ジョセフ・S・ナイの新著、"The Future of Power"及び彼のスマートパワー論について

標題どおり。米国衰退論と中国台頭論に対するアンチテーゼの内容を含む。
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fj197099 @fj197099

Joseph S. Nyeが2/1に出した新刊、The Future of Power(Public Affairs, 2011)を読むべきだと思っているが、時間が採れるか余り自信がない…。だが昨年日本に来たナイの講演でその概要は述べていたので、内容は大体の推測が付く。

2011-02-16 21:38:37
fj197099 @fj197099

基本は米国衰退論に対する反論である。数年前に米国国家情報会議(NIC)が"Global Trends 2025"(http://bit.ly/b6dIcr)という米国衰退論と世界多極化論を正面からぶち上げた報告書を公表したことで、米国単極の時代はもはや終わりとの風潮が強まった。

2011-02-16 21:41:13
fj197099 @fj197099

この報告書は『グローバル・トレンド2025』の邦題で訳も出ているから関心ある人は読めば良いと思うが、これが強調していたのは経済力の変化である。平たく言えば世界金融危機以後、米国の優位性は低下し中国インド等のBRICs諸国の影響力が強まった。G7からG20へのパワーシフトも起きた。

2011-02-16 21:43:34
fj197099 @fj197099

経済力の観点から米国の相対的な地位低下を主張することが間違いだとは言わないが、それが米国の「覇権の終焉」とか世界の「多極化」だと言うと話がやや飛躍し過ぎである。経済力とは所詮はパワーの一要素に過ぎないからだ。ハードパワーたる軍事力やソフトパワーたる力の行使の正統性等の視点もある。

2011-02-16 21:47:51
fj197099 @fj197099

昨今の米中「権力移行(power transition)」論で専ら注目されているのは経済力の観点であるが、軍事力の観点から見れば当分の間、米国は少なくともグローバルな次元での優位を維持し続ける。ソフトパワーの観点では殆ど対決にならない。中国では力の行使の作法が洗練されていない。

2011-02-16 21:50:50
fj197099 @fj197099

本当は経済力でも中国が米国に追いつくかに見えるのは遙か先の話になるのだが、要するに中国は軍事・経済のハードパワーでまだ米国に追いついていないばかりか、ソフトパワー面では遙かに劣った段階にあるに過ぎないのである。仮に前者を高めても、後者が劣ったままではパワーを有効に行使できない。

2011-02-16 21:53:55
fj197099 @fj197099

ナイは最近、「スマートパワー」の重要性を強調しているが(2007年のアーミテージとの報告書→http://bit.ly/hQBrN9)結局、パワーとは軍事力・経済力のような物理的なものばかりではないのである。それは力をどう正統に行使するかという非物質的な話と切り離せないのである。

2011-02-16 21:56:56
fj197099 @fj197099

昨年一年間の動向を見れば、中国はこの点、落第点を取ったと言ってよい。中国は「核心的利益」の名の下に南シナ海での拡張主義を正当化しようとしたが、実際には米国を中心とする東南アジア諸国の結束にそれを阻まれた。物理的なパワーがあってもそれを有効かつ「正統に」行使できていない典型である。

2011-02-16 21:58:14
fj197099 @fj197099

黄海では北朝鮮の哨戒艦撃沈事件に端を発する米韓の合同演習を阻止しようとしたが、一度はそれに成功したものの(7月)、リベンジを誓った米韓に結局その試みは阻まれた(11月末の演習)。中国の排他的経済水域では他国の軍事演習を許さない、という国連海洋法条約を無視した横暴の結果であった。

2011-02-16 22:00:40
fj197099 @fj197099

東シナ海では同様に尖閣沖漁船衝突事件に端を発するレアアース禁輸の問題で国際的に非難を浴びた。WTOに加盟する中国がこういう行動を採ることは国際法上の違法行為であった。戦略資源で一方的に禁輸措置を採る中国の態度は諸外国から横暴とみなされ、国際的な警戒の対象となった。これも又失敗だ。

2011-02-16 22:02:28
fj197099 @fj197099

このように中国は確かに物理的なパワーを向上させつつあるものの、それを自国が望む政治上の帰結に有効に結び付けられていない。力の行使のあり方が余りにも諸外国からみて横暴・非正統なものであるが故に、結局はバランシングされ対抗連合を結成されている。これが中国最大の弱点であると言ってよい。

2011-02-16 22:04:03
fj197099 @fj197099

毛沢東はかつて「権力は銃口から生まれる」と語ったが、これが余りにも単純化された権力観であることは言うまでもない。しかしパワーを経済のみで考えるなら、誰が毛沢東の権力観を笑うことが出来ようか。それは結局、「権力はGDP成長率から生まれる」と言っているに過ぎないのだから。

2011-02-16 22:06:54
fj197099 @fj197099

権力はそんな単純なものではなく、物質的かつ非物質的な要素を総合的に勘案して考慮すべきものだ。その意味でナイの「スマートパワー」論は言葉は曖昧であるとしても、正しい。そこから生まれる含意は、米国の衰退を過剰評価すべきではなく、中国の直面する問題を過小評価すべきでもないということだ。

2011-02-16 22:08:39
fj197099 @fj197099

よってナイはThe Future of Powerでそのようなことを書いているのであろう。彼は20年前のBound to Lead(『不滅の大国アメリカ』)から同じことを言い続けている気がする。米国衰退論は飽きることもなく繰り替えされるのだが、それに対する反駁も常に行われるのだ。

2011-02-16 22:10:10