ザ・ドランクン・アンド・ストレイド #1

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ネオカブキチョの一角、粋な「雨まい」の漢字平仮名ネオン看板を掲げるバー、レイン・ジルバ、店構えは狭苦しく思えるが、地下に降りれば快適で、それなりの広さがある。1

2015-08-10 00:21:37
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サクソフォンに更にファズをかけた抉るような過剰サウンドに乗せ、店の奥ではポールダンス専用にカスタマイズされたオイランドロイド「ヤケナ」が艶かしく脚を振り上げ、ビスチェ姿の上半身を反らす。客の何人かは酩酊した眼差しをヤケナに這わせ、何人かはまどろみ、何人かはグラスを睨む。 2

2015-08-10 00:22:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

カウンターの左端にはバサついた長い黒髪の女。色褪せたデニム、拍車のついたブーツ、背中に逆さまに「婆」と赤く押されたレザー・ジャケット、腰にはカタナ、要はまともな稼業で無い事は明らか。咥えていた二本のタバコを真鍮の灰皿に押しつけ、ショットグラスを受け取る。 3

2015-08-10 00:24:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

表面に火を灯すスピリッツで満たされたショットグラスの底をカウンターに叩きつけ、一息に呷る。女の睫毛は長く、不機嫌そうで、両目に涙ぼくろがある。ブァーン!ブァァーン!ファズ・サクソフォン音がうねり、曲はたけなわ、オイランドロイドは腰を……「なんでアンタがいる」女は呟き、男を見た。4

2015-08-10 00:26:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

男は女の後ろを無言で通り過ぎようとしていた。女はそれを見咎め、呼び止めたのである。ブアアアーン!ファズ・サクソフォン音と、ピンクの蛍光楕円ボンボリライト。「ドーモ」男は微かに顎を動かし、アイサツした。「ニンジャスレイヤーです」5

2015-08-10 00:34:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」女はアイサツを返さず、隻眼のバーテンダーから追加のショットグラスを受け取ると、スピリッツをなみなみと注いだ。そして、顔を歪めて、トレンチコートにハンチング帽の男を……ニンジャスレイヤーを睨んだ。ニンジャスレイヤーは辞去の為片手を上げかける。女はグラスを突き出す。 6

2015-08-10 00:36:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」彼は折れた。ショットグラスを受け取り、口をつける……女は瞬き一つせず睨み続けている……ニンジャスレイヤーは一息にグイと呷った。空のグラスを、殆どゼンめいて、流れるようにカウンターに戻した。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。レッドハッグです」女は漸くアイサツを返した。7

2015-08-10 00:41:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【ザ・ドランクン・アンド・ストレイド】#1

2015-08-10 00:43:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブアアーン!サクソフォンが憑かれたように狂騒の度を増すなか、男は……ニンジャスレイヤーは……フジキド・ケンジは、レッドハッグの隣の椅子についた。レッドハッグはショットグラスを再度満たそうとしたが、フジキドが先に動いた。「サイタマ・シュリンプ・ビールは」「ありますよ」とバーテン。8

2015-08-10 00:48:56
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんだいそりゃ」レッドハッグは不興そうに顔をしかめた。バーテンが真鍮のジョッキをシュリンプ・ビールで満たし、フジキドの前に置いた。フジキドはレッドハッグを見た。「ビールだが」「何が、ビールだが、だよ。まあいい」レッドハッグは手振りで促した。フジキドはジョッキに口をつける……。9

2015-08-10 00:54:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

レッドハッグは瞬き一つせず睨み続けている……フジキドはグイと呷った。喉仏が動き、真鍮の表面を水滴が滑り落ちる。「……」フジキドはグラスをカウンターに戻した。ゼンめいて流麗に、静かに。「なるほど」レッドハッグはタイミングを合わせ、ショットグラスにスピリッツを注ぎ終えた。流麗に。10

2015-08-10 00:59:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」フジキドはレッドハッグを見た。レッドハッグは眉間に皺寄せ、これを断れば相当な失望と勝利の眼差しをぶつける用意がある事を無言で示した。フジキドは……ショットグラスを取り、一息に呷った。そしてゼンめいて無音でカウンターに戻した……滑らせるように。「悪いが私は……」 11

2015-08-10 01:01:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ワカル?電子の吸血鬼」レッドハッグが三杯目のスピリッツを注ぎながら言った。「電子の……何だと?」「アーケイドだよニンジャスレイヤー=サン。古城に迷い込んだ王子が……なんでもいいさね、そんな事は。重要なのは、王子が3回死ぬとゲームオーバーだ。アンタは少なくともワン・ミスした」12

