ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ア・ニンジャ・アンド・ア・ドッグ】

2014-02-28 13:23:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガーガガー、ガガガガガー。天然オンセンにひたした汚染スキャナが激しく鳴る。その湯は緑色に変色し、生息を許されるのはバイオカニだけ。「汚さない」「祖先が監視」と書かれた旧世紀のマナー看板は、もはや顧みられることもなく、ジャンクUNIXや医療廃棄物のパイルの中で朽ち果ててゆく。 1

2014-02-28 13:29:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ここも重度汚染。いつの時代も、自然破壊のツケを最初に払わされるのは、都市部の恩恵から切り離された郊外の人たちだわ……」サイバー登山服姿のナンシー・リーが言い、マウント・ジモトの裾野に広がる過疎地帯を見渡した。彼女の手には登山ステッキ。口元は簡易ガスマスクで隠されている。 2

2014-02-28 13:39:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

大型のTVカメラと通信機材を背負い、彼女の後ろに続くのは、同じく報道特派員のイチロー・モリタ。無論そのID身分証は偽造品であり、真の名前はフジキド・ケンジである。彼とナンシーはネオサイタマを離れ、中国地方ジモト市へと足を踏み入れていた。……重汚染と過疎化で半ば死に絶えた街だ。 3

2014-02-28 13:46:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨によって、山の木々はほぼ枯れ果て、傾いた電柱や濃度観測サイレン塔などのほうがむしろ目立つ有様だ。ヒュンヒュンヒュン……汚染された灰色の空を、暗黒メガコーポ群の黒塗り輸送ヘリが飛ぶ。ガララララ……それらは産廃コンテナの積荷を山に投棄して、平然と飛び去ってゆくのだ。 4

2014-02-28 13:51:35
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二人は山道を登り、マウント・ジモトの中腹を目指す。山頂に聳える巨大なトックリ状の建造物が見えた。カンタロウ・パワーズ社が十数年前に放棄したジェネレーターだ。その壁面には愛くるしいマスコットキャラクターや「暴力団追放」等のスローガンが書かれ、巧妙なイメージ操作の痕跡を覗かせる。 5

2014-02-28 13:57:56
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だがこのようなディストピア風景も、マッポー下の日本ではチャメシ・インシデントなのだ。彼らがここを訪れた理由は他にある。「イエティの気配は、どこにも無いな」遠ざかる暗黒ヘリを撮影しながら、イチロー・モリタが言う。「それどころか、野生モンキーの気配すら」「そうね」とナンシー。 6

2014-02-28 14:10:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「!これを見て」ナンシーが何かを発見した。電信柱に吊り下げられた赤いモンキー・ブードゥー人形が、無残に破壊され、撒き散らされているのだ。「こっちの電柱も。こっちも。辺り一面よ、気味が悪いわ」何者かの悪意を感じる。「……」イチロー・モリタはそれを撮影し、ニンジャの痕跡を探した。 7

2014-02-28 14:19:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「古いトリイと山小屋があるわ、麓で聞いた通りの場所よ」ナンシーがステッキで先を指し示す。山道の横は崖になっており、麓を見渡せる場所に狩猟用ショットガンが一挺、墓標めいて突き立てられていた。「これは……」イチロー・モリタのニューロンに、麓の町でのインタビュー光景が甦った。 8

2014-02-28 14:29:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

麓の寺、テンプル・オブ・ハンドレッド・モンキーズ。「この山には昔から、多くのモンキーが住んでいました。人間とモンキーが、共存していたのです。しばしば両者は平和的にオンセンに入りました。幸福な時代です」老ボンズが内部を案内する。二人の特派員は様々な文献や天井の墨絵を撮影した。 10

2014-02-28 14:38:30
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「この地方に怪物の伝承等は?」ナンシーが問う。老ボンズは手を差し出し、トークンを受け取ると、柱のボタンを押した。錆びたスピーカーから再び電子音声が流れる。「かつてこの山には、キングモンキーなる怪物が住み、ダイミョを悩ませました。それを鎮めるために、このテンプルが築かれ……」 11

2014-02-28 14:45:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「思った通り、民間伝承はほぼ死に絶えている」ナンシーが門へ向かいながらぼやく。「予想はしてたけど、大した情報は得られなかったわね。やはり暗黒メガコーポの非人道実験のセンを探った方が良さそう」「ニンジャアニマル……」だがイチロー・モリタは、険しい顔つきでそう呟いた。 12

