アンダー・ザ・ブラック・サン #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

四人を乗せた中古のビークルは、降り注ぐ強烈な紫外線と噴き上がる砂塵に挟まれ、苦役の呻きめいた軋み音を時折車体パネルの隙間から発しながら、まっすぐに西へ進んでいた。等間隔で設置されたバイオカンガルー注意の看板にまぎれて、時折破壊されたギターやカカシのたぐいも設置されている。 1

2014-06-06 13:00:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

暑さによるものか、車のせいか、テープが悪いのか、パンク・ロック音楽の金属的ギター・サウンドもどこか生温く、沈黙する車内に一層の倦怠アトモスフィアを加味していた。痩せた黒髪の女は茨タトゥーの眉をしかめ、苦虫を噛み潰したような表情でハンドルを握りしめている。他の三人は……寝ている。2

2014-06-06 13:04:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【アンダー・ザ・ブラック・サン】#1

2014-06-06 13:05:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ドッドッドッド……ドドドド。ビークルは道路脇に寄せ、停止した。「アー」運転席のエーリアスは頭を振り、伸びをした。水の入ったボトルに手を伸ばしかけて、躊躇い、しかし結局手にとって、飲んだ。「やめちまえやめちまえやめちまえ……」スピーカーからはがなり立てる歌声。「アイアイ」停止。3

2014-06-06 13:09:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

エーリアスは腕のストレッチをしながら、車内の旅の仲間を見渡す。助手席には双子の兄のディプロマット。今はドアガラスに肘をつくようにして船をこいでいる。後部座席には双子の弟のアンバサダー、腕組みして俯き、目を閉じている。その隣にはサングラスと長い黒髪の美女。ドアにもたれ、動かない。4

2014-06-06 13:18:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

豊満なバストによって持ち上がったラグランのTシャツと腰履きのジーンズの間で、白い腰と臍がなまめかしい。エーリアスは半開きの口を閉じ、目をそらした。ダッシュボードから地図を取り、遠くに見える標識を確かめる。ゴウウウウ!風を切って、ウキヨエトレーラーがすぐ横を通過する。 5

2014-06-06 13:24:43
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もうしばらく車を走らせれば、岡山県の境界にたどり着く。しばらくとは即ち何時間か?長い運転に疲れたエーリアスにはピンと来ない。「誰も運転できねえんだからな……」目をこすり、呟いた。「そんな事は、ありませんよ」「アイエッ?」エーリアスは振り向いた。「ユカノ=サン。起きたのか?」 6

2014-06-06 13:28:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「しばらく前から起きていました」ユカノは穏やかに答えた。エーリアスは目をぱちくりさせた。「なら言ってくれよ!いたたまれないじゃないか。俺をかわいそうだとおもってくれよ。運転できないのはいいからさ、せめて話し相手になってくれるとか……」「ごめんなさい。考え事をしていたの。それに」7

2014-06-06 13:33:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それに、何」「私は運転ができます」「エエ?いや、実際それは」「貴方の疲れをもう少し気遣うべきでした。貴方がニンジャとしての鍛錬を経ていないという事を、つい忘れてしまいます」言うなり、ユカノは後部ドアを開けて車外へ出た。「できるの?本当に?」エーリアスはうろたえた。 8

2014-06-06 13:35:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「いいから」ユカノは運転席のドアを開け、半ば引きずり出すようにエーリアスと交代した。ユカノの髪はよい匂いがした。エーリアスはしおらしく交代に応じ、アンバサダーの隣に座った。「こいつらも大概、熟睡しやがって」エーリアスはアンバサダーの肩を揺すろうとした。「おやめなさい」とユカノ。9

2014-06-06 13:40:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「彼らの身にふりかかった試練は過酷なものでした。休ませておあげなさい」「俺だってINWに監禁されてよお」「それはだいぶ時間が経ちましたね」ユカノは言い、オーディオ・プレーヤーを再びオンにした。「やめちまえやめちまえやめちまえ……」ウォルルルル!ユカノはアクセルを踏み込んだ。 10

2014-06-06 13:45:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ゴウウ!ウキヨエ・トレーラーが再びビークルの横を通り過ぎた。助手席からベースボールキャップを後ろ前かぶりした屈強な男が顔を出し、腕を振った。シュリンプ・ソーダの缶がビークルのフロントガラスを打った。走り去るトレーラー。屈強な男が卑猥なハンドジェスチャーをする。 11

2014-06-06 13:48:57
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ウォルルルル!「ほっとけよ!ほっとけ」エーリアスがやや慌てて言った。「ああいう奴はもうしょうがない!」「何がですか?」ユカノは言った。「わたしはなんとも思っていません!」ビークルが急発進した。エーリアスは後頭部をソファーにぶつけた。「グワーッ!」双子が目を覚ました。「何だ?」12

