ローガンダルレンの友達#1 最強防護服、ロールアウト!◆3
_超魔導魔竜と呼ばれた男、ローガンダルレンは洞窟の中で丸くなっていた。一日のうち23時間は寝て過ごす。そもそも、起きていたって何もすることは無い。 浅い洞窟の、綺麗な砂地になった場所。ここが、彼の住処だった。豪華な家具も、煌びやかな宝石もない。 21
2016-04-15 17:24:01_本来は寝ている時間だが、彼の鋭敏な感覚は、1000年ぶりの来訪者の存在を告げていた。迷い込んだ鳥でも、獣でもない。人間の気配だ。 「ふわ……だ、誰……まさか、この死界を……」 慌てて起き上がり、涎をぬぐう。 22
2016-04-15 17:30:08_極限まで殺傷性を上げた魔法陣の滅殺魔法が、侵入者を数秒も立たないうちに殺すはずだ。しかし、現に来訪者は、真っすぐこちらに向かって移動している。生きているということだ。あらゆる飛翔物は慣性が殺されてすぐに落下するはずだ。自分の意思で、歩いている! 会いに来たのだ! 23
2016-04-15 17:34:57「服……服を着なくちゃ」 何年ぶりだろうか、言葉を発することさえ久しぶりだ。ほぼ朽ち果てた箱を引っ張り出し、埃まみれの服を選ぶ。 「これだ……」 選んだのは、ピンク色のスーツ。急いで着替える。来訪者はすぐそこまで来ている。 24
2016-04-15 17:39:13(こんな僕にも、会いに来てくれる人がいたんだ。僕はまだ、見捨てられてはいなかったんだ) その事実に、呆然として天井を見上げた。伸びすぎた前髪が視界を埋め尽くしている。顎を撫でると、伸び放題の髭が絡まった。 (こんな顔じゃ誰にも会えないぞ) 25
2016-04-15 17:43:56_3年ぶりに魔法を使う。整髪の呪文だ。自動発動する魔法陣のせいで、誰にも会わないし、死ぬこともない。結果、何もする必要は無く、魔法自体ほとんど使わなかった。 風が巻き起こり、髪はちょうどいい長さに刈り取られ、髭は綺麗に剃られた。洗顔効果付きだ。 26
2016-04-15 17:48:52_道具箱の中から割れた鏡を取り出し、器用に自分の顔を見た。どこにでもいる平凡な青年の顔が、覗き返した。 「よし……楽しみだなぁ。久しぶりのお客さんだぁ……あ、でもお茶もないし、お菓子もない……テーブルどころか椅子もない……」 27
2016-04-15 17:53:20_ローガンダルレンは辺りを見渡した。ゴミのような道具箱のほかは、何一つ持っていない。ただの薄暗い洞窟と、1000年前の枯れ草だけがある。 (これじゃあ何ももてなすなんてできやしない……) 彼は1000年の間、孤独だった。竜の国からは、完全に放置されていたのだ。 28
2016-04-15 17:58:51_亡ぼそうと思えば、いつでも竜の国を亡ぼせた。そして、それをする理由もあった。けれども、その悲劇は選ばずに生きてきた。 ローガンダルレンは悲しみよりも、辛さよりも、孤独よりも……人間が好きだったのだ。深く愛情を感じていた。 29
2016-04-15 18:03:16(もう誰とも会えないと思っていた。永遠に一人だと思っていた……でも違う。永遠の絶望なんてない。光が差すときは、必ずやってくる。そして、今日がその日なんだ……) 洞窟の奥から外を見上げる。確かに、霧の晴れ間が見え、柔らかい光が彼を照らしていた。 30
2016-04-15 18:06:42【用語解説】 【ヒト・人間】 いわゆるホモサピエンスのことではなく、人権を認められた複数の知的種族を指す言葉。ドラゴンも人間であり、ハーピィも人間であり、スキュラも人間である。一見ホモサピエンスに見える生物も、モスルート人だったり、エシエドール人だったり、大きな種族差が存在する
2016-04-15 18:11:32