稲川淳二のつぶやき怪談　2015年3月28日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（寝息じゃない。呻き声だ・・・・・）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「苦しい・・・・、苦しい・・・・、助けて―・・・・」 後ろで、女の声がしている。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（おかしい！？・・この人達・・・撮影の人達じゃない・・・・、 このバスの中にいるのは、皆、生きている人じゃないんだ！）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と思った途端、全身が凍りついた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（直ぐに、司書ここから出なくちゃ） 慌てて、席を立とうとするんですが、恐怖で身体が動かない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

逃げ出したくても、逃げられない。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（見ちゃ駄目だ） と自分に言い聞かせて。 息を殺して、じっと目を瞑った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

冷えた汗が、顔面から首筋を伝って流れ落ちて行く。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（苦しい・・・・・、苦し―・・・・・、苦し―・・・・・） 背後で、女の呻きが大きくなってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、突然、背もたれがつかまれて、 後ろへ、グンと引っ張られたんで、 未華さんの、身体がガクンとのけぞって、 その拍子に、仰向けの状態になって、目が開いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、次の瞬間、頭の先から、グーッと女の影が覆い被さってきた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

途端に、 「ギャ――――ッ！」 悲鳴を上げた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

その顔は、べっとりと血に濡れて潰れていた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

一方、ロケ現場では、 音声さんがヘッドホンを聴きながら、スタッフのAさんに、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「未華さんピンマイク付けた儘、何処にいるんだ？」 と、聞いた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「ロケバスで休んでいるんじゃないですかね。どうかしました？」 と言うと。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「いや、彼女のマイクからおかしな声が聞えるんだよ。 それも、ひとりふたりじゃないんだ。 呻き声のようなものもしてるし、未華さんの声はないんだよ」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と言って、ヘッドホンを渡した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａさんが受け取って耳に当てたとたん、表情が変わって、 「何だこれ！」 と叫ぶなり、ロケバスに向かって駆け出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

Ａさんがロケバスにやって来ると、 車内には、未華さんの姿はなかった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

で、辺りを探して歩くと、 黒い木々の向こうに、小型のバスを見つけた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

この原生林では、壊れたクルマやトラックなどが、 放置されているのを見掛けるんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

そのたぐいだろうと思ったんですが、 妙に気になって、懐中電灯を向けながら、 近づいていくと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（アレ？！）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

一瞬、窓ガラスを通して暗い車内に、 人の顔が見えたような気がしたんで、ドキッとした。