自然愛護モヒカン過激派と引退した戦士#2 黄金の麦畑◆1
_朝日が差す農場に……いや、いまや荒れ果てた元農場に重機の音がこだまする。丘の上に現れたのは、何台もの重機。モヒカンをセットした耳長族が、高所から元農場を見下ろす。 キリサは厚い瞼をゆっくりと開き、彼らを見上げた。身体を起こす力は無い。 「意地を張りすぎたかー」 31
2016-05-08 14:34:53_彼女の体中が悲鳴を上げていた。意地に付き合った身体は、もうついていけないと不平を言っている。 丘から重機がゆっくりと降りてくる。トラックの上には、大量の岩。昨日までの成果が、いま目の前で踏みにじられる。 32
2016-05-08 14:40:04_巨大なタイヤで踏み固められる土、ばら撒かれる砂利。巨大な岩がいくつも農場に運び込まれた。おまけに、木の苗を植樹までしている。 キリサはその様子を倒れたまま見ていた。彼女に昨日までの体力はなく、農地は昨日よりさらに野生へ近づく。 33
2016-05-08 14:47:26「おおおっ!?」 モヒカンたちがおののく。キリサがゆっくりと立ち上がったのだ。まるで朽ちた老木が倒れるのを逆再生したような、活力のない動き。 スキュラは凶悪な種族だ。戦闘能力では熊にも匹敵する。疲れ果てているとはいえ、モヒカンたちを恐れさせるのには十分。 34
2016-05-08 14:53:53_しかし、その暴力はモヒカンたちに向かわなかった。ゆっくりと歩き、一つの巨岩に狙いを定める。そして、力強く押し始めた。 岩をどかそうとしているのだ! モヒカンたちは露骨に不愉快な顔をして、銃を用意する。熊並みの体格も、銃はそれなりに痛い。 35
2016-05-08 15:00:37_発砲。 「ヒャッハー! 大自然回帰!」 銃弾はキリサの腰に当たり、血が噴き出す。岩を押すのをやめてうずくまるキリサ。モヒカンは反撃を警戒して、銃を持ち彼女を取り囲む。 スキュラの異常な体力によって、しばらくすると血が止まった。するとキリサは、また岩を押し始めた! 36
2016-05-08 15:06:01_執念と妄執を感じる背中を見ていたモヒカンたちは、気味悪がって帰り始める。 「行こうぜ、きっと農場を壊されておかしくなっちまったんだ」 そうかもしれないな、とキリサは心の中で思った。体力の低下は深刻で、目の前の岩一つ動かせず、日が暮れてしまう。 37
2016-05-08 15:12:46_今日も満天の星空がキリサの見つめる先に広がる。思い出したように食料の隠し場所に這っていき、味のしない粉のようなパンを食べた。静かに一人考える。 (苦しい、辛い。でもこれは愛する農場を壊されたからだ。農場を本当に愛しているから辛いんだー) 38
2016-05-08 15:19:19_ちっとも腹にたまらない夕食を食べた後、そのまま夜空を見ながら眠りに落ちた。 (嬉しい。好きなものを汚されて、踏みにじられて、本当に辛いのは、それだけ深く愛しているからだ。運命と結ばれた生き方だよ。どこまでも頑張れるよー) 眠りながら、小さく笑うキリサ。 39
2016-05-08 15:24:12_夢の中で、彼女は農場の続きを夢見ていた。どこまでも広がる麦畑だ。黄金に実り、おいしいパンを作る。誇らしい景色をいつまでも見ていたかった。 「お前の負けだ! 呪いめ! お前は夢を踏みにじったつもりだけど、俺の夢は変わらなかった! 何一つ、変わらなかったんだよー!」 40
2016-05-08 15:31:21【用語解説】 【熊】 灰土地域の大型獣には、洞窟熊と雪熊がいる。雪熊は主に北方に、洞窟熊は南方に分布する。巨大な体格と恐ろしい筋力、鋭い爪を持ち、一般人はおろか冒険者でさえも手を焼く存在。洞窟熊は人目を嫌って森の奥や洞窟に住むので被害は少ない。その肝は魔力を蓄積し、強壮効果がある
2016-05-08 15:36:54