美しい男は買い食いなんてしない#1 呪いの指輪◆2
_事務所の主、レックウィルは細身の青年で、ミレイリルよりも随分若い。黒のスーツはつやがあり、煙草臭さもなかった。青いシャツが清潔感を示していた。 彼はソファに腰かけ、向かいに座る霊に憑かれた青年……キリオに微笑む。 「もう心配ないですよ。それで、霊はいつから……?」 11
2016-01-28 18:44:16「5日前からだ……こいつは俺の幼馴染なんだ。けれども、事業に失敗して行方不明になっていた。現れたと思ったら、霊になっていて、俺を深く憎んでいたんだ」 「こいつは屑だぜ。ボクサー気取りの、チンピラだ」 太った霊が素早く口を挟む。レックウィルは動じない。変わらない笑顔。 12
2016-01-28 18:49:10_霊は怒りの炎を目に灯しわめき散らす。 「こいつは卑怯なんだ。何もかも恵まれていやがる。顔がよくて女にモテていい気になって……家が裕福だからボクサー気取って遊んで暮らしてやがる! 許せねぇ……俺はキリオを破滅させてやるぜ。当然の報いだ」 13
2016-01-28 18:53:48「破滅……破滅だ。次の公式戦までに減量しなければ、俺の夢は……」 キリオは怯えて震えていた。キリオが言うには、霊に食欲を握られていて何でも食べてしまうという。 「霊は妄執に囚われています。生きている人間がそれに害される筋合いはありません」 レックウィルは微笑む。 14
2016-01-28 18:57:30「正しいのは俺だ! 俺の方がたくさん苦労をして、辛い思いをして……なのに、こいつはのうのうと暮らして……俺の方が、辛いんだよ……」 「大丈夫です」 レックウィルは霊にも優しく接する。 「我々はコンサルタントです。除霊師ではありません」 15
2016-01-28 19:01:33「俺のことを軽蔑してるんだろう、やっかいな亡者だと……」 「あなたの妄執を解き放ち、あなたの死後を安らかにするのも私共の仕事です」 激しいやり取りに怯えていたミレイリルが、恐る恐るコーヒーを持ってくる。かなり強い霊だ。ミレイリルは霊に睨まれて後ろに下がる。 16
2016-01-28 19:05:58「どうせ霊は消えるんだから、パーッと手をかざして、パーッと消し飛ばせないんですかね」 ミレイリルは小声でレックウィルに訴えるが、彼は丁寧に言い聞かせる。 「それじゃダメなんだよ。苦しんでいる霊は……救われなくちゃ。苦しんでいる霊は、救いを求めているんだよ」 17
2016-01-28 19:09:32_春風がカーテンを揺らして部屋に入り込んでくる。どこか気持ちがウキウキする季節だ。ミレイリルはレックウィルの話を聞いて心がときめく。 誇りの持てる仕事なのだ。もちろんあらゆる仕事は誇りを持てるが、ミレイリルは霊コンサルタントのことを今までよく知らなかった。 18
2016-01-28 19:15:44_レックウィルは依頼人の青年の目を真っすぐ見る。 「キリオさん。あなたは恵まれているかもしれない。けれども、それは後ろめたいものじゃない。あなたの魅力であり、力だ。誰かから妬まれて挫けるものでも、奪われるものではない。要は、霊に納得させればいいんだ」 19
2016-01-28 19:22:12「あなたが真に尊敬できる人間になり、恨みや妬みを持つ者全てを納得させる美しい男になればいいんだ。不当な力と思わせず、背筋を伸ばして誇れる力になればいい。協力するよ。霊コンサルタントは、あなたの霊障を解決します」 ミレイリルはそれを聞いて、思わず背筋を伸ばしたのだった。 20
2016-01-28 19:26:22