キャバ峰ちゃん-弾編①

天籟商事の営業部課長弾君がやってきました。
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ツムジモコ @tumuji_moko

【キャバ峰ちゃん4】 「神峰翔太、僕と勝負だ!」 意気揚々と叫んだのは当クラブ人気No.1の名を欲しいままにしている天才キャスト、伊調鋭一だった。 黒を基調としたドレスに身を包み、クセのある髪にはバラをモチーフにした赤のコサージュ。愛らしい瞳に神峰を映し、ビシ!と指をさす。

2014-06-16 23:21:12
ツムジモコ @tumuji_moko

あまりに脈絡のない宣戦布告に神峰は目を丸くした。 山程の顧客を抱えるカリスマキャストの伊調が、ヒヨッコ新人の神峰と何を勝負するのだろうかと。 「しょ、勝負って何をだよ?」 「決まってるだろう、君と僕のどちらがより多くの指名を受けるかだよ!」 「はぁ!?」

2014-06-16 23:33:41
ツムジモコ @tumuji_moko

ちょっと待て、何でいきなりそんな話に。 「今日は某企業の役職が大勢来るっていう話は聞いてるよね?客は殆どが一見だ。だから場内指名数で競おうじゃないか!」 「オレは新人だぞ!?お前みたいなスゲェヤツと張り合えるわけねェだろ!!」 後ずさる神峰を追い、目前に迫ってくる伊調。

2014-06-16 23:46:41
ツムジモコ @tumuji_moko

「君らしいね。確かに日本において謙虚は美徳だ。でも僕らは夜の蝶。自ら光り輝かなくてはならない!謙虚は捨てるべきだ!自信を持て神峰翔太。僕は、君の才能を見定めたい!」 「(ダメだ、話が通じねェし何を言ってるのかわかんねェ…)」 「さぁもうすぐ開店だよ。準備はいいね?」

2014-06-17 00:13:08
ツムジモコ @tumuji_moko

実力と愛想と器量を兼ね備えた者が下の立場にいる者と条件を同じくして勝負を持ちかけるなど、状況にもよるが端から見れば単なる嫌がらせでしかない。 だが。真意こそ量りかねたものの、彼が悪意を以て自分をけしかけたわけではないことを神峰は理解していた。 「でも、勝負って言われても…」

2014-06-17 00:22:53
ツムジモコ @tumuji_moko

『いらっしゃいませー!』 キャストたちの華やかな声が店内に響き渡る。 訪れた客は予定通り、事前に来店予約を受けていた某企業――天籟商事の役員だ。キャストらはスタッフに促され、テーブルにつき始める。神峰も同様に向かった。 伊調ルールによれば、ここから場内指名数を稼げとのこと。

2014-06-17 00:30:40
ツムジモコ @tumuji_moko

「初めまして、カミネです。宜しくお願いします」 「君がカミネちゃん?おー、聞いてた通りまあず可愛いコやねー!」 「はい?」 今時にしては珍しい地元訛り全開で神峰を迎えたのは、肩まで届いた綺麗な黒髪と目の下の隈が印象的な青年だった。 見知り越しな様子で神峰に笑いかけてくる。

2014-06-17 12:29:41
ツムジモコ @tumuji_moko

不思議に思いつつ相槌を打っていると、青年の隣に座っていたもう一人の客――じわりと漂う貫禄と席次から察するに隈の青年の上司なのだろう、男は諌めるように青年の頭を小突いた。 「コラ、弾。いきなりナンパなんて節操がなさすぎるぞ」 「人聞きが悪いっスよ重松部長!オレはこのコのこと―」

2014-06-17 12:35:36
ツムジモコ @tumuji_moko

そうこうしているうちに神峰の先輩キャストがやってきて、重松と呼ばれた男の隣に座った。彼女の目配せに我に返った神峰もまた隈の青年、弾の隣に腰を下ろす。 「えと…弾、さん?オレのこと知ってるんスか?」 「名前と評判だけなー」 人好きのする笑みを浮かべながらグラスを手に取り弾。

2014-06-17 12:39:03
ツムジモコ @tumuji_moko

運ばれてきたウィスキーボトルを開け、氷を落とした弾のグラスに注ぐ。 (評判って何だ?入ってまだ日が浅いのに評価されるようなことなんて…) もしや音羽頭取との一件が知れ渡ってるとか?思案する神峰を余所に、弾はウィスキーをあおった。 「カミネちゃん、刻阪響君て知ってるよな?」

2014-06-17 12:41:01
ツムジモコ @tumuji_moko

弾の口から思いがけない名前が出たことで、神峰は大袈裟に肩を揺らした。 「彼な、昔っからオレのライバルなんよ。仕事でも私生活でもえれぇ張り合ってる」 「そう、なんスか?」 「この前も仕事で会ったんさ、そん時君の話になってなー」 「え゙っ」 刻阪、外でオレの話してるのか!?

