【実況】マーメイド・フロム・ブラックウォーター#1(発掘)
- karafuto1979
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あまりチューニングのよくないラジオからは懐古趣味の歌謡がザラザラした歌声を流し、それが置かれた机の半開きの引き出しにはイミテーションの宝石類がぎっしりとしまわれている。ここはカキオの作業場であり、城であった。マチノも決してここに足を踏み入れることはない。
2011-06-08 17:27:45「ダイジョブ……きっとダイジョブ」小刻みに頷きながら、カキオは部屋の奥に鎮座するマネキンにしゃがみ込む。いや、マネキンではない。胸から腰にかけての左半分を大きく欠損した人体?コワイ!いや!人体でも無い。人ならざるもの……オイランドロイドである。
2011-06-08 17:31:29人工心臓が収まっているべき箇所はぽっかりした虚無で、複数のオレンジ色のチューブが伸びている。チューブはゴミ箱の隣に置かれたポンプめいた機材に接続されている。「ダイジョブ……ダイジョブ、きっとね」カキオはエンジニアグラスを装着し、ドリームランド埋立地めいた部品の山をかき混ぜ始めた。
2011-06-08 17:34:55オイランドロイドの頭部には損傷が無い。綺麗なものだ。目を閉じ、角度によっては微笑んでいるようにも見える。「ダイジョブ。ダイジョブ……」
2011-06-08 17:43:38「ザッケンナコラー!」「スッゾコラー!」正座した六人のクローンヤクザの前を、ドレッドヘアーのリアルヤクザが罵声を浴びせながら歩き回る。まるでゼン・トレーニングめいた光景だ。リアルヤクザが手に持っているのは棍棒ではなく青龍刀であり、正座しているのも当然ボンズでは無い。
2011-06-08 18:02:34「ナッコラー!なんで全員上がってねえんだ?エッコラー!責任取れんのかコラー!」クローンヤクザ達は神妙な顔でドレッドヤクザの叱責を聞いている。一人が口を開く。「流れが早くて、流されてしまっグワーッ!」「スッゾコラー!」ドレッドヤクザの蹴りが飛んだ!「川が怖くて商売になるかコラー!」
2011-06-08 18:07:16雑居ビル屋上で暴力的なやり取りをする彼らの頭上で、満月が雲を透かす。下の道路ではそんな殺伐を露も知らぬ市民が、この週末に行われるネブタパレードの準備に忙しい。まだ明かりの灯されていないチョウチンや「ヨッソイ」と陽気にショドーされたノボリが、こうしている間にも次々掲げられて行く。
2011-06-08 18:23:38「で、見つかったのか?」「ヒッ!」ドレッドヤクザは横から飛んできた新手の声に竦み上がった。「ドーモ!デスナイト=サン!アリガトウゴザイマス!」痙攣めいて震えながら、彼は声の方向へ最オジギした。「……見つかったのか?」そのニンジャ、デスナイトは、ツカツカと歩み寄りながら繰り返した。
2011-06-08 18:28:04関節部に甲冑めいたプロテクターを持つ特殊なニンジャ装束に身を包んだデスナイトは、冷たい目でドレッドヤクザを見据える。「……まだか?」「こいつらが使えねえせいで、やはりその、一人回収できておりませんで!今からケジメさせます!」ドレッドヤクザはツキジのマグロめいて口をパクパクさせる。
2011-06-08 18:31:54「フー」デスナイトは無感情に溜息を吐いた。「殺しただけでは口封じにならんのだ、殺しただけではな」「アイエエエ!その通りです!全力で!ケジメさせて……」「いや、必要無い」デスナイトは首を振った。その背後、満月を鳥の影が横切った。
2011-06-08 18:36:42夜空を旋回したのち、デスナイト達がいるビル屋上めがけて斜めに滑空してくるその鳥は、大きく荒々しいバイオイーグルだ。その荘厳な姿だけでも驚きに値するものだが、特筆すべきはそのクチバシである。カタナを咥えているのだ!
2011-06-08 19:26:07バイオイーグルは一直線に正座するクローンヤクザへ突っ込んでゆく!そして!ナムアミダブツ!「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」「グワーッ!」一列になった彼らの首をネコソギに刎ね飛ばした!噴水めいて噴き上がるバイオ血液!
2011-06-08 19:26:14「アイエエエエー!」ドレッドヤクザはバイオ血液を全身に浴びながら失禁し、青龍刀を取り落とした!バイオイーグルはバサバサと翼をはためかせて浮上し、デスナイトの腕に止まった。デスナイトはバイオイーグルの頭を愛撫しながら目を細めた。「美しい人よ」
2011-06-08 19:26:22「アイエッ……アイエッアイエッ……」ドレッドヤクザは恐怖のあまり痙攣しながら失禁を続けた。デスナイトはバイオイーグルを撫でながら、ドレッドヤクザへ顔を近づける。「もう少し頑張りたまえ……もう少し有能なところを見せてほしい」「アイエエエ!ヨロコンデー!」ドレッドヤクザはドゲザした。
2011-06-08 19:32:12デスナイトはドゲザヤクザを尻目に、屋上の手摺まで歩いていくと、下の道路を虚無的な目で眺めた。ここからだと豆粒ほどのサイズで忙しく行き来する人々を見下ろす事ができる。しかし本来なら見る者に楽しい週末を予感させるチョウチンの列やノボリも、デスナイトにとっては灰色の滅びの影でしかない。
2011-06-08 19:46:43デスナイトはバイオイーグルを撫でる。「おお……アヤミ=サン」バイオイーグルはキュルキュルと喉を鳴らしてこたえる。「アヤミ=サン。ここから二人で飛び降りて、安らかに死ねればどんなにいいか。ネギトロめいて、一緒くたのクズ肉になれるのなら。この汚濁だまりめいたネオサイタマで」
2011-06-08 19:51:06(第二話「キョート殺伐都市」:「マーメイド・フロム・ブラックウォーター」#1 終わり。#2へ続く )
2011-06-08 19:56:23