【魔法少女まどか☆マギカSS】 僕には姉がいます

叛逆から11年後のある日、14歳の鹿目タツヤは、自分が幼い頃死別した姉の存在を知り、その足跡を探し始めた。
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GammaRay @sizuoka074

2051年 10月3日。また一つ手がかりが増えた。姉さんには幼馴染みがいたらしい。名前は、美樹さやか。幼稚園の頃からずっと一緒。姉の死後は東京に出て、それからずっと行方知らず。モモの姉さんの助けがなかったら、こうして尋ねることはできなかったと思う。僕は深呼吸してチャイムを押した。

2014-09-16 19:39:04
GammaRay @sizuoka074

「セールスならお断りだよ」疲れた女性の声がした。僕は「違います」と言い、自分が鹿目まどかの弟であること、彼女の過去を調べてることを告げた。「入って。悪いけど散らかってるから」ぶっきらぼうに言われ、扉が開く。思わずうなった。美樹さんはYシャツを羽織っただけ、ほとんど裸に近かった。

2014-09-16 19:42:20
GammaRay @sizuoka074

「襲いかかろうとか思わないでね。あたし、ムショから出たばっかなの」「ムショって」「刑務所。なに?詳しく聞きたいの?」慌てて首を振る。1DKのマンションには彼女以外に人気がない。煙草の吸い殻が詰まった灰皿、折り重なったコンビニ袋。今、新しい煙草に火がついた。今時、煙草を吸うなんて。

2014-09-16 19:45:21
GammaRay @sizuoka074

「タツヤ君。今いくつ」突然聞かれ、うろたえる。14歳ですと答えると、美樹さんはふうんと煙を吐いた。見てはいけないとわかっているのに、彼女の肌から目が離せない。「あのちびっ子が14歳か……」「僕を知ってるんですか?」「おしめを取り替えてやったこともあるでしょ」僕は覚えていなかった。

2014-09-16 19:47:21
GammaRay @sizuoka074

「幼馴染みだって聞きました」「そうだよ」「高校も一緒だったって」「そう。あの子は途中で死んじゃったけど」「僕が」「五歳の時。理由は知ってる?急性肺炎。風邪こじらせて…ほんとにあっという間にさ。助けようとしたやつもいたけど」「お医者さんですか?」「悪魔」「は?」「いいの、忘れて」

2014-09-16 19:50:44
GammaRay @sizuoka074

「あの子を送りに行ったとき、あたしはそれなりに満足してた」「満足、ですか」「あの子を帰してやったって、そのときは本当に思ってた」「なんの話なんだか―」「いいの。あたしも追いかけようと思った。だけど先に釘を刺された。『みんなのことをお願いね』って。鉄棒でぶん殴られたような気がした」

2014-09-16 19:54:18
GammaRay @sizuoka074

「今でもあの子が夢に出てくる。あたしを助けようとしてるあの子が。『もういいんだよ』ってささやいて、あたしを救おうとしてくれるまどかが」美樹さんは深く煙を吸った。「間違いだったって、今は思う」もう一度吐く。煙で彼女の顔が隠れた。「あたしはあの子に甘えてたんだ」

2014-09-16 19:57:16
GammaRay @sizuoka074

「辛くて、苦しくて、助けを求めてるあたしのことを、あの子は救ってくれようとした。だからあたしは全部預けた。苦しみも悲しみも…あたしだけじゃない。みんなあの子に救われたがってた。蜘蛛の糸の話みたいに、みんながあの子にぶら下がってた。あの子は…あの子はただの女の子だったはずなのに…」

2014-09-16 20:00:50
GammaRay @sizuoka074

「甘えるべきじゃなかったんだよ。救われようとなんてしなきゃよかった。あの子はあのときひとりぼっちで、それでもなにもかも投げ捨ててみんなを救おうとしてたのに…」彼女は灰皿に煙草を押しつけると、すぐに次の煙草に火をつけた。

2014-09-16 20:06:15
GammaRay @sizuoka074

「あたしは償いをしなきゃいけない。あたしだけじゃない。あの子に救われようとしてた身勝手な子達の全員が、借りを返すべきなんだ。だから、あたしはまだ生きてる。あたし達は死ぬべきなのに…」煙草を落とし、美樹さんは両手で顔を押さえる。腕にはたくさんの注射の痕と、同じぐらいの傷跡があった。

2014-09-16 20:09:21