【ついったんぺん】記憶

おもむろにツイッターにて短編を書いた結果。 結末まで考えずに書き始めたら、こんな話になりました。
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Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】私は記憶を無くした。その無くした記憶は、この世界でもっとも忌むべき記憶だった。

2014-08-09 10:23:05

空き時間におもむろに。

はじまりはじまりー

Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】①彼女の目の前にいるのは華奢な少年で、彼女の世話役だと紹介された。紹介してきたのは背の曲がった老婆で、彼女は老婆の濁った視線をあたまり心地よく感じることが出来なかった。 彼女は白と青が基調の部屋で、目を合わせようともしない少年を前にしていた。

2014-08-09 10:33:13
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】②彼女に視線も向けず、声も発さず、息を潜め、小さな拳を握る少年にどう接すればよいのかも分からず、彼女は真っ青に塗られた椅子に腰掛けたまま動かなかった。 少年も動かず、ただじっとしている。だから彼女らその間に自身のことを考えはじめた。

2014-08-09 10:39:59
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】③彼女には記憶がなかった。 正しくは、一部の記憶だけがごっそりと抜け落ちていた。 彼女は、自分が何者かも分からず、今まで何をしてきたかも分からず、何が好きかも嫌いかも分からない。しかし、それは一部のことで、今まで動いてきた記憶も多少は残っていた。

2014-08-09 10:43:18
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】確か私は本が好きだった、と彼女は目を閉じる。本が好きだったのは確かで、今も時間があるなら読みたいと思った。しかし、どんな本が好きだったかを思い出せない。恋愛小説か、絵本か、はたまた専門書か。今まで読んだことのある本を思い出そうにも思い出せない。

2014-08-09 10:45:17
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑤目を閉じていても本の表紙やタイトルが浮かぶわけでもなく、彼女は長い睫を揺らして目を開いた。 少年と目が合う。しかし、少年はまたすぐに目をそらした。彼女は少し困ったように眉尻を下げる。 この少年が世話役だと言われても、実感もわかない。

2014-08-09 12:51:33
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑥世話役という存在がいったいどういうことなのかも分からない。残った記憶に頼っても、自分はそんないいところの家だった記憶はなく、どちらかというと自身が誰かに従う立場だった気がする。ただ、それが誰なのか、どういう関係だったのか彼女には思い出せない。

2014-08-09 12:53:28
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑦私はいったい何だったんだろう、と彼女が真白な天井を見上げる。 「真っ白」と口にだす。色の名前は覚えていることを実感しながらも、他の色は忘れてしまったんじゃないかと不安になる。赤に黄に紫に緑に、と思い浮かべていくが、それが正しい色なのかはわからない。

2014-08-09 15:45:37
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑧彼女が色に思いを馳せていると、黙りっぱなしだった少年がぐっと奥歯を噛み締めた。 「白と青は」 彼女は少年の高い声を聞いて、慌てて顔を少年にむけた。少年は赤の瞳で彼女を睨みつけていて、彼女はどうして少年がそんな顔をしているのかが分からなかった。

2014-08-09 15:48:22
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑨少年はギリギリと細い体に力を込めながら、部屋を少し見渡した。 白と青の部屋。他の色は、彼女と少年だけだった。 「白と青は、この世界から」 少年の声は、透き通るように高くよく聞こえた。しかし、その中に含まれる感情は透明には程遠い。

2014-08-09 15:50:29
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑩少年がまた目を伏せた。 「白と青は、この世界から、消えてなくなった」 かすれるような声に、彼女は目をぱちくりした。そして部屋を見渡す。この部屋は、まさしく、その消えてなくなったと少年が吐き出した、白と青の部屋である。

2014-08-09 15:51:53
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑪もしかしてこれは私が記憶違いをしていて、白と青という色ではないのかもしれない、と彼女は納得する。 「じゃあ」 彼女が少年の黒の髪を見ながら小首を傾げる。あの黒も実は黒ではないのかもしれない。 「――これは、何色なの?」

2014-08-09 15:53:22
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑫彼女の声に、少年がキッと鋭い視線を返した。彼女が困ったように眉尻を下げていると、少年は「白と青」と無理やり音程を低くした声で吐き捨てる。 「あんたのせいで」 少年の赤い瞳から、透明な液体が溢れ出す。あれの名前はなんだったか、と彼女が思いを巡らせた。

2014-08-09 15:56:02
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑬透明な液体が床に落ちるよりも早く、少年は口を開く。 「あんたのせいで、この世界は」 少年の赤の視線が、ちらりと窓に向いたのに気づいて彼女もそちらへ顔を向けた。青のカーテンが揺れること無く静かに佇んでいる。そういえば外を見たことがないと彼女が気づく。

2014-08-09 15:57:38
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑭「あんたのせいで、この世界は、死んだ」 少年を構成していた一部である液体が床に雫を落とした。 「じゃあ」 彼女は戸惑ったように細い指先を絡める。 「今私がいるこの世界は、いったい何なの?」 死んでいる世界なんてものは、聞いたことがない。

2014-08-09 15:59:41
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑮それとも記憶が抜け落ちているだけか、と彼女は自身に問うたが、答えは返ってこない。答えを返す記憶が、黙りこくったまま動き出す気配もない。 彼女の問に少年はすぐに答えず、少年は青のカーテンに近づいていく。少年がカーテンに触れる。

2014-08-09 16:01:24
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑯少年が触れた青いカーテンがゆらりと揺れた。少年の骨のような指が、カーテンの端を掴む。 「――世界は、死んだ」 少年が同じ言葉を繰り返し、カーテンを開けた。 彼女はその切り取られた窓の奥に広がる、あまりに白と青から程遠い世界に思考を停止した。

2014-08-09 16:03:32
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑰ピタリとも動かなくなった彼女を見て、少年はカーテンを丁寧に閉めてから近づいていく。青いカーテンの方向を見つめたまま、文字通り固まってしまった彼女に触れる。しっとりとした、決めの細かい白い頬が指に吸い付く。 少年は涙を拭って彼女に押し付けるた。

2014-08-09 16:05:53

✕決めの細かい→○きめ細かい
✕押し付けるた→○押し付けた

Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑱少年は動きを止めた彼女の首の後ろにある、小さなスイッチに触れる。 「僕は」 かちり、と小さな音がしてスイッチが押し込まれ、少年が指を外すと元の位置に戻ってくる。 「僕は、あんたを」 カクンと首が下がった彼女を見下ろして、少年は拳を握った。

2014-08-09 16:08:14
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑲「僕は、あんたを、許さない」 この世界を破滅に向かわせた彼女を。そして都合よくその記憶を削除された彼女を。 「いつか、罪を、思いだせ」 その時は、僕が、殺してやる、と少年は胸の奥で吐き出す。 そして、再起動を完了した彼女の目をみて言う。

2014-08-09 16:13:19
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】⑳「僕は」 絶対にゆるさない。 「僕は、あんたの」 都合よく現実を見てショートするなんて許せない。 少年は、赤の瞳で彼女の青瞳を睨みつける。 「僕は、あんたの、世話役だ」

2014-08-09 16:14:45
Nicola @Nicola_nn

@sousakuTL 【短編】(終了)少年と彼女のお話でした。なんか思いつきだけで書いたので荒が目立つような気が…

2014-08-09 16:16:08