紅玉の茶会を、打ち砕け!#2 幻惑の茶会◆2(終)
_宝石の茶会は騒然となった。娘たちは一様に険しい顔でシャルクク少年の背後を見る。少年が後ろを振り返ると、宝石の壁面に大きな亀裂が生まれていた。 「ダメよ」 「ダメなのよ」 赤い服の娘たちはシャルククに手を伸ばす。 41
2016-03-18 17:08:51_剣が一閃! 宝石の空間が粉々に砕ける。剣を振るうのは……冒険者のクルスだ。 「間に合ったね」 クルスは右手を掲げる。宝石の空間は雪の粒ほどまで小さく粉砕され、元の鍾乳洞の姿を現わした。赤服の娘たちはゆらゆらと揺れる。 42
2016-03-18 17:14:58_シャルククはクルスのもとへ駆け寄る。彼の脚にしっかりと抱きつくシャルクク。後ろからひょっこりと魔法使いのメイハが顔を出した。 「こんな小さい子をたぶらかす悪い子は誰かなぁ~?」 赤服の娘たちは恐れおののいた。両手で頭を抱えている。 43
2016-03-18 17:20:32_彼女たちは抵抗することなく、そのまま壁の模様に溶けるように消えていった。そして、全ては薄暗い鍾乳洞に戻っていた。 「魔法陣の消失を確認……ふーん、鉱石シルフの一種だね。恐らくは紅玉のシルフだ」 クルスは紅玉のシルフについて説明する。 44
2016-03-18 17:26:51「紅玉のシルフは、遊び好きな奴らだ。子供とかを誘惑して、人間でなくしてしまう……でも、基本は大人しいから、こうやってこちらが強く出れば引いてくれるんだ」 「僕が見た宝石の正体……これだったんだね」 シャルククは失望して言った。 45
2016-03-18 17:31:01_クルスは鍾乳洞のダンジョンに明かりを灯して、言った。 「宝石があるかないかは、問題じゃないさ。それに、君は言ったね。信じるって」 「聞いていたの?」 「僕らはずっと君の傍にいたさ。手は届かなかったけどね」 そう言われると、シャルククは照れくさくなる。 46
2016-03-18 17:37:49_宝石のぎらぎらした輝きは消え、どこまでも優しい光が包む。クルスは話を続けた。 「信じることができなかったら、きっと魔法陣は破れなかった。それが、魔法陣の綻びだったのさ。きっと、あのシルフたちは信じることを知らなかったんだ」 3人は洞窟を引き返した。 47
2016-03-18 17:42:20_やがてこの洞窟は化け物の巣になるだろう。魔力が高まり、それを餌にする魔力濾過生物が群れるようになる。それを餌にする化け物も集まる。 もう、宝石の誘惑に惑わされることは無い。シャルククは最後に振り返った。そこには、小さな石ころが落ちていた。 48
2016-03-18 17:49:19_洞窟の外は、眩しい昼下がりの空だった。雲が沸き立ち、初夏の空を彩る。大冒険だったが、わずかな間の出来事だったらしい。 「帰ってきた、いつもの日々だ」 宝石なんか見つかっていない昨日に戻ってきた。友達のいない昨日に。 49
2016-03-18 17:54:36_それでもいいと、シャルクク少年は気付けた。少年は信じることができた。今までの自分を、保つことができた。それだけでも、彼にとって宝石よりも偉大な収穫だった。 「お兄さん、友達でいてくれるよね」 「それを疑うのかい?」 少年は、少し照れて謝った。 50
2016-03-18 17:59:51【用語解説】 【魔力濾過生物】 魔力は、通常の方法では外界から体内に取り込むことはできない。人間や他の知的生物は、感情の力で魔力を扱えるが、多くの化け物は感情を持たず、魔力が摂取できない。疑似的な感情を持つことで魔力を吸収できる生物がいる。それらを食べて魔力を吸収するのである
2016-03-18 18:06:10【次回予告】 画家を志す少女エンジェ。何のコネもなく、才能があるわけでもない。そんな彼女に美味しい話が舞い込む。絵の展示イベントがあるという! ただし高額の出品費がかかるようで…… 次回「虚構の展覧会に、選ばれしものたち」 全80ツイート予定 #減衰世界
2016-03-18 18:10:21