荒野の領土に歌よ響け#2 嵐の去った後の景色◆2
_カルマサは船室に入り、道具箱を収納から引っ張り出した。続いて、曲がってしまった盾を万力に固定する。 「イテテ、あんまり強く挟むな!」 「ごめんごめん、固定できたぜ。ちょっとの辛抱だ」 そうして、補修を始めた。 41
2016-03-01 17:52:16_力をゆっくりかけて、盾の歪みを直す。盾は何らかの赤く輝く金属でできており、ゆっくりと元の形へと戻っていく。 「あいつらは、敵にしか見えない。それでも仲良くしなくちゃいけないのか」 盾は苦しそうに訴える。 42
2016-03-01 17:57:38_波が船に打ち付ける音がざわざわと響いている。カルマサは腕を組む。 「仲良くする必要はないね。ごろつきだよ。力で領域を支配している……ただ、俺にとっては敵じゃない。取引先だ。世の中の人間は敵と味方の二つだけじゃ区別できない奴ばかりだね」 43
2016-03-01 18:04:19_作業をやめて、船室の家具を説明する。 「壁の気圧計、そこに立てかけてある漁具、保存食は1か月分。これらは、タダで手に入れたもんじゃない。潜水騎士と取引して、仕事して、勝ち取ったものだ。でも潜水騎士は味方でもない。あんな奴らは友達じゃない。でも、敵でもない」 44
2016-03-01 18:10:21_カルマサはにやりと笑って、作業を再開する。グキグキと音がした。 「イテテ、もっと優しくしてくれ」 「ああ、悪い」 盾は静かに身を任せる。 「俺だって分かってるよ。自分が馬鹿なことをしているって。でも、心の底から沸き上がる衝動を抑えきれないんだ」 45
2016-03-01 18:16:37「自制心を鍛えられればいいのに!」 表面の塗装にひびが入っている。元は無造作にペンキを塗っているようだった。船の補修用のペンキを筆で丁寧に塗った。 「爆発しそうなんだ。自分が自分じゃなくなりそうなんだ。お前にはどうせ分からない」 46
2016-03-01 18:21:27「ごめんよ……でも、俺はお前を変えたいと思うんだ。深く、悲しみへと沈んでいく前に……」 「うるさい! 正論で俺を殴るな! 俺は傷ついたんだぞ……俺はこんな目にあわされて……もうたくさんだ!」 万力が、ガタガタと震え始める。 47
2016-03-01 18:26:54「大丈夫、お前は傷つけられていやしない。何も否定はされていないんだ。広い世界で、出会ったたった一人が、適当なこと言っただけじゃないか。そんな人間の一粒がお前の何を値踏みできるっているんだ」 「うるさい! 俺は傷つけられたんだ……痛いんだ、苦しいんだ!」 48
2016-03-01 18:33:39_万力がはじけ飛ぶ。盾は空中に浮かぶと、魔力の風を身に纏う。唸るような大気の歪む音。嵐を爆発させるつもりだ。 「ウウウウウウウウオオオオオオオアアアアア!!」 絶叫をあげる盾。すさまじい空気の圧力が船室で解放される。カルマサは近くにしがみつく。 49
2016-03-01 18:37:49「俺は戦う……俺自身を守るために!」 巨大な嵐は船を完全に破壊した。真っ二つに割れて、沈む船。稲妻が炸裂し、雨粒の混じった風が吹き荒れ……晴れた海の真ん中に、巨大な水柱がたった。 そして……静かになった。海面には何も残らなかった。 50
2016-03-01 18:43:16【用語解説】 【気圧計】 別名シルフ探知機。シルフの存在濃度を測る装置であり、クラウドシルフなどの強大な気象妖精が接近するとメーターの針が動く。基本的に天気と言うのはシルフの気まぐれで決まるため、予知を使わなければ気象予報は不可能である。気象予知専門の予知術師も人気の職業である
2016-03-01 18:57:07