【竹の子書房】設楽土筆単著「箱」

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設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi

@ts_pしかも錆びた赤い有刺鉄線が門の柵一面に張り巡らされている。  中をのぞくと重機が放置され、蔦や雑草が絡まっている。  一体どのくらいの期間ここは放置されているのだろうか。  しかし、考え込んでいる暇はなかった。葉子は意を決し、

2011-03-01 03:12:43
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@ts_pなるべく有刺鉄線がつかまないように柵を乗り越えた。スカートに棘が引っ掛かってびりびりと裂けても気にしなかった。  葉子は倉庫の敷地に入り、いきなり空気が変わったことに驚いた。  ねっとりとして重たい空気。生ごみの腐った臭いがかすかに漂っていた。

2011-03-01 03:13:08
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@ts_pそして、太陽がかんかんに照り付けているにもかかわらず、異様に寒い。少なくとも六月の気温ではなかった。  葉子は両腕を抱えるようにして辺りを見回した。倉庫といいつつ材木は一切置いていない。  事務所に使っていたであろう二階建てのプレハブがぽつんと敷地に建っていた。

2011-03-01 03:13:19
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@ts_p 歩き回ることなく、葉子は脳裏に浮かんだ柱のシルエットと同じものを見つけた。  門から入って左手奥に樹木がこんもりと茂っている。その木の根元に石でできた柱が、一メートル間隔で二本並んでいた。 「あった……」  おそらくあるだろうと確信していたが、

2011-03-01 03:13:42
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@ts_p実際に目にすると驚きが全身を走った。  笠木の部分は塚のそばに放置された重機の足元に転がっていた。壊そうとしてそのまま操縦者が逃げだしたような格好で重機は停止していた。  葉子はゆっくりと塚に近寄って行った。  塚で何をするのか全く考えていなかった。

2011-03-01 03:14:05
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@ts_pとにかく塚に行かなければという思いが頭を占めていた。  葉子は塚の前に立ち、鳥居だった二本の柱をくぐった。  辺りが一段と暗くなった。それまで聞こえていた蝉の声もしなくなった。  木の根元に石を積んで作った小さな祠があった。なにも飾っていない。苔すら生えていない石は、

2011-03-01 03:14:15
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@ts_p不気味なほど滑らかだった。  何か考えがあったわけではない。葉子は塚を手で崩した。石は簡単にばらばらと地面に崩れていく。  それから、木の根元を手で掘り始めた。ぬかるんだ土は思ったより軟らかかった。  塚の下に何かあるのだという確信めいた思いがあった。

2011-03-01 03:14:25
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@ts_p 爪の中に土が食い込み、指先に痛みが走る。素手で何十センチも掘れるわけがなかった。  その時、突然ポケットの中の携帯電話が鳴った。  葉子ははっと我に返り、急いで携帯電話を取り出した。小西の名前が表示されている。あわてて時間を確認すると、すでに四時を回っていた。

2011-03-01 03:14:40
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@ts_p 小西に知らせていなかったことを悔やみながら、葉子は携帯電話を耳に当てた。 「もしもし、先輩?」  しかし、ノイズの交じった雑音と暴風のような騒音がひどくて小西の声がまったく聞き取れない。 「先輩? あの、聞こえないんですけど」

2011-03-01 03:15:05
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@ts_p 騒音の向こうで何か喋っているということはわかるが、やはり聞き取れない。 「もしもし?」  葉子は声を聞き取ろうと、携帯電話を当てた耳に神経を集中させた。 「……なた……と……け……」  やっと相手の声が辛うじて聞こえた。どうも女のようだった。

2011-03-01 03:15:48
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@ts_p 葉子は小西からの着信で女の声がしたことに驚き、携帯電話の音に耳を澄ませた。  葉子がもう一度小西に話しかけようとした時、はっきりとした声がした。 「ねえ……」  声は足元からした。  葉子はしゃがんだ足首を誰かがつかんでいることに気付いた。 「ねぇ……」

2011-03-01 03:16:02
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@ts_p 葉子はゆっくりと視線を自分の足元に移した。  青白い女の顔があった。唇だけが血のように紅い。  女の手が葉子の掘った穴からにょっきりと突出し、半分埋まった首が小刻みに横に動いている。徐々に土の中から女が生えてくるのが分かる。  葉子は声も出せず、

2011-03-01 03:16:16
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@ts_p耳に携帯電話をあてたまま女の顔を凝視していた。  女はもはや上半身を地面から現わして、顔をグイっと葉子に近づけたまま、彼女の肩をつかんでいた。  地面から現れた女の白い和服には土の汚れは微塵も付いていなかった。  いつの間にか、女と葉子は立っていた。

2011-03-01 03:16:26
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@ts_pざわざわと恐怖感が足元から這い上がってくる。身動きひとつ取れなかった。  葉子は目の前の女が静子だと直感した。  女の足元におびただしい血が零れ落ち、その真っ赤な血だまりから人間の胎児が小蟲のように湧き出してくる。うじゃうじゃと大量に現れ、

2011-03-01 03:16:48
設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi

@ts_p女と葉子の足元を埋め尽くしていく。  葉子の脳裏に忘れ去っていた夢の内容が思い起こされる。かすかに静子の呪いの全貌を垣間見た気がした。葉子は喉を振り絞って例の言葉を吐き出した。 「と、遠山静子、遠山静子、遠山静子……!」

2011-03-01 03:17:04
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@ts_p 舌先がしびれ、これ以上声が出せない。全身から血液が流れ出て行くような寒気が這い上がってくる。  何も変わらない。  静子は血に染まった小袖から鮮血を滴らせている。真っ赤な唇を吊り上げてうれしそうに微笑んでいる。  葉子を包む周りの全てが血に塗れた肉色に染まった。

2011-03-01 03:17:25
設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi

@ts_p葉子の足に小さな胎児の群れがすがりつき、小さな口をあけ、似つかわしくない牙の並んだ顎で葉子の肌に食らいつく。胎児だけでない。小さな赤子の体の老婆や若い男、中年の女。首だけすげ替えられた歪な胎児が血溜まりから湧き出して、次々と葉子の体にすがりつく。

2011-03-01 03:17:36
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@ts_p 葉子は恐怖に凍りつく瞳で静子を凝視した。 「……あなたにお届けものですよ……」  静子は葉子にそう言った。  (改行3) 「昨夜未明、福岡県福岡市東区K産業大学大学院の学生、小西樹(こにし いつき)さん(二十二歳)が首をつっているところを近所の住民が発見、

2011-03-01 03:18:00
設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi

@ts_p通報しました」 「現在、遺書などを探していますが見つかっていません」 「福岡県若宮市の私有地にて女性の遺体が発見されました。死後二週間たっており、現在県警で死因他身元を究明しています」    (改行3)    了

2011-03-01 03:18:26
@kurorororo1101

@shitaratsukushi 設楽さんこんばんは! 一応「箱」の表紙が完成しました。これで大丈夫でしょうか?。http://t.co/M9KGaeq

2011-03-08 19:29:59
設楽土筆@再開/移転中 @shitaratsukushi

@ts_p @kurorororo1101 こわい>< すごいいいです!ありがとうございます!

2011-03-08 20:36:45
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