このクソ暑い日にあなたの力を借りたい#1 社交界と抗争◆1
_メアレディは分厚いスカートをばっさばっさとはためかせて、脚に滲んだ汗を乾かした。この教導院という建物は空調が効いておらず、サウナのように熱い。天井にジャイロが回り、空気を混ぜているが気休めだ。 「で、どうして教導院がテロリスト退治なんかしなくちゃいけないわけ?」 1
2016-04-29 17:18:22「これは僕個人に関する因縁さ」 視線の先には、クソ暑そうな詰襟をきっちりと着こなすミクロメガスがいた。彼とメアレディのほかには、この部屋に誰もいない。だからこそ、メアレディは社交界で被る仮面を脱ぎ捨ててスカートをばっさばっさしているし、口調だって荒い。 2
2016-04-29 17:24:17_メアレディは真っ黒なドレスを身に纏った、教導院には場違いの貴婦人だ。長い髪を纏めて綺麗に編んでいる。口元に覗くのは、吸血鬼の特徴である巨大な犬歯。 彼女はミクロメガス直属の部下の一人で、今日もまた彼から仕事を引き受けるところだ。大抵は社交界でのロビー活動を依頼される。 3
2016-04-29 17:29:45_しかし、今回は勝手が違った。裏ルートから帝都を脅かすテロリストの情報が入ったのだ。そこで、潜入も得意とするメアレディに白羽の矢が立った。 「まーた盗賊ギルドの抗争ですか、縁を切ったらいいのに」 「それがなかなか難しい話でね……」 4
2016-04-29 17:36:54_必要な情報を体内のシリンダーに収めた後、メアレディは車で協力者の下へ向かった。メアレディの戦場は社交界だ。殴る、蹴る、魔法を放つなどの荒事は苦手である。そして、それはミクロメガスも同じだった。これから会うのは、殴る、蹴る、魔法を放つ専門家である。 5
2016-04-29 17:42:29_もちろん、ミクロメガスの部下には殺し合いが大好きでたまらない女もいる。ところが、丁度その暗殺者二人が夏休みの休暇中だったのだ。直前まで大きな仕事に専念していて、疲れも大きい。もう一人の部下は事務仕事がメインのため、仕方なくメアレディの出番となった。 6
2016-04-29 17:47:58_今回仕事を頼むのは、ミクロメガスの友人だという。名はアルコフリバス。ミクロメガスの友人は少ないので、会ったこともない友人となると珍しいな、とメアレディは思った。 メアレディの蒸気乗用車は白銀ランプ街の住宅地へと向かう。燦々と照り付ける太陽が車内温を上げる。 7
2016-04-29 17:54:59_大きな庭のある豪邸の、広い駐車場に車を停める。そして、メアレディは車から降りて一人で邸宅に向かって歩いた。庭木が眩しく緑に輝き、芝生には一つもムラが無い。 「几帳面な人なのかしら」 そのとき、彼女の背後から怒りながら歩いてくる者が。 8
2016-04-29 18:00:04「くそっ、天気が良すぎる。クソ暑いぞ、くそ、汗だらけだ、クソが!」 「あなたもアルコフリバスさんにご用かしら」 すると、その男は急に上機嫌になった。赤と黒の豪華なスーツを、クソ暑いのに几帳面に着こなしている。あごには山羊のような白い髭。オールバックの白髪。 9
2016-04-29 18:04:36「ワシに用かね? ワシがアルコフリバスだ、クソ客が!」 まるで虎のように笑う。メアレディはスカートをつまみ、一礼した。 「これは失礼しました。クソ客のメアレディです。クソ暑い日に、ご迷惑をお持ちしました」 そして彼女も笑ったのだった。 10
2016-04-29 18:09:35【用語解説】 【詰襟】 帝都の魔法使いの流派の一つ、五芒星派のスタイルである。学生服のような詰襟に、五芒星が縫われた白い手袋、同じく五芒星の縫われた帽子を被り、視界を垂れ布で遮る。女子はスカートにタイツやスパッツを履く。スタイルとしては秘密主義で穏健派が多い(例外も多い)
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