美しい男は買い食いなんてしない#1 呪いの指輪◆2

食欲が止まらなくなったボクサー。憑りついたのは、彼の成功を妬む悪霊! 霊障コンサルタントのレックウィルは、彼の悩みを解決するため奮闘します。 もちろん、霊の魂さえも安らげるため…… 全59ツイート程度 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

_美しい男は買い食いなんてしない#1 呪いの指輪

2016-01-28 18:38:39
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_事務所の主、レックウィルは細身の青年で、ミレイリルよりも随分若い。黒のスーツはつやがあり、煙草臭さもなかった。青いシャツが清潔感を示していた。  彼はソファに腰かけ、向かいに座る霊に憑かれた青年……キリオに微笑む。 「もう心配ないですよ。それで、霊はいつから……?」 11

2016-01-28 18:44:16
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「5日前からだ……こいつは俺の幼馴染なんだ。けれども、事業に失敗して行方不明になっていた。現れたと思ったら、霊になっていて、俺を深く憎んでいたんだ」 「こいつは屑だぜ。ボクサー気取りの、チンピラだ」  太った霊が素早く口を挟む。レックウィルは動じない。変わらない笑顔。 12

2016-01-28 18:49:10
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_霊は怒りの炎を目に灯しわめき散らす。 「こいつは卑怯なんだ。何もかも恵まれていやがる。顔がよくて女にモテていい気になって……家が裕福だからボクサー気取って遊んで暮らしてやがる! 許せねぇ……俺はキリオを破滅させてやるぜ。当然の報いだ」 13

2016-01-28 18:53:48
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「破滅……破滅だ。次の公式戦までに減量しなければ、俺の夢は……」  キリオは怯えて震えていた。キリオが言うには、霊に食欲を握られていて何でも食べてしまうという。 「霊は妄執に囚われています。生きている人間がそれに害される筋合いはありません」  レックウィルは微笑む。 14

2016-01-28 18:57:30
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「正しいのは俺だ! 俺の方がたくさん苦労をして、辛い思いをして……なのに、こいつはのうのうと暮らして……俺の方が、辛いんだよ……」 「大丈夫です」  レックウィルは霊にも優しく接する。 「我々はコンサルタントです。除霊師ではありません」 15

2016-01-28 19:01:33
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「俺のことを軽蔑してるんだろう、やっかいな亡者だと……」 「あなたの妄執を解き放ち、あなたの死後を安らかにするのも私共の仕事です」  激しいやり取りに怯えていたミレイリルが、恐る恐るコーヒーを持ってくる。かなり強い霊だ。ミレイリルは霊に睨まれて後ろに下がる。 16

2016-01-28 19:05:58
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「どうせ霊は消えるんだから、パーッと手をかざして、パーッと消し飛ばせないんですかね」  ミレイリルは小声でレックウィルに訴えるが、彼は丁寧に言い聞かせる。 「それじゃダメなんだよ。苦しんでいる霊は……救われなくちゃ。苦しんでいる霊は、救いを求めているんだよ」 17

2016-01-28 19:09:32
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_春風がカーテンを揺らして部屋に入り込んでくる。どこか気持ちがウキウキする季節だ。ミレイリルはレックウィルの話を聞いて心がときめく。  誇りの持てる仕事なのだ。もちろんあらゆる仕事は誇りを持てるが、ミレイリルは霊コンサルタントのことを今までよく知らなかった。 18

2016-01-28 19:15:44
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_レックウィルは依頼人の青年の目を真っすぐ見る。 「キリオさん。あなたは恵まれているかもしれない。けれども、それは後ろめたいものじゃない。あなたの魅力であり、力だ。誰かから妬まれて挫けるものでも、奪われるものではない。要は、霊に納得させればいいんだ」 19

2016-01-28 19:22:12
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「あなたが真に尊敬できる人間になり、恨みや妬みを持つ者全てを納得させる美しい男になればいいんだ。不当な力と思わせず、背筋を伸ばして誇れる力になればいい。協力するよ。霊コンサルタントは、あなたの霊障を解決します」  ミレイリルはそれを聞いて、思わず背筋を伸ばしたのだった。 20

2016-01-28 19:26:22
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_美しい男は買い食いなんてしない#1 呪いの指輪 ◆2 終わり ◆3へつづく

2016-01-28 19:27:34