「相模くんさ、ちょっと僕にヴァンガのデュエルで十一連勝中だからって、あんまり調子に乗らない方がいいよ。ヴァンガの強さで威張れるのは中学生までだからね」 「いいじゃん。ちょうだいよモリヅカ」
2014-06-23 22:57:48「あげない。ちなみに勝手に持っていったら窃盗罪になるから。今後も注意するようにね。でないと僕が即逮捕しちゃうよ? それでもいいならどうぞー?」
2014-06-23 22:58:20相模くんの顔の前で、『撃退者レイジングフォーム・ドラゴン』のカードをひらひらと見せびらかしてみた。 相模くんは明らかにムッとしている。
2014-06-23 22:58:58「どうせ僕、未成年だから罪になんか問われないし」 「うっわー、屁理屈。そういうの大人から嫌われるからやめた方がいいよ相模くん」 僕の忠告を、相模くんはまったく聞く気がないようだった。
2014-06-23 22:59:39「で、モリヅカ、今日はデュエルするの?」 「しないよ、僕は今仕事中なんだ。あーあ、学生は気楽でいいよねえ、毎日が日曜日みたいなものじゃないか。羨ましいったらないよ。僕も平日の夕方からヴァンガ三昧したいもんだ」 「サボり刑事だなあ。だったらさ、なんでここにいるの?」
2014-06-23 23:00:35「聞き込みだよ。これが僕の仕事なの。たった今、君にも情報提供を求めたでしょ? ま、ヴァンガしか能がないガキ相手に聞いた僕が間違いだったよ。元より期待してなかったけどね。これは単なる真似事。おままごと。相模くんも分かったでしょ? 刑事っていう仕事がいかに大変かって」
2014-06-23 23:01:30「やっぱりサボりじゃん」 「ちっがーう!」 このガキ、いちいち言い返してくるなあ。さすがに温厚な僕でも本気でキレちゃうぞ。
2014-06-23 23:02:00「その『ひとりかくれんぼ』をしていた人って、うちのお客さんかなにか?」 店長が困惑した様子で尋ねてきたので、僕は肩をすくめた。 「さあ」
2014-06-23 23:02:35「さあ、って……」 「でも店長、僕の敬愛する銭形警部の言葉に、こういう言葉があるんだ」 僕は目を閉じ、世紀の大怪盗逮捕に生涯を捧げたICPOの名警部の顔を思い浮かべた。
2014-06-23 23:03:33「『お前がたとえ百回死のうとそんなことは問題ではない! ルパンという人間がいる限り、私は日夜永遠に追い続ける義務があるのだよ』ってね! どう? かっこいいでしょう? 刑事の鑑だ!」 「いや、ちっとも意味が――」
2014-06-23 23:04:22そのとき、僕の携帯電話から『ルパン三世』のテーマソングが流れ出した。 「あっ、店長ごっめ~ん、この着信メロディは緊急連絡だ。事件かも!」 店長の話を遮り、素早く電話に出る。
2014-06-23 23:05:08――Agent Moritsuka? 「Yeah」 電話の向こうの声が、いつもより遠くに感じられた。その声に耳を澄ます。 「Yeah……、Yeah……OK」 一通り話を聞き終わると、僕は電話を切った。 小さくため息をつく。
2014-06-23 23:06:10と、相模くんが呆然としていた。 「ねえモリヅカ、今の電話の相手、英語で話してなかった?」 「え? あはは、バレちゃったか~。みんなにはナイショだよ。じゃっ、僕は仕事に戻らなきゃいけないんで。アデュ~!」 笑いながら手を振って、店を出た。
2014-06-23 23:07:08アメニティードリームは雑居ビルの三階にある。階段の踊り場からは、ビルに面したサンロードを行き交う人々の姿を見下ろすことができた。
2014-06-23 23:07:55「さて……事態は思った以上に深刻みたいだ……。でかい事件が起きる前に、タレコミのあった物を手に入れないと」
2014-06-23 23:08:26ポケットから先ほど相模少年に見せた写真を改めて取り出し、そこに写る男の顔をしげしげと眺める。 「こっちはひとまず保留だな」 それからソフト帽を深めにかぶると、階段へと向かった。
2014-06-23 23:09:13