イミルアの心臓 エピローグ(2016加筆修正版)
_昼下がり、忘却の街のカフェテリアでフィルとレッドは紅茶を飲む。市長が消え、街は騒がしくなっていた。痩せた犬が狂ったように吠えているが、それすらも喧騒に消える。人々の顔は晴れ渡り笑顔が溢れていた。フィルはくたびれたガイドブックをめくってはニヤニヤと笑っている。 111
2016-08-10 19:31:27_商店街には街を飾りつける店員。埃を被った屋台を引っ張りだすおじさん。暖かい日差しは冬の寒風を和らげていた。 「この街もすぐ観光客が訪れるようになるんだろうなぁ」 「喜ばしいことですね」 フィルの生返事。レッドはガイドブックを読んでばかりの彼を見るが視線が合わない。 112
2016-08-10 19:38:31_レッドはガイドブックを取り上げ、フィルを睨んでいった。 「もう次の観光を考えてるのか、この街だってまだまだだぜ」 「あはは、ごめんよ」 フィルは笑って紅茶を飲んだ。注文していた焼き立てのコヌミク・クッキーがやってくる。早速頂くレッド。香ばしいコヌミクの香り。 113
2016-08-10 19:45:09「しかし次の観光地は凄いとこですよ。赤の付箋のページ」 フィルはガイドブックを指差す。言われてレッドは目を通す。 「モスルートの黒い聖櫃か……そんなの……ん!? えっ、マジかよ」 フィルはその反応を楽しんでいるようだ。 「でしょ? 見たくなったでしょ?」 114
2016-08-10 19:50:44「こうしちゃいられない、フィル、さっさと行くぞ!」 「まぁ、ゆっくり行きましょう。レッドも言うように、まだまだこの街にも見どころがありますし」 フィルは後になって思う。この遺失物の館は決して過去を取り戻すだけのものではない。 115
2016-08-10 19:56:06_失われたものを取り戻すことで、そのひとに新しい一歩を歩ませる……そんな力に満ちている物だと。過去から未来までを見通しているような……そんな館。 「ゆっくり……旅を続けていこうじゃないですか」 116
2016-08-10 20:01:59【用語解説】 【忘却の街】 北壁山脈の麓にある小規模の都市国家。灰土地域の北方に位置する。草原が広がる冷涼とした場所にあり牧畜が盛んである。残念ながら寒すぎる故に作物は育ちづらく、農業には適さない。観光地としては有名ではなく財政は厳しい。資源にも乏しく、目立たない故に忘却とされた
2016-08-10 20:12:00【次回予告】 春という時期は憂鬱になる。毎年この時期になると若者たちが皆目を輝かせてやってくる。だが、そのうち何人かはすっかり目を曇らせて学校を去る……彼はどうだろうか? 次回「その魔法を空に向かって放て」 全50ツイート予定 実況・感想タグは #減衰世界 です
2016-08-10 20:15:25