2014-02-28 14:54:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼は、岡山県でユカノから教わったニンジャ知識を今回の怪事件と結びつけずにはいられなかった。かつて平安時代には、動物と深い結びつきを持つニンジャクランが複数あったという。鴉の大群を操る者、ネズミを従え密偵や疫病媒介者として使う者、そして狼、犬、鷲などを戦闘獣として仕込む者…。 13

2014-02-28 15:00:17
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その中にモンキーを使役する者たちがいたとしても、何らおかしくはない。さらに驚くべきニンジャ伝説がある。それらのニンジャアニマルの中には、主人であるニンジャと過酷なカラテトレーニングを積むうちに、人語を解するほど高いインテリジェンスを獲得したものが、極少数ながら存在したのだ。 14

2014-02-28 15:08:06
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「つまり、野生のモンキーにニンジャソウルが憑依して、住民を襲い始めた?」ナンシーがサイバーサングラスを外し、イチロー・モリタの顔を見る。「可能性は否定できない」「オーライ。確かにニンジャが関わっている可能性はあるわ。でも山頂を見て。どう見てもこれは環境破壊による突然変異…」 15

2014-02-28 15:14:03
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「モンキーの怒りじゃ……」何者かの声。二人はハッとして口をつぐんだ。外へ出ると、テンプル前の雨除け付きベンチに、長い顎髭をたくわえたサイバーサングラスの老人が座っていた。「平和な時代は過ぎ去り、猿害がわしらを悩ませた。モンキーたちは人間との戦いの中で、知恵を得たのじゃ……」 16

2014-02-28 15:24:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モンキーの怒りと悪意を感じる……。やがてモンキーはIRCによって、遠隔地へと文化と憎悪を伝搬し、世界中のモンキーが立ち上がるじゃろう。わしらは滅びを待つしか無いのじゃ。インガオホー……」「IRCですって?モンキーがUNIXを使うとでも言うの?」ナンシーが地元の老人に問う。 17

2014-02-28 15:31:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「モンキーの怒りじゃ……山に入ってはならんぞ……」非科学的な老人はそう繰り返すばかり。やがてサイバーサングラスで電子ショーギを始めた。二人が諦めて立ち去ると、老人は何かを呟いた。イチロー・モリタのニンジャ聴力はそれを聞き逃さない。「……イツム=サンたちは愚かな事をした……」 18

2014-02-28 15:39:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イツム=サンか……彼は勇敢だった」車椅子に乗った中年の男が言った。彼の名はモリタチ。ジモト市に一軒しか無い、レンタルビデオショップの店員だ。「何故この町の人は、彼のことを話したがらないの?」ナンシーが問う。「イエティを怒らせたからさ。手傷を負わせてな。……こっちに来な」 20

2014-02-28 15:52:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イエティ?」「あの怪物をそう呼んだ。ただのモンキーとは思えねェからな。……俺ァな、ボー・ドーの有段者で、ネオサイタマに居た頃は……ドージョー経営も考えてた」モリタチは、壁に掛けられた木製武器ボーと、UNIXモニタに再生される全盛期の試合風景ビデオを誇らしげに指し示した。 21

2014-02-28 16:00:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「俺たちは自警団を組織し、峠道を見張った。そして奴が現れた。奴の振り回すボーに対し、有段者の俺が、手も足も出なかった……」「敵もボーを使ったのですね?」イチロー・モリタ特派員がハンチング帽を押し上げた。「ああそうさ。あのカラテには、何というか……知性があった。邪悪な知性が」 22

2014-02-28 16:06:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「確かに……ただのモンキーに、そんな真似は無理でしょう」モリタ特派員が頷く。「それだけじゃねえ」モリタチは顔を覆った。「奴は……銃を使った。狩猟用のショットガンだ。自警団の一人だったイツム爺さんが、そいつで一発喰らわせたが、あの怪物は死なず、逆にショットガンを奪いやがった」 23

2014-02-28 16:12:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そして……BLAMN!イツム爺さんの頭は熟したフルーツみてえに一発で吹っ飛んだ。怪物の目は笑ってるみたいだった」モリタチが声を震わせる。「そして弾が切れたと解るや、そいつはキーキーと喚きながらショットガンを振り回して俺を殴り、崖から叩き落とした。俺は転げ落ち…この有様だ」 24

2014-02-28 16:16:27