当に本当に何もわかっていらっしゃらない」じゃりじゃり音に合わせ、巻雲はちらちらこちらを見て砂を噛んだような顔を見せ、その度に舌打ちをする。何が不満なんだ。全部か。 #加賀さん観察日記

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「武蔵様から、ここはゲームであなたは駒にすぎないという御説明は受けているのでしょう？」勿論。データのバックアップも戻して貰った。お前のこともよく思い出せたよ。「それなら結構…といいたいところですが、そこまでの説明をされておきながら、どうして何もしないんです」 #加賀さん観察日記

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何もしないとは。「はあ？」巻雲が明らかに不快感を露わにして、こちらを向く。「何でここまで言ってわからないんですか？ゲームである運命に抗うとか自分を作った人間に立ち向かうとかあるでしょうが。そんな簡単なコンテクストすら読み解けないカスなんですか司令官様？」 #加賀さん観察日記

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何か倒しにいくとか使命に燃えるとかポケモンマスターになるわけでもあるまいし…「司令官様の都合なんか聞いてないんです。そういう！流れがあるから！空気読めって！言ってるんです！」巻雲は袖を振り回し、怒鳴った。木々が少しざわめき、木の葉が枝から落ちる。 #加賀さん観察日記

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静寂が流れた。私も古鷹も巻雲も歩みを止め、木の葉だけがひそひそと互いの体を擦りあいながらこの茶番劇を見ている。「…おほん、とにかくですね、司令官様。司令官様はあの方が遊んでらっしゃるゲームのメインキャラ。主人公じゃないですよ？あくまでもメインキャラなんです」 #加賀さん観察日記

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「登場人物は登場人物なりの『役割』ってものがありますよね。司令官様は【提督】だから、【艦娘】に命令を下したり世話をして得たい情報や資源を得る。【艦娘】は能力を活かして敵を倒したり、見つけたりします。それがこのゲームの基本です。わかりますか？」言われずとも。 #加賀さん観察日記

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「わかったなら今度からは『それらしく』して下さい。大和様すっごい凹んでらっしゃるんですよ？『難易度上げるのに私の加入が遅いシナリオにしたらバグるし話進まないしレズ見せられるしもうやだ』ってガチ凹みされてるんですよ？」大和？「あっしまった…い、いえ、なんでも」 #加賀さん観察日記

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おい待て今大和っつったな。あいつが【プレイヤー】か。おい。巻雲はこちらの質問には答えず、失言を誤魔化すように早足で先を進んで行く。参道は山道に入り、岩を切り取ったままの形の無骨な階段が深い苔の絨毯に覆われて足裏を出迎えてくれた。あちこちに古びた碑と、花がある。 #加賀さん観察日記

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徐々に急勾配が続くようになり、誰も口を開こうとしなくなった。手摺代わりの鎖は錆びついていて頼りない。山肌は頑として座りこんでいるものの、肌にほろほろと小石と砂を落としている。岩の階段が終わると、道はまた樹林立ち並ぶ平坦な通りに入った。人の手が行き届いている。 #加賀さん観察日記

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始め通った道にも似ているが、綺麗に石畳が敷かれ、上には落ち葉一つない。少し歩くと目前に赤い門が現れ、近づいて大鳥居であることかわかった。鳥居自体はかなり前からあるものらしく、両端を結ばれた注連縄は経年によりますます硬く締まりを増している。くぐると、岩があった。 #加賀さん観察日記

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「大和様ー」ぽてぽてと巻雲が岩に駆け寄る。表面を青々した苔と瑞々しく咲く小さな花で化粧を施し、鳥居のものと同じ太い注連縄を巻かれた大岩は、傍目から見ると巨大な蔵に見える。あの中に大和が…【プレイヤー】がいるようだ。巻雲は岩肌に耳をつけ、真剣に何かを聞いている。 #加賀さん観察日記

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大和様何て言ってる。「はい、大和様、承りました」巻雲はこちらの問いには答えず、岩の中にいるらしい大和に向けて元気良く返事を返す。それからこちらに向かって小走りで寄ってくると、変にうやうやしく両袖を合わせ、深く頭を下げた。こちらもつられてオジギをする。 #加賀さん観察日記

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「よく来られました若き提督よ、こちらにおらわれ…おらわれ…おわぁ…おわぁ…おられます方は、かの大日本帝国海軍秘蔵の超弩級戦艦、大和様にございます！」急に声のトーンを三段階ほどあげ、白い袖をわざとらしくぶん回して海軍式の敬礼をする巻雲。何してんだお前。 #加賀さん観察日記

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「今は訳あってこのような岩戸に封印されておりますが、そのお力や八又の海に轟き、七つ頭の猛者達をも軽々と調伏される程にございます！」何を言い出すんだお前。訝しげに見ていると巻雲は敬礼を解き、こちらの服の襟に手を伸ばし、ぐいと乱暴に引っ張り顔を近づける。 #加賀さん観察日記

キタユキ @k_t_y_k

「巻雲に合わせてくださいよ！」耳元で囁かれる。何を合わせろと。「セリフですよセリフ！これやらないと大和様いつまでたっても出てこないんです！ちなみに大和様が封印された姫で、巻雲がその従者。司令官様は勇者です」提督なんですけど。「そういう役っつってんでしょうが！」 #加賀さん観察日記

キタユキ @k_t_y_k

「ほら！大和様怪しむから！早く！」えーっ、そこにいるのは大和だったのかーっ、すごいなーっ、あこがれちゃうなーっ。巻雲に腕を離され、よろめきながらも両手を小脇に固めた古典的ビックリポーズで驚きを表現する。多分見えてないけど我ながらもう少しマシなよはなかったのか。 #加賀さん観察日記

キタユキ @k_t_y_k

「反応がダサい！演技が芋！まあ何もないよりはよしとします。続けて」巻雲の手厳しいダメ出しを食らう。ようはここでは『大和様』の望むようなリアクションをしないといけない。めんどくせえ。天龍でも呼んでこい。あいつ元舞台女優だからそういうの上手いだろ。「いいから！」 #加賀さん観察日記

キタユキ @k_t_y_k

やまとさまー、やまとさまー、どうか直々にお話だけでもできませぬかー、この賤しい提督めにお声をお聞かせくだされー。「お聞かせくだされー」幼稚園児の学芸会でももう少し上手くやるだろと自分でも思いつつ、岩の中に篭ったままの大和に呼びかける。提督とは何だったのか。 #加賀さん観察日記