2014-06-17 12:43:22
ツムジモコ @tumuji_moko

「まあず珍しかったなぁ。ヒビキ君て普段女の子の話とか全然しないんだけど、君の話になると熱がこもるっつーか」 「そ、そうなんスか…」 「可愛いとか天然とか真面目とか、そんなんばっか」 どうリアクションしていいかわからず相槌を打つだけにとどめるが、流石に居たたまれなさすぎる。

2014-06-17 12:44:42
ツムジモコ @tumuji_moko

何も言えなくなってしまい縮こまる神峰を興味深そうに見つめながら、弾はグラスをもう一口あおった。 「あの堅物なヒビキ君があーまで入れ込むカミネちゃんがどんなコなのか、オレえっれぇ気になってさ」 「入れ込むって…刻阪はオレと年も同じだし、音楽の趣味も一緒ってだけだから」

2014-06-17 22:55:51
ツムジモコ @tumuji_moko

「あーねぇ。カミネちゃん、キャバ嬢にしちゃ謙虚なとこあんな」 「ぐっ…ソレさっきも先輩に言われたっス…」 「あはは!あんじゃねーの?そーゆー君みたいなコの方が返ってモテるかもしれんね」 物珍しげな眼差しが、優しいそれに変わった――気がした。 「オレ、君のこと気に入ったわ」

2014-06-17 22:58:35
ツムジモコ @tumuji_moko

瞳を瞬かせる神峰にウィンクし、傍らに置いた上着の内ポケットに手を入れながら辺りを見渡す。そして近くを歩いていたホールスタッフを捕まえて、言った。 「すんませーん。オレ、カミネちゃんのこと指名しまーす!」 弾の快活な声に併せ、スタッフもまた「了解しました」と頭を下げる。

2014-06-17 23:00:23
ツムジモコ @tumuji_moko

フリータイム終了が迫っていた所に、弾の思わぬ場内指名。神峰は「あ」と声をあげた。ぼんやりしていたらキャストは強制的に交代させられてしまう。そうなる前に向かい合った客に指名をしてもらえるよう、交渉しなければならないのだ。 「あ、あざす!」 弾に頭を下げ、向かいのテーブルを見る。

2014-06-17 23:02:10
ツムジモコ @tumuji_moko

神峰の視線の先には、数人の男性をはべらせて不敵な笑みを浮かべる伊調がいた。 彼は既に場内指名を受けていて、しかもあろうことか一気に数人の相手をしているようだ。 ――あんなバケモノに勝てるはずがない。 指名を貰って喜ぶも束の間、伊調の大物っぷりを見せつけられて落ち込む神峰。

2014-06-17 23:07:17
ツムジモコ @tumuji_moko

そんな視線に気付いた伊調がこちらを見やり、手を上げた。人差し指を立て、指揮をするかのような素振りで神峰に何かを伝えてくる 『やるじゃないか』 そう言っているように感じた。激励は有難いが、ハーレムを作ってる奴に言われても。 (って言うかお前が客をはべらせてどーすんだよ!?)

2014-06-17 23:11:49
ツムジモコ @tumuji_moko

「どした?ぼーっとして」 「す、すいません。…あ、お酒のお代わり注ぎますね」 「その前にさ、連絡先教えてくんない?」 遮るように携帯を差し出してくる弾に神峰は薄く笑った。――少し前、音羽頭取から同じ事を聞かれたが、携帯電話を持っていなかったことで恥ずかしい思いをしたのだ。

2014-06-17 23:13:26
ツムジモコ @tumuji_moko

でも今は違う。音羽頭取から贈られたものがある。これさえあれば無敵だ!と玩具を買い与えられてはしゃぐ子供よろしく携帯を取り出し、どこぞの将軍よろしく弾の前に突きつける。あの時のような赤っ恥はもう御免だ、と神峰。 「いいっスよ!交換お願いします!」 「お?はりきってんねー」

2014-06-17 23:15:33
ツムジモコ @tumuji_moko

無事に連絡先を交換したのち、携帯のディスプレイを眺めながら弾は眉を潜めた。 「カミネちゃん、メアドがデフォルトのままになってんね。ラインしかやんねぇタイプ?」 「え?あ?」 携帯やらタブレットやら、文明の利器に若干疎い上に通話しか利用しない神峰は、弾の質問に混乱したようだ。

2014-06-18 14:02:32
ツムジモコ @tumuji_moko

メールに関しては理解しているつもりで、初期設定のままでも特に困ることもないしと放置していたのだが、まずかっただろうか。 「やっぱり変えた方がいいっスか?」 「んーカミネちゃんらしい可愛いアドレスに変えればいいんきゃ!pretty_kamineとかどうよ」 「絶対嫌っス」

2014-06-18 14:05:13
ツムジモコ @tumuji_moko

設定に夢中になっていた神峰ははたと我に返りぎょっとした。 ――肩に寄り添う、人の体温と程よい重み。 いつの間にか弾にぴったりと密着されていた。店的にも許容範囲内だが、不慣れな神峰は固まってしまった。 「あの、弾…さん」 「ン?」 「ちょっと、近いっス」 「そう?」

2014-06-18 14:06:35
ツムジモコ @tumuji_moko

スキンシップもサービスの内だという事は重々承知だ。けれど無理矢理どうにかされそうになったあの時の恐怖は未だ拭えていない。でも。 (弾さんの心、すっげェ真っ直ぐだ) そこに下心がないと言ったら嘘になるだろう。それでも、彼は理性をもって抑えてくれている。 (――似てる、な…)

2014-06-18 14:07:39
ツムジモコ @tumuji_moko

脳裏に浮かんだのは、そう。 「今、ヒビキ君の事考えてる?」 ずばりと言い当てられ、顔を赤くする神峰。 「や。、何で…?」 「あ。やっぱりそうなんきゃ」 「へ」 「悪りんね、ちとカマかけてみたんだけど…んー、そっかぁー」 神峰は眉間にしわを寄せた。カマ?やっぱり?

2014-06-18 14:09:39