美しい男は買い食いなんてしない#1 呪いの指輪◆3
_ミレイリルはテーブルの上に指輪を並べるレックウィルを見ていた。やけに暖かい春の日差しで眠くなるが、向かいのソファに恐ろしい霊がいるので眠気を消し飛ばしてくれる。 指輪は装飾のない青いリングだった。何らかの魔法物品であろう。レックウィルは魔法物品の扱いに長ける。 21
2016-01-29 17:26:08_柔らかい口調でキリオに説明するレックウィル。 「呪いの指輪です……大丈夫、弱い奴で外せなくなることはありません。何らかのトリガーに反応して、何らかの作用を引き起こす。そういう仕組みと言うだけです」 何を思ったか、彼は目覚まし時計を持ってきてそれのベルを鳴らす。 22
2016-01-29 17:30:31_レックウィルは指輪の一つを指にはめて、にやりとする。 「準備ができました。さ、試してみてください」 キリオの骨ばった手を取り、自分の指から青い指輪を外して彼の指にはめる。ボクサーらしく手は硬く、しっかりとリングが収まった。何も変化は無いようで、キリオは訝しげだ。 23
2016-01-29 17:35:38「ミレイリル、茶菓子を。マドレーヌがあっただろう」 茶菓子を出すなと言われていたので、ミレイリルは戸惑う。が、指示に従う。食欲が暴走しているはずなのだ。 言われた通り持ってくると、キリオが目を白黒し始めた。ぱちぱち瞬きをして、両耳を塞ぐ。 「成功のようですね」 24
2016-01-29 17:41:13_キリオは自らの状況を説明する。 「先生、頭が割れるように痛い……どういうことだ、頭の中で目覚ましのベルが鳴り響いている!」 「それが指輪の作用です。さっき記憶したベルの音を、食欲の高まりをトリガーにして脳内に再生させる、そういう呪いです」 25
2016-01-29 17:45:33「つまり、食欲という欲求をベルの音という不快要素に関連付けるのです。人間は、楽しいことを繰り返し嫌なことはやめる。そういう風にできています。食欲を感じるたびに嫌な思いをすれば、自然と食欲は無くなるでしょう」 レックウィルは手を振り、ミレイリルにお菓子を下げさせる。 26
2016-01-29 17:51:09_霊の顔色を窺うキリオ。霊はつまらなそうな顔をしている。ベルが鳴るたびに、食欲から冷静になれる。それこそレックウィルの狙いだ。 (真に尊敬できる人間になり、恨みや妬みを持つ者全てを納得させる美しい男に) ミレイリルはその言葉を心の中で繰り返す。 27
2016-01-29 17:58:47_キリオは納得したようで、数回短い言葉を交わして帰宅した。レックウィルは冷めたコーヒーをすすりながら、マドレーヌを食べて休憩する。 「私も美しい女になりたいなぁ」 隣でソファに座ってマドレーヌを食べるミレイリル。 「上手くいくといいですね」 28
2016-01-29 18:05:01「ああ。よく最大の敵は自分と言う。しかし最大の味方も自分自身だよ。最強の自分は最強の自分にしか倒せないのさ」 キリオが自らの食欲に勝てるかどうか。霊に打ち勝つかどうか。ミレイリルは祈っていたが、数日後思わぬ展開が訪れる。 事務所に転がり込むキリオ。 29
2016-01-29 18:10:00