黄昏町(九板)六日目

柊 @hiiragi_r_t_d

【六日目】 【魂11/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

「はぁー……疲れました」 日没時に休憩を挟み、わたしは歩き続けている。 しかし遠くの煙突は近付かないし、周りの景色には変化がない。 わたしは低いブロック塀に腰掛けて、少し休憩することにした。頭に乗せたパナマ帽を脱いで、かっかと火照った首筋をぱたぱたと扇ぐ。 01 #hollytk

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戯れに額の眼を開く。一昨日の男はなにやらこの眼が危ないというような事を言っていたような気もするが、全くそんな影響は感じられない。夕焼け空はより赤く。草木はくすんだ緑を纏って。 わたし自身にも、草木にも。額の眼に映る生き物には、うっすらと色が重なって見える。 02 #hollytk

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「これって……魂、なんですかね」 ぐっと眼を凝らせば、壁の向こうや石の下の生き物が発する輝きもなんとなく見える……気がする。 額の眼で暇潰しをしていたわたしの視界の端を、真っ黒な塊が通り過ぎた。 「オ前強イカ？」 03 #hollytk

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「え……？がっ!?」 思わずそちらを振り向いたわたしの首を、黒く大きな腕が掴んで持ち上げる。 「不用心ナ女ダナア。教育が必要カア？」 わたしの細い首に鋭い爪を走らせ、先端についた血を舐め取りながら、バケモノが笑う。 「オ前、バケモノヲ見ルノハ初メテカ？」 04 #hollytk

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「初めてです……！」 首を軽く絞められながらも、わたしは答えた。同時に、三つの目でしっかりと目の前のバケモノを観察する。 全身を黒く塗り潰した魂は、わたしの額の眼と同じ色。きっとそれが、バケモノとやらの証拠なのでしょう。 「サアテ、オ前の異形ハ幾ツカナ？」 05 #hollytk

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バケモノの黒い毛皮に覆われた腕がわたしのセーラー服の下をまさぐる。 「ちょっと、やめてくれませんか？わたし、この額の眼しかないですよ？」 「ハッ、嘘カモナァ？」 「やぁっ、痛っ」 腹を撫でていた手が、脇腹から上へと爪の引っ掻き傷を残して這い上がる。 06 #hollytk

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「ハッハァ！ナカナカソソル顔スルジャネエカ？ウン？」 脇腹のからブラの下へと滑り込む黒い指先に顔を顰めながら、わたしは交渉する。 「……離して下さい。逃げないので」 「信ジル訳ネエダロウガヨオ！」 「……ですよねー」 わたしは諦め、手足から力を抜く。 07 #hollytk

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「アア？ナンダ、モウ諦メチマッタノカヨ」 手の中で膨らみを弄んでいたバケモノが、強く握りしめる。白い柔肌に爪が食い込み、セーラー服の胸に血が染みを作る 「ぐっ……あぁっ！」 「ア、死ンデハナカッタナ。名前ヲ聞ク前ニ死ナレテ、モシモ『カスカ』ダッタラ…」 08 #hollytk

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バケモノは全身の毛を逆立ててぶるりと身体を震わせた後、その恐怖を追い出すように頭を振った。 「次ハ背中ヲ検査ダア」 黒い指先が名残惜しそうに胸から離れ、背中に回った。冷たい毛並がさわさわと背筋を撫でる。 「ひゃぁっ!?……眼しか無いって言ってるのに……」 09 #hollytk

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「クヒヒ……ソウハ言ッテモ、隠シテルカモ知レネエシナア……ソレニオ前ダッテ悪クネエダロウ？」 「……不愉快です」 「マア良イ。ソンナ顔見テモツマラネエ。ショータイムト行コウジャネエカ！」 バケモノはわたしの服から腕を引き抜き、首を持ったまま高く持ち上げた。 10 #hollytk

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「ぐっ……苦しい……」 地面から靴先が離れ、わたしは宙吊りになる。 「オ前ノ名前ヲ聞カセロヨ。答エタラ楽ニシテヤルゼ？」 その言葉に心が揺らぐが、さっきまでの仕打ちを思い出してこらえる。楽にする前に散々愉しむつもりだろう。なにか、なにか無いか…… 11 #hollytk

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わたしはバケモノのある発言に思い当たる。 もし失敗すれば、正直に答えるよりも酷い事になるだろう。 「……運試し、ですね」 「アァ？何カ言ッタカ？聞コエネエナア？」 独り言を命乞いと勘違いしたのか、長い耳をわざとらしく立てるバケモノに向けて、わたしは叫んだ。 12 #hollytk

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「わたしの名前はっ！九板かすか！」 「かすか」という名前に、バケモノの腕がビクリと震える。 わたしはバケモノの目をじっと見る。信じて見逃して貰えれば御の字。それがうまくいかなければ…… 「オイオイオイオイ、マジカヨ……ソノ……オ兄サンニハ、内緒……頼ム」 13 #hollytk

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うまくいった。……このバケモノ、あまり頭の出来はよくないらしい。 「あなたのこれからの態度次第ですね。それではさようなら」 「タ、頼ンダカラナー…」 貧乏くじを引いたとばかりに肩を落として去っていくバケモノを見送ったあと、わたしは自分の体を見下ろす。 14 #hollytk

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脇腹はひっかかれた跡がヒリヒリと痛むし、胸の爪痕もしばらくは消えないだろう。セーラーには血の痕が出来ている。しかし一番の被害は…… 「……これ、どうしましょうか」 大きく裂け、用をなさないブラを茂みに投げ捨てて、わたしは空を見る。 「はぁー……疲れました」 15 #hollytk

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目指す場所はとりあえず、地平線の向こうに顔を出す煙突。理由はない。 「……？」 視界に映る煙突が一瞬、黒い煙を吐き出していたような気がした。 「……気のせい、ですかねー」 あのバケモノが燃やされてたらいいのにな。下らない事を考えながら、わたしは歩き出した。 16 #hollytk

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──────── 【六日目】 【生存】 【魂+1】 【魂12/力1/探索2】 【異形】三ツ目(力+1、探索+2) 17 #hollytk

柊 @hiiragi_r_t_d

[町]黒い影が君の前に踊り出た。咆哮を吐いて、怪物は嗤う。「オ前強イカ？」《力2以下は見逃され力8以上は勝利【魂+1】、それ以外は死亡【魂-1/『獣耳(探索+2)』『爪(力+2)』どちらかを入手】》 #黄昏町の怪物 shindanmaker.com/541547 #hollytk

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◆ #hollytk ◆ ちなみにこの黒い影が『カスカ』を見逃す理由は前回の黄昏町(柊)にある。興味のある方はこちらのリンクから読むことができる。 黄昏町(柊)四十四日目 togetter.com/li/871394