イクストリーム・フライト・イン・ネオサイタマ 前半

SUMIYU(@SUMIYU1987)=サンのテキストカラテ
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SUMIYU @SUMIYU1987

【イクストリーム・フライト・イン・ネオサイタマ】

2016-03-07 10:29:10
SUMIYU @SUMIYU1987

びゅわーわー びゅわわーわ ひょうぅぅーーー ひどい風だ。どす黒い分厚い雲が狂ったような速さで流れている。つい先刻まで小ぶりだった重金属酸性雨も今は大粒となり、風に乗って街路を蹂躙する。夜の繁華街にあれほどごった返していた市民たちも、容赦なく鞭打たれ、閉じこもってしまった。 壱

2016-03-07 10:32:12
SUMIYU @SUMIYU1987

この荒れ狂う暴風雨の中、ネオサイタマの影の支配者ラオモト=カンの居城、トコロザワ・ピラーも混乱の極みにあった。武装ツェッペリンも強風にあおられながら緊急着陸し、ハンガー内にはクローンヤクザ・エンジニアたちの怒号が響く。「尾翼が損傷しています!」「早く整備班に!」「ハイ!」 弐

2016-03-07 10:38:43
SUMIYU @SUMIYU1987

「貴方レンチを持ってきてください早く!急げ!」屈強な身体を機械油に塗れたツナギに包んだ班長ヤクザが次々と的確な指示を出す。溶接の閃光、電動工具の音、クレーン作業員の怒号、アビ・インフェルノめいた喧騒を尻目に、ゆっくりとハンガー内に足を踏み入れた者あり。ニンジャだ。 参

2016-03-07 10:45:54
SUMIYU @SUMIYU1987

爆撃機パイロットめいた厚手のフライト・ジャケット、優美な曲線を描くカーボンナノチューブ・メンポ、パイロットブーツと各種機能付きテック・ブレーサーで身を固めたこのニンジャの名は、ヘルカイト。特製の凧を自在に操り比肩する者のない空中戦能力を誇るソウカイヤのエースだ。 四

2016-03-07 10:53:15
SUMIYU @SUMIYU1987

彼にとって毎度のフライトミッション、そしてニンジャや大型ツェッペリン相手の空中戦でさえも怖れを抱かせるものではない。彼はエキスパートであり、飛行任務にかけてはレジェンド・スシマスターめいたタツジンなのだ。怖れることはない。しかし、今夜は違う。彼の表情は硬い。 伍

2016-03-07 10:57:15
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトは脳内で飛行ルートをシミュレーションする。目的地はここ、トコロザワ・ピラーより30kmほど北上したプランテーション施設。この極限の天候下での30kmのフライトは間違いなく死と隣り合わせだ。彼はテック・ブレーサーをさすりながら緊張した面持ちでハンガー内を横ぎる。 六

2016-03-07 11:02:48
SUMIYU @SUMIYU1987

クローンヤクザ・エンジニアたちが作業を止め敬礼する。「「「オツカレサマドスエ!」」」しかしヘルカイトの耳にはそのアイサツは届かない。彼は厳しい顔をしながら一歩一歩と歩を進める。そしてハンガーの一角、壁に大量の工具がぶら下げられた作業ブースを見る。男と目が合う。ニンジャだ。 七

2016-03-07 11:10:06
SUMIYU @SUMIYU1987

「ドーモ、ヘルカイト=サン。どうしても飛ぶのか?」「ドーモ、メカニック=サン。決行だ」「下手をすれば死ぬぞ」「ラオモト=サンのために」ヘルカイトの決断的な目つきを悟ったメカニックはそれ以上食い下がるをやめ、大型の凧を引っ張り出すと、骨を左手で叩いた。「試作品カーボンだ」 八

2016-03-07 11:16:50
SUMIYU @SUMIYU1987

メカニックは大きな目をせわしなく動かしながら熱っぽく説明を続ける。「従来のものではこの暴風雨は耐えられん。この試作品を試すしかないぞ。簡単に言えば、織り方を変えてある。樹脂の配合も見直してある」「うむ」「だが、なにぶんテストが足りない、保証はできんぞ」 九

2016-03-07 11:20:51
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトはやや不敵な笑みを浮かべ、左腕の重厚なブレーサーを叩きながら返す。「問題ない。あとは俺が何とかする」「ようし、OKだ。それと面積、形状その他ひと通り見直してある」「急な仕事で悪いな」「ダッテメー!何言ってやがる、俺のニンジャ整備力を見くびるんじゃねえぜ」 拾

2016-03-07 11:30:56
SUMIYU @SUMIYU1987

「以上か?」「いや、肝はこれだ」メカニックはそう答えると凧の骨、四隅に金属製の装置を取り付けた。「ジェットスラスターだ。少々乱暴だがこの天候じゃ優雅に風に乗るだけ、なんてわけにはいかん。こいつで何とかしてくれ。ブレーサーのCチャンネルで操作できるようにしてある」 拾壱

2016-03-07 11:36:22
SUMIYU @SUMIYU1987

メカニックは説明を終えると凧を器用に折り畳み、手渡した。「死ぬなよ」「問題ない。戻ったらサケをおごるよ」「サケか」「ラオモト=サンのサケをな」ヘルカイトはにやりと笑って手を振ると、踵を返した。 「開門ンン!」ヤクザ班長が吼えると、ハンガーの鋼鉄ゲートがスライドを始めた。 拾弐

2016-03-07 11:41:28
SUMIYU @SUMIYU1987

ぶぁっっっっっ 目に入ったものを手当たり次第に切るサイコ通り魔めいて、行き場を失った風雨が開いたゲートの隙間からなだれ込む。手近のクローンヤクザがバランスを失って吹き飛ばされ、工具箱に激突した。「グワーッ!」だがヘルカイトは表情を変えない。彼は凧を担いでハンガーを出た。 拾参

2016-03-07 11:45:43
SUMIYU @SUMIYU1987

ハンガーより上部、3階層にわる外部階段を彼は暴風にあおられながら上った。刹那!巨大LEDカンバン「貴方借りられる」が高速飛来!目の前に着弾!GOAAAAAAHHHHNN!「こりゃあ死ぬかもな」ヘルカイトは他人事のように呟いた。 拾四

2016-03-07 11:52:08
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトが自身の体と凧を高射砲台に上げると、ちょうどガンナーたちが高射砲にPVCシートをかけ、ワイヤーで縛っているところであった。「「「オキヲツケナスッテ!!!」」」ガンナー・ヤクザが一斉に敬礼。「グワーッ!」そして一人飛ばされた。彼は闇夜に消えたヤクザを一瞥する。 拾伍

2016-03-07 11:58:27
SUMIYU @SUMIYU1987

ヘルカイトは狂った暴風雨にさらされながらもニンジャバランスによってかろうじてよろけずに立っていた。しかしいざ空中に出れば...彼の顔が緊張にこわばる。特製凧をひと撫ですると、大きく息を吸い、吐く。ジャケットはすでにずぶ濡れ。ゴーグルに弾丸のような雨。スイッチを押した。 拾六

2016-03-07 12:03:40
SUMIYU @SUMIYU1987

バッ 凧が展開 ぶわっっっっっっっ ヘルカイトは闇に消えた。極限のフライトがはじまる。 拾七

2016-03-07 12:05:24
SUMIYU @SUMIYU1987

ゆうがたとか こうはん こうしんよてい

2016-03-07 12:08:35