2015-08-10 01:05:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何」「そんなに死ぬほどビール飲みたかったのかい、エエ?」レッドハッグはフジキドの腕を肘で突いた。「違うのかい。じゃあ始めから付き合えばよかったんだ」「よいか。私はここに」酔いに来たのではないぞ、と言いかけた言葉を呑み込む。電子の吸血鬼の喩えが良くわからず、主導権を得損ねた。13

2015-08-10 01:12:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

レッドハッグは挑戦的な微笑を浮かべたまま言葉を待っている。バーに来て、酔いに来たのではないと宣言……なるほど無粋ではある。それはレッドハッグから勝ち誇った侮蔑の笑みと長口上を引き出す事となろう。「水を」フジキドはバーテンに頼み、そのまま一連の動作としてショット三杯目を呷った。14

2015-08-10 01:18:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アイアイ、水」「うむ」フジキドはバーテンに頷き、流麗な動作でショットグラスを戻し、返す手で水のグラスを取り、飲んだ。「チェイサーだ。わかるな」「何を……」「わかるな」フジキドは黙らせ、レッドハッグよりも先にスピリッツの瓶を取ると、レッドハッグのショットグラスを満たした。 15

2015-08-10 01:23:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ドーモ」レッドハッグはおどけた礼を言って、ショットを飲み干すと、グラスをカウンターに叩きつけた。既に彼女がある程度消費した後という事もあって、瓶は空っぽだ。「この数週間で行方不明者が頻発している。この界隈でだ」フジキドは切り出した。「よくある、よくある」レッドハッグは頷く。16

2015-08-10 01:26:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ブアアアーン!ブアン!ブアアーン!サクソフォンがいよいよ狂乱する。ヤケナが両腿の力でポールを挟み込み、逆さに身を反らせる。「ワオ、ネーチャン」「ワーオ」酔客たちが囃し立て、チップを賽銭箱に投げ入れる。「つまりそれが……」「そんなにビール好きなら、次はビールにするかね」 17

2015-08-10 01:30:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……」「聞いたことはあるねェ」レッドハッグは低く言った。「何がだ」「そりゃ失踪だよ。ここのところの」「……」フジキドは眉間に皺寄せ、再度チェイサーを飲んだ。「アイアイ、ビール」バーテンが、塔めいて高く細長いグラスを二つ差し出した。双塔を満たすのは淡く光る神秘的なビールだ。18

2015-08-10 01:32:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「なんだい、その顔は。アタシを信じてないね?エエ?アンタをひっ捕まえて、その、こうやって酒に付き合わせる迷惑な……そういうアレだと思ってンだろ」「どちらとも言えんが」フジキドは答えた。「プッ!」レッドハッグは噴き出した。「カンパイ」グラスを差し上げる。フジキドは応じた。19

2015-08-10 01:38:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

二者は喉を鳴らして光るビールを飲んだ。このビールは「カガヤキ」と言い、発光成分と各種ビタミンの添加が売りである。ブアアアーン!ブアン!ブアアアーン!サクソフォンが鳴り続ける。やがて二人は塔めいたグラスを同時に戻した。カウンターがドスンと音を立てた。 20

2015-08-10 01:42:00
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「フー」フジキドは手の甲で口を拭い、チェイサーを飲み干した。「水と、ジェット・ブラック・ファルコを、ロックで頼む」「ジェット・ブラック・ファルコをロックね」「……」レッドハッグがフジキドを見る。フジキドは目をそらさず宣言する。「私は……自分のリズムを守る」「アー。オーケイ」21

2015-08-10 01:46:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「それで?失踪は」フジキドはピスタチオの皮を剥きながら切り出した。「失踪?」「聞いた事があると言ったぞ」「ある、ある」レッドハッグもフジキドと同じものを頼んだ。フジキドは瞬きせず、奥歯でピスタチオを噛む。「どんな噂だ」「つまり……しこたま酔った奴が、霧の中で見るのさ」「何を」22

2015-08-10 01:51:49
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ホラ、ピンクの象……ね?」レッドハッグがグラスの球状氷を揺らし、少し飲んだ。「見た事あるかい?エエ?」フジキドはあきれたように首を振った。ピスタチオを取ろうとして一度落とし、拾った。「時間の無駄だったようだ」「続きがあるンだッてば!仕方のない男だねェー!」「……よかろう」23

2015-08-10 01:57:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アタシが言いたいのはね、そいつはピンクの象みたいだッて事さ!比喩だよ、おバカさん。わかるかね?」「……」フジキドはグラスを傾けた。それからチェイサーを飲んだ。レッドハッグは頷きながら続ける。「しこたま酔っ払った奴の酩酊意識に、死神がね……ヒヒッ、アンタじゃないよ……訪れる」24

2015-08-10 01:59:49