とある狼の最期の話。

イフ@文字喰い @20wor

ロジ「……寒いと思ったら……。なんだこの雪」 メル「ゆき……」 ロジ「駅舎で寝て正解だったな。1人だったらその辺で野宿してるとこだったわ」 メル「…………(ロジ見上げ)」 ロジ「(わしゃわしゃ、とメルの頭を撫で)南居住区の辺りに戻るか」 メル「……うん」 #廃都東都

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ロジ「……はー。見ろ、息が白い」 メル「……さむい……」 ロジ「だろうな……。コートかなんかがあればいいんだが……」 メル「(息を手にはーっとかけ)」 ロジ「宝場通るし、ついでに見繕うか」 メル「うん」 #廃都東都

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メル「……ロジ」 ロジ「ああ？」 メル「ロジは、もとのところに、かえりたいっておもう？」 ロジ「あー……、別に思わねえな」 メル「……そっか」 ロジ「？　急にどうした」 #廃都東都

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メル「……わたし、ここにくるまえの、きおく、ないから」 ロジ「……ふうん。別に、そういう奴も多いだろ」 メル「ロジがいるなら」 ロジ「ああ？」 メル「……わたしも、ここにいる」 ロジ「(どこかで聞いたセリフだな、と苦笑し)……そうかよ」 #廃都東都

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ロジ「あー……、ろくなもん落ちてねえな」 メル「……これは？」 ロジ「そりゃあ……お前それステテコだろ、置いとけ」 メル「……マフラーにならない？」 ロジ「ならねえよ。……どう考えても使用済みだろ。駄目だ」 メル「…………(そっと地面に置き)」 #廃都東都

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ロジ「んー……そもそも子供服っつうのがなあ」 メル「…………、ロ、ジ」 ロジ「ん？」 袖を引かれ振り返った先にいたのは、いつかの怪異だった。 #廃都東都

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ロジ「っ！」 メルを抱いて、真横に飛ぶ。 ロジ「くそ……っ、この雪で鼻が鈍ってたか。メル、乗れ！」 狼化して、背中を示す。 黙ってしがみついたメルを確認して、雪原を蹴った。 #廃都東都

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ロジ「しっかり掴まってろ、振り落されんじゃねえぞ！」 メル「う、ん！」 背後から迫りくる気配。 走りにくくて仕方がないが、言っている場合ではない。 仕掛けられる攻撃をジグザグに走って躱し、目で逃げ込める場所を探す。 #廃都東都

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ロジ「……っ、くそ、」 どこに逃げ込んでも、雪に付いた足跡は消えない。 1人なら多少の怪我は覚悟でどこかに転がり込めるが、下手なところに籠れば凍死もありうる。 怪異との差は一向に広がらず、むしろ縮められているようだった。 #廃都東都

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ロジ「(このままだと)」 最初にやられるのは、背中にいるメルだ。 そう思い至ったとき、考えるより先に前足でブレーキをかけ、メルを前方に飛ばしていた。 ロジ「走れ！　どっか、誰かいるところまで逃げろ！」 #廃都東都

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ぼふんと、雪のクッションにメルが落ちる。 メル「ろ、」 ロジ「黙って走れ！」 叫び、怪異と対峙する。 狼化状態なら、動体視力も反射神経も優れてる。 数分の時間稼ぎにならなるはずだ。 #廃都東都

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振り下ろされる攻撃を、かろうじて躱す。 こっちから仕掛ける隙は、ない。 ロジ「よけれるだけマシ、ってか！」 メルと反対の方向に誘導しなければ。 思った矢先、ぴくりと反応した怪異がロジの後ろに注意をやる。 ロジ「……!?」 #廃都東都

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メルが、狙われている。 ロジ「……ってめえ、逃げろって」 言葉を切り、雪を蹴る。 メルの腕を噛み、怪異から引き離す。 ロジ「逃げろ、俺のことはいい」 メル「いやだ」 ロジ「わがまま言ってんじゃねえ、死にてえのか！」 メル「いやだ！」 #廃都東都

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メル「ロジも、生きてないと、いやだ!!」 ロジ「誰が死ぬっつったよ！　むしろお前がいる方が俺が危ねえんだよ！」 ハッとして背後に注意をやる。 ……もう、避けられない距離まで来ていた。 #廃都東都

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ロジ「……くそ、仕方ねえな」 覚悟を決める。 ロジ「まあ、あの能力の試し時ってことか」 攻撃を受ける瞬間に狼化を解けば、狙いがずれて致命傷は避けられるだろう。 ロジ「まったく、いいタイミングで能力が出たもんだな」 それこそ、神様に感謝していい、と思った。 #廃都東都

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メルと怪異の間に立ち、狼化を解いた瞬間。 血飛沫が、雪に散った。 メル「――～～～！！！」 #廃都東都

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ロジ「っは……、いてえ」 メル「ロ、ジ……」 寒くて、痛くて、熱かった。 メルに傷は見せたくないが、仕方がない。 一直線にえぐれた背中をメルに向け、怪異と対峙する。 ロジ「……能力、発動」 怪異の輪郭が、揺らめいた。 #廃都東都

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それは数日前に開花した能力だった。 気付いて、試して、今日が本番。 最初で最後の、本番。 怪異がふらつき、膝をつく。 怪異の背中には、ロジのものと全く同じ傷があった。 #廃都東都

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ロジ「っは、どうだ、まだやるか？　俺を傷付ければ傷付けるだけ、お前の傷も増えることになるが？」 脂汗にまみれ、片頬を上げる。 上手く笑えていないだろうが、言葉はハッタリではない。 メル「ロジ、ロジ」 真後ろで、雪と同じように、メルの言葉が地面に吸い込まれて消えた。 #廃都東都

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怪異がゆっくりと立ち上がる。 どうやらここを去るようだった。 ロジ「……はあ」 肺に溜まった息を、思い切り吐き出す。 激痛に、頭がおかしくなりそうだった。 #廃都東都

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傷を隠すように、雪の上に仰向けになる。 ロジ「あー……」 白い空から、白い雪が舞い降りてくる。 メル「ロジ、ロジ！　いやだ……いやだ、死なないで！　ロジ！」 ロジ「んな叫ばなくても、聞こえてる……」 #廃都東都

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ロジ「わりいな……、俺がいるなら生きる、っつってもらった、直後によ」 メル「あ……どうしよう、私の、私の……、私が、にげなかったから」 ロジ「落ち着けって……メル、お前の、せいじゃない」 #廃都東都

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ロジ「……走馬灯って、ほんとにあるんだなあ……」 メル「ロジ……」 ぽろぽろと、メルの頬を宝石がつたう。 メルの涙は流れない。 転がり落ちるのは、色とりどりの美しい宝石だった。 ロジ「お前……それ……綺麗だなあ……」 #廃都東都

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ロジ「泣いてるんだな……。ありがとな。……楽しかった。神様なんていない、っつったあれ、訂正する」 メル「かみさま。かみさま」 ロジ「そうだなあ、いるのかもな、神様……」 メル「かみさま。いのりが、とどくなんて、おもったことないです。いままで、いちども」 #廃都東都

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メル「でも、おねがいします。もうなきません。いいこにします。もう、いのりが、とどかなくていいです」 ロジ「さむい、な……」 メル「おねがいします。ロジをつれていかないでください。おねがいします。おねがいします……！」 #廃都東都