2014-06-06 13:51:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ジゴク・ドライブの時間だ!」エーリアスは天井を手で押さえながら、やけくそで答えた。やめちまえやめちまえ……ビークルは急加速、15秒後に、シツレイなウキヨエ・トレーラーを追い抜いた。仰天するトレーラー助手席男に向かってエーリアスはキツネサインを掲げ、窓からボトルを投げつけた。13

2014-06-06 13:58:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「車の運転はそう難しくはありません」後ろへ消えていくトレーラーをリアビュー・ミラーで見ながら、ユカノは超然と言った。「そうかよ」とエーリアス。「まあ、しばらく頼むよ」「問題ないか?どのくらい寝ていた?」ディプロマットがシートベルトを確かめた。「俺がナビ係だったのに。すまない」14

2014-06-06 14:05:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「休んでよいですよ」ユカノが言った。「エーリアス=サンも」「いや、ばっちり目が覚めた。ダイジョブだ」「県境が近いな」ディプロマットが言った。アンバサダーがニンジャ視力で遠方のドライブイン施設の標識を捉える。「腹が減らないか?」 15

2014-06-06 14:12:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「水も投げちまったしな」とエーリアス。「このままじゃ、次にナメた奴を見かけたときに反撃できないぜ!」ふふふ、とユカノが笑った。助手席のディプロマットはナビ地図越しにユカノを見る。「地図、逆さだぞ」アンバサダーが言った。ディプロマットは地図に素早く視線を戻した。「嘘を言うな」16

2014-06-06 14:20:25
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

寂れたドライブインの駐車場には色とりどりのウキヨエ・トレーラーが駐車し、建物の前に設置された金網の中にはバイオミーアキャットが飼われ、「さわって遊びます」「餌も食べる」と書かれた看板が設置されていた。「いないぞ?」エーリアスが金網に近づく。「砂の中だろう」とアンバサダー。 17

2014-06-06 14:29:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「こういうのは砂の中に隠れるんだ」「葉っぱを食べるのか?俺、動物、結構好きなんだ……」「動物はこの先に幾らでもいます。ありふれたものです」ユカノが言い、ドライブイン・レストランの中へ入っていく。双子もそれに続いた。「チェッ」エーリアスは金網を振り返りながら、彼らを追った。18

2014-06-06 14:33:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そう、彼らが目指すのは、岡山県。ユカノの言葉に嘘はない。動物は、いくらでもいる。……モタロ伝説、ミヤモト・マサシ伝説、様々な神話伝承が息づく地である。そして彼らの目的地は、オンセンとヤマブシで知られる岡山の町の更に奥、険しい山間の道を進んだその先の場所であった。19

2014-06-06 14:40:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

野趣を強調した木製テーブルが並ぶドライブイン・レストランに客はまばらだ。突っ伏して眠るトレーラー運転者や、猥談に花を咲かせるトレーラー運転者、疲れ果てた旅行者等の間を通り、四人はベンダーで思い思いの食事を注文した。今夜の宿は岡山県内でとる。そう長居もできない。 20

2014-06-06 14:50:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーゾ」席を探すユカノに、アンバサダーが椅子を引いた。「ありがとう」ユカノはにっこり笑った。ディプロマットは弟にやや遅れた。息を吐いて着席した。双子の視線が交錯した。「俺にはサービスしてくれないのか?」エーリアスが軽口を叩いた。柔らかいソバやカレーライス。旨くはない。 21

2014-06-06 14:56:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ユカノは店の奥で相撲を取るバイオパンダの剥製を見やった。「一頭増えたのですね」「……」調理場の奥、寡黙な店主が沈黙で肯定を示す。壁には弓矢や猟銃が飾られている。店主はハンティングが趣味なのだろう。「前に来た時も、ここに寄ったのか?」エーリアスが尋ねた。ユカノは頷いた。 22

2014-06-06 15:04:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

然り。ユカノはしばらく前に岡山県を訪れている。その折は、ニンジャスレイヤー……フジキド・ケンジとの二人旅であった。二人はミヤモト・マサシの遺跡を訪れ、驚くべきニンジャ修道会との戦闘を経て……そののちドラゴン・ドージョー跡地に至った。ネオサイタマへ移る以前の、始まりの修行地に。23

2014-06-06 15:12:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

今回の旅はかつての旅と地続きである。確かめるべき重大な懸念があった。その為に双子のジツを必要としている。双子としても、キョートに留まれば立て続けの攻撃にさらされる恐れがあった。彼らにとっては避難の旅でもある。エーリアスは?彼女は……彼は……ユカノと話し合い、同行に至った。 24

2014-06-06 15